「まち むら」127号掲載 |
ル ポ |
住民手づくりのプログラムで高齢者等の交流を促進 |
神奈川県横浜市戸塚区 特定非営利活動法人いこいの家 夢みん |
横浜市戸塚区の俣野町と深谷町に広がる大規模中高層団地「ドリームハイツ」では、地域住民によって組織された「特定非営利活動(NPO)法人いこいの家
夢みん(むーみん)」が高齢者などを対象に様々なプログラムによる交流活動を行っている。住み慣れた地域でいきいきと暮らせるように団地内に開設し、住民同士の談話室として始まった活動は19年目を迎えた。今年4月からは新たな拠点に移り、交流の幅をさらに広げている。 住民主体で地域課題を解決 ドリームハイツは、神奈川県と横浜市の住宅供給公社が整備した8階〜14階建て23棟2270戸の分譲型団地で、1972年に入居を開始した。ピーク時の入居者は1万人に上ったが、その後、世帯構成の変化などに伴って減少し、現在、約5000人が暮らしている。 入居開始当初は生活インフラが整っておらず、公共の保育・教育施設は幼稚園1園と小学校が1校あるだけであった。そこで、入居者同士で「すぎのこ会」を組織して自主保育に着手。その後、学童保育クラブや手づくりの保育園などを開設し、団地住民主体で子育て活動を展開してきた。1990年代に入ると、団地全体の高齢化に伴う住民ニーズに応えるため、「ドリーム地域給食の会」を組織して高齢者向けの食事サービスを開始したのをはじめ、住民相互による会員制の家事支援活動にも取り組むようになる。家事支援活動はその後、介護保険事業を行うNPO法人「ふれあいドリーム」へと発展していった。 「入居当初から住民の活動が盛んで、自主保育や高齢者向け給食活動など生活に密着した問題を自分たちで解決しようと努めてきました。そして、住民の高齢化が進む中で、日中ひとりで淋しい、誰かとおしゃべりしたいという声が聞かれるようになりました。そこで、地域住民が利用者やボランティアとして関わり集える高齢者のための居場所として交流サロンをつくることになったのです」と「夢みん」理事長の松本和子さんは振り返る。 「地域給食の会」や「ふれあいドリーム」のメンバーが中心となって1995年に準備会を発足。地域のニーズ調査やサービス拠点探しなどを行い、1996年に団地内の1階4LDKの住居を賃借して「いこいの家 夢みん」を開設した。 介護予防に多彩なプログラムを展開 「夢みん」は月曜から土曜の午前10時〜午後5時にオープン。自由に参加しておしゃべりを楽しんでもらう談話室(交流サロン)を中心に、火曜にミニデイサービス、木曜にボランティアが手づくりの食事を提供する木曜昼食などのプログラムを開始した。 会員・会費制ではなく、プログラムごとに利用料を払う仕組みにし、誰でも自由に利用できるようにしたのが特徴だ。18人が運営委員となり、50人くらいの地域住民がボランティアのスタッフとして活動を展開した。活動資金の確保に向けては、活動開始直後に「支える会」を発足。年間1口2000円で会員を募集し、運営を支えてもらっている。 1997年には貸主の要望もあって拠点を2100万円で購入することになり、銀行借入金600万円と住民有志からの借り入れ1500万円で取得した。 「支える会の会員は約200人で、年間40万円近くの支援金を確保しています。借入金については、民間助成財団からの助成金や支える会の会費、イベント・バザー等の収益などで、まず銀行からの借入金を返済。続いて、資金提供してくれた有志のうち、高額な順に返済し、現在の借入残高は約400万円までになりました」と事務局長の深石晟さん。 2000年にはNPO法人の認証を取得。また、横浜市の委託を受けて、介護予防型の通所事業を開始した。それに伴って65歳以上を対象に、パソコン教室、土曜カルチャースクール、金曜囲碁、月曜喫茶室、コーラス、筋力アップ体操など、プログラムの充実を図った。 市委託の介護予防事業は2006年度に終了となったが、介護予防活動は必要との判断から、50歳以上を対象に交流サロンや様々なプログラムを継続。その後も、神奈川県や横浜市、戸塚区の「脳力向上プログラム」「健康ライフ講座」「すまいまちづくり担い手養成講座」などの受託事業や、企業・市民セクターよこはまとの協働による「認知症プロジェクト」など活発な活動を展開してきた。2013年度のスタッフ等も含めた利用者は7422人で、1日平均25人が利用。顔ぶれは男性177人、女性279人の計456人に上っている。 新拠点で交流の幅を広げる さらに「夢みん」は、利用者増に伴う近隣住民の生活環境保全への配慮と新たな利用者の掘り起こしをねらいに、団地外に拠点を移すことを検討。団地に隣接する場所の空き店舗を賃借し、今年4月から新拠点でサービスを開始した。 「新拠点への移転を機に『コミュニティーカフェ夢みん』とネーミングし、子どもからお年寄りまで誰でも気軽に利用できるようにしました。外から中の様子が分かるので入りやすくなり、利用者の幅も広がっています」と運営委員代表を務める伊藤真知子さんは話す。 月曜から土曜の午前10時〜午後4時に開設し、歌声喫茶やパソコン教室、トーンチャイム、エコ手芸、コーラス、健康体操、健康麻雀、囲碁、カルチャーサロンなどを実施。参加費はプログラムに応じて200円〜1000円としている。 課題はスタッフの世代交代 「夢みん」には専従職員はおらず、すべてボランティアの手によって運営されている。現在、6人の理事・監事が全体の運営を担い、7人の運営委員が当番制で毎日のプログラム運営に当たるとともに毎月1回の運営委員会で運営についての話し合いを行っている。また、約50人のボランティアがプログラムの補佐やお茶出し、広報物の掲示などに当たっている。 活動を開始してから19年目を迎え、地域の交流拠点として住民から愛されている「夢みん」の課題のひとつは、スタッフやボランティアの確保だという。 「60代後半から70代中心の運営委員の世代交代が当面の課題。きちんと報酬を支払える体制にすることも目標です。会の活動も熟年期を迎えており、地域の高齢化に伴ってその役割は介護予防から、より切実な問題への対応へと変化しています」と伊藤さん。例えば、独居高齢者の孤立などが大きな問題になってきているという。「独り暮らし高齢者の見守りを行うグループも誕生していますが、『夢みん』では利用者の顔ぶれが分かっているので、顔を見せなくなったら連絡するなど、見守りの一翼も担っています」 また、松本さんは、今後の活動の方向性について次のように語る。 「私たちの地域では、『夢みん』だけでなく、様々なグループがそれぞれの役割を担って活動しています。その中で、足りないことやこれから必要になることなどの課題がみえてきました。例えば、介護と医療の連携や障がい児の居場所づくりなどの必要性も高まっています。高齢者だけでなく、子どもも若い人も一緒にいきいきと暮らせる地域にしていかなければなりません。そのため、様々な活動が行われ、世代を越えた交流が生まれる複合拠点ができないか。『夢みん』がそのひとつの核になれればと思っています」 地域が抱える課題が大きく変化する中で、「夢みん」の活動はさらに進化しようとしている。 |