「まち むら」124号掲載 |
ル ポ |
地域をしあわせにする太陽光発電 |
徳島県徳島市 一般社団法人徳島地域エネルギー |
市民主導のメガソーラー 南向きのゆるやかな傾斜地は、見渡すかぎり太陽光パネルで埋められている。徳島県北西部の美馬市に建設された美馬ソーラーバレイ発電所の設備容量は1189キロワット(1.189メガワット)。1000キロワットを超えるメガソーラーだ。 総事業費が3億5000万円にものぼるこの発電所は、再生可能エネルギーの普及をめざす一般社団法人徳島地域エネルギーが主体となって計画された。地域エネはまず、プロジェクトの事業主体となる株式会社美馬ソーラーバレイを設立。1口50万円の少人数私募債による49人の市民からの出資、徳島県の補助金、県内の金融機関からの融資で資金を調達し、県内の企業が建設した。 「平成24年12月に稼働しましたが、一般家庭350世帯分と想定していた発電量は予想より30%も上回っています」 地域エネ常務理事の羽里信和さんは、こう胸を張る。土地を所有する建設会社はこの成功にならい、隣接地に1328キロワットの太陽光発電所を建設。かつての資材置き場は、文字どおりソーラーバレイへと変貌した。合わせて2517キロワットのパネルは、秋を迎えてもなお照りつける強い日差しと、再生可能エネルギーの普及を願う市民の熱い期待を受けて、静かに電力を生み出している。 地域の利益を考え抜いた末に 24年7月に始まった固定価格買い取り制度は、再生可能エネルギーを飛躍的に成長させた。それまで約2000万キロワットにすぎなかった設備容量は、制度開始からわずか10か月の5月までに2237万キロワットが認定され、このうち336万キロワットが運転を開始した。その9割を太陽光発電が占める。 ビジネスとして成り立つようになった太陽光発電には、資本力のある大企業の参入が相次ぐ。だが、地域の資源である太陽光が生む売電収入は大企業のある都市に流れ、地域にはわずかな土地使用料などが入るにすぎない。これに対して徳島地域エネルギーは、地域の人々が、地域のエネルギー資源を、地域の資金と技術で建設し、利益は地域に再投資される事業をめざす。 美馬ソーラーバレイはその第一号だ。だが、1口50万円の出資は負担が大きく、多くの人が参加できない。かといって、少額にすれば事務経費がかさむ。そこで、多くの人が気軽に参加でき、地域振興にもなるしくみとして打ち出したのが「コミュニティー・ハッピー・ソーラー」、地域がしあわせになる太陽光発電だ。発案した事務局長の豊岡和美さんは次のように説明する。 「売電収入で地域の農産物を購入し、1口1万円の寄付をした人たちに送ることで地域農業を支え、その後は地域に必要なもののために使い、売電契約が終わる20年後には設備を地域に譲渡するというもの。私たちは設備の管理をすることで利益を出す。少しずつ負担を分かち合うことで、みんながハッピーになるしくみです」 第一号は佐那河内村に その初めての発電所が徳島市に隣接する県内唯一の村、佐那河内村(さなごうちそん)に建設される。徳島地域エネルギーでは、25年6月に、事業主体となる株式会社佐那河内みつばちソーラー発電所を設立。トンネルの掘削土置き場にしている村有地に、26年3月をめどに120キロワットの発電所を建設する。事業費3250万円のうち300万円は1口1万円で寄付金を集め、残りは地元金融機関から借り入れる。 同社は売電収入のなかから村内の農産物を購入し、運転開始の2年目から寄付した人に5回ほど農産物を送ることによって農業振興につなげる。そのため、寄付した人は、再生可能エネルギーの普及と地域農業の振興という理念を実現させながら、農産物という実利も手にすることができる。 佐那河内村は、江戸時代には徳島藩を治める蜂須賀家への献上米の、現在は米やすだち、村内でのみ栽培される高級いちご「ももいちご」の産地として知られる。しかし、高齢化と後継者不足は、長い歳月をかけて築かれた棚田を休耕地に変えている。そのため、地元では農業振興につながる太陽光発電への期待がふくらんでいるとして、原仁志村長は次のように語る。 「みつばちソーラーは、再生可能エネルギーの生産を通して農業生産を高めるすばらしい取り組みです。小さな経済の循環を通して、高齢化する農業者を応援し、遊休農地を減少させることにもつながります」 広がれ! 市民ソーラー 徳島地域エネルギーのスタッフは、このしくみを県内各地に広げるために奔走している。遊休地の有効利用にもなるため、各地で歓迎されている一例を豊岡さんが紹介してくれた。 「阿波市の予定地は80代の夫妻の農地です。代々受け継いだ農地を地域のために使うことで守っていける、草刈りもしてもらえてありがたいと、涙を流して喜んでくれました」 そのため現在までに那賀町、牟岐町、勝浦町、上勝町、吉野川市、阿波市で計画が進み、鳴門市では商工会議所が独自に取り組み始めた。このうち那賀町の「ゆずの里発電所」への寄付者には特産のゆずや加工品を、牟岐町の「牟岐・海のソーラー発電所」への寄付者には海産物を送るなど、発電が地域振興になるしかけが組み込まれている。さらに、地域振興のかたちは地域の数だけ考えられると、羽里さんは話す。 「このしくみは緊急医療やITなどの支援にも使える。さまざまな場所で地域が必要とする目的別の支援メニューを増やしていくことができます」 過疎化と高齢化が進む農山漁村が、恵まれたエネルギーを生かして環境と経済がともに持続可能な地域に変えるコミュニティー・ハッピー・ソーラーは、県内全域に広がろうとしている。 |