「まち むら」129号掲載
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阪神・淡路大震災の教訓活かした防災の町づくり
兵庫県神戸市西区 井吹東ふれあいのまちづくり協議会
 神戸市の西南部に位置する井吹台地区は、平成5年にまち開きしたニュータウンで、高齢化が進む東町と新興地で子育て世代を中心に若年層が多く住む北町からなり、約6400世帯2万9000人が暮らしている。
 兵庫県淡路島北部を震源にマグニチュード7.3を記録した平成7年1月の阪神・淡路大震災の発生を機に、他地域からの被災者を受け入れる仮設住宅や復興住宅群が地区周辺に建設された。住民の中で被災者への支援活動が活発化するなか平成10年に、自治会・管理組合、民生委員児童委員協議会など主要な地域団体でつくる井吹東ふれあいのまちづくり協議会が設立され、総合的なまちづくり活動が始まった。
 中でも、「地域から一人も犠牲者を出さない」を合言葉に、大震災の経験と教訓を活かした防災活動が活発に展開されている。行政と連携しつつ企画から運営までを住民主体で実施するのが特徴で、市内の先導的モデルとして注目を集める。

地域総合防災訓練

 地域の防災力を高めようと、同協議会の構成団体の自治会連合会が主体となり毎年12月、自治会役員が災害時の初動対応を体験する「地域総合防災訓練」を地区の小学校のグラウンドで実施している。
 約200人からなる参加者を数グループに分け、防災倉庫の資機材紹介や消火器を使った消火、校内の消火栓と応急給水栓を開いての放水や給水のほか、各種救急救命処置などを順次実践する。
 同協議会の坂本津留代委員長は、「消防職員に頼った訓練をする中で、参加者から『実際の災害時に職員の手を借りられるとは限らない。住民自身が活動できる内容にすべきではないか』との声が上がりました。以後、職員の派遣依頼は最小限にし、自治会役員が各訓練の運営を担当する形式に。担当役員へは参加者に指導できるよう事前研修を開き、操作方法などを身に付けてもらっています」と自主性に重点を置いた取り組みと工夫を語る。
 訓練には、一般住民のほか市民救命士からなる救急講習団体「FASTいぶき」や、小中学生でつくる地域活動チーム「井吹台ジュニア防災チーム」のメンバーも講師役や体験で参加。様々な主体が参加する訓練を積み重ねることで、いざという時の裾野の広い支援活動につなげるとともに、次代に防災意識を受け継ぐことをめざす。

福祉避難訓練

 同大震災では、高齢者や障がい者、乳幼児を抱える世帯をはじめとする要援護者が、体育館など一般の避難所の環境が原因で健康を損ねたり、他の避難者への遠慮から利用を諦めるなどの事例が相次いだ。
 これらの経験を活かすため協議会では、会の活動拠点で、市から運営管理を受託する地域福祉センターを平成21年、市に要請して災害時の要援護者避難所として指定を受けた。以後毎年1月、センターを会場に要援護者を対象にした「福祉避難訓練」を実施している。
 民生委員児童委員と介護施設、NPOなどが役割を分担し、対象者の見回り、誘導、健康チェックや非常食の提供などを訓練する。
 行政や関係団体への各種連絡や、自立歩行が困難な人を移送する車両の運行も試行する。「介護が必要な高齢者」「聴覚に障がいをもつ人」など毎回重点項目を変えることで、広域的な課題の把握と改善につなげる。
 坂本さんは、「大震災を経験した町だからこそ、災害弱者に目を向けた防災活動に取り組むべきだと思っています」と方針を語る。

災害時避難者登録制度

 要援護者の把握は、民生委員児童委員が平時から関係団体と連携するなどして取り組んでいるほか、センターが福祉避難所であることの周知と並行して当事者からの自己申告制で努めているが、より体系だった仕組みをつくろうと平成25年2月から「災害時避難者登録制度」を実施している。
 単位自治会を通して全世帯に、災害時に支援が必要な人の有無を確認するアンケートを実施し、回答を基に対象者の情報を色分けして落とし込んだ地図「災害時避難者登録マップ」を作成する。災害時は、同委員や自治会役員らがマップをもとに登録者宅を訪問し、安否確認と避難誘導、救助要請などを行う仕組みだ。
 子育て世帯が多いことを踏まえ、要援護者の対象には2人以上の乳幼児や妊婦を抱える世帯を加えた。さらに、災害時にボランティアとして協力してくれる人の有無も併せて確認する。
 また、個人情報の保護対策として、管理体制を明確化したほか回答用紙は、専用封筒での郵送と担当者を配置した上でのセンターへの直接持参の二つの方法で受け付ける。
 この結果、初年度には当初の想定を大きく上回る約1500世帯(全世帯の約4分の1)から回答が寄せられ、26年度から、回答をもとに訪問訓練を開始した。
 新しい情報を把握するためアンケートは毎年実施し、その都度内容を更新する。今後は引き続き制度の周知に努め、より多くの登録をめざす。

ありがとうを伝える

 井吹台では平成26年の夏にはじめて、地域の夏祭り「井吹台きらきら祭り」を開催した。小学校のグラウンドを会場に、手作りのやぐらを組み立て地域団体が食べ物などの模擬店を並べたほか、和太鼓演奏や司会などは子どもたちが担当。親子連れをはじめ住民ら約700人が楽しんだ。坂本さんは、「これまで必要性の高い活動を優先してきましたが、20年かかってやっとお祭りに手を出すことができました」と喜びに目を細め、「活躍できる場や町づくりに参画する機会を子どもたちにつくることで、『ここが故郷』『この町に帰って来たい』と思ってもらえれば」と話す。
 続けて、「大震災の時に多くの人々から支えられたことを忘れてはいけません。支えていただいたからこそ頑張ることができたということを、私たちの町づくりできちんと現すことが恩返しだと思っています」と活動を支える思いを語る。
 そして、「ボランティアに来てくださった人たちに、『頑張りましたね』『良い町になりましたね』と言ってもらえることを目標に、これからも取り組んでいきます」と力を込める。