「まち むら」129号掲載
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高台団地の超高齢化に、団結して取り組む淞北台団地の人々
島根県松江市 淞北台いきいきライフを推進する会
 全国屈指の夕景を誇る宍道湖と開府400年の歴史を刻む松江城がシンボルの松江市は、人口約20万5000人の特例市だ。市内の29地区に分かれ、住民活動が活発に展開されている。その一つ、城北地区の高台団地の高齢者福祉活動に、今、全国から注目が集まっている。

住民による住民のための高齢者福祉対策

 城北地区は字の通り城の北に位置し、城下町の風情漂う静かな住環境に約7600人が暮らしている。その内の約1300人が、昭和40年代半ばに造成された淞北台(しょうほくだい)団地の住民だ。「ここは、島根県住宅供給公社が、当時の勤労者向け住宅団地として戸建て住宅と集合住宅を300戸ずつ、計600戸造成した団地です。マイホームの夢が叶うということで、30代から40代前半の年齢層の夫婦を中心に、抽選になる人気でした」当時を語るのは、城北地区社会福祉協議会会長高橋博さん。造成当初からの住人だ。
 現在、団地は戸建て住宅の住民と、島根大学の留学生とその家族を含む県営集合住宅の住民が一つの自治体に加入し、連携と協力のもとに運営されている。
 住居形態の異なる住民が同じ自治会で40数年継続してきた背景には、過去の教訓がある。昭和48年の6月から8月まで、松江は大干ばつに見舞われた。高低差が35メートルある淞北台団地は40日間、給水不可能となり渇水が続いた。自衛隊が1日1世帯300リットルの給水を行ったのだが、家族構成によっては足りない家庭もあった。そのとき、戸建ても集合住宅も関係なく住民同士が譲り合い助け合ってピンチを乗り切ったという。「あの経験が団地全体の結束を固くし、今に受け継がれている互助の精神の下地になったと思います」と、高橋さんは振り返る。
 それから約40年。当時の入居者は70歳から80歳代に達した。団地の高齢化問題は平成10年頃から顕著になり、自治会の最重要課題として同12年に「高齢者福祉施策検討委員会」が発足された。同会で10年後、15年後を見据えた対応策が徹底的に論議され、翌13年、民生児童委員、福祉推進委員を中心に、自治会役員、老人クラブ、諸活動グループの代表ら30名(現43名)が連携・協力して、自治会の高齢者福祉部門を分担する住民組織「淞北台いきいきライフを推進する会(高橋博会長)」(以下、いきいきライフを推進する会)が誕生。行政に頼るのではなく、住民主体の福祉体制がスタートした。

「いきいきライフを推進する会」の事業展開

 「いきいきライフを推進する会」は、平成13年4月、住民の実態調査を行った。そこから高齢化率は23パーセント、その内の75パーセントが前期高齢者(65〜74歳)ということが分かり、「今なら、元気に老いていける」という手ごたえを持つ。
 また、高齢者が日常生活で困っていることも浮き彫りにされた。団地の坂道、普段の買い物、バス便の不便さが上位を占め、加齢に伴い家に引きこもりがちになることが懸念された。そうした実態から、住民の自立生活を支援するための活動の内容が徐々に形を成していった。
 まず、外出が面倒になりがちな高齢者に、少しでも外に出ていろいろな人とふれ合う機会を持ってもらおうと、「生きがいづくり事業」に取り組んだ。囲碁、陶芸、歴史、健康体操、カラオケ、ペタンク、男の料理教室などの趣味教室・同好会の開催だ。趣味教室は、参加しやすくするために種類を多く設け、講師は、主に団地の住民に依頼した。今では18種類の趣味教室が開かれ、平成26年現在で232名の参加登録数があるという。
 また、団地住民の健康に関しての講座「いきいき健康講座」が平成18年から2ヶ月に1度開催されている。テーマは高齢者の保健、医療、認知症、介護に関するものが中心で、講師は市内の病院の医師や看護師、栄養士、歯科衛生士、健康運動指導士など。これまでに「寝たきりにならない〜老いても元気に地域で暮らす〜」「介護保険改正のポイント」など、すでに52回(平成26年9月現在)を数え、参加者は毎回50名から60名という。

民間の外部団体との連携

 「いきいきライフを推進する会」が自立して活動ができるようになると、平成18年には自治会や老人クラブ、福祉推進委員などで代表福祉連絡会を発足させ、外部福祉団体との連携を図っていった。
 同19年に行われた第2回実態調査では、高齢化率は32パーセント、その内前期高齢者が約60パーセント、中期(75〜84歳)・後期(85歳以上)高齢者が40パーセントとなり、空き家が増加、過疎化と少子高齢化現象が顕著になり始めた。
 そこで、新たな課題や多様化したニーズに応えるために設立されたのが松江市の社会福祉協議会、城北地区福祉協議会、松江保健センターなど7団体で組織された「淞北台福祉ネットワーク会議」だ。このとき特に注目されたのは、「生活協同組合しまね」の独立事業「助け合い制度」の利用だ。本来は組合員のみの支援活動だが、そこを全国で初めて、団地の高齢者の誰でもが利用できるよう加入者の枠を外してもらうよう交渉。家事の援助や庭の除草など、年々利用が増加しているという。

課題は次の世代への継承

 淞北台団地の高齢化率は平成24年の調査で37パーセントに達したことが明らかになった。その内、中・後期高齢者が約60パーセントを占める。80歳を超える一人暮らしは130人。安否確認を16名の福祉推進委員が行っている。事業内容も年齢層に合わせ、80歳以上の高齢者に「夢楽の会」と称し食事と誕生会を開催。映画の無料上映会、女性ボランティアグループによる「ふれあい喫茶」が毎月開かれている。「これまで参加のなかった方が顔を見せてくださるようになり、笑顔で話されるのを見ると、とても嬉しいですね」と、50代から70代の女性ボランティア。こうした直接的なふれ合いが、そこに住む人々の幸せ感に影響している。
 現在、「いきいきライフを推進する会」の総事業数は25を数える。これまでの活動とその成果が認められ、平成26年12月、読売新聞福祉文化賞「高齢者福祉部門」で全国表彰を受けた。
 数年後には後期高齢者がさらに増加し団地は超高齢化時代を迎える。今後、個別支援も多様化されるだろう。災害時の対応や備えも必要だ。関係スタッフの高齢化が懸念されるなか、「一つずつ積み上げてきた福祉体制や事業を、次の世代にスムーズにバトンタッチすることが課題」と、高橋会長は先を見据える。