「まち むら」121号掲載
ル ポ

市民活動センターを拠点に「協働のまちづくり」をサポート
岡山県井原市 NPO法人市民交流ネットワーク井原
 平成17年に開設した岡山県井原市の駅前通りにある井原市市民活動センター(愛称・つどえ〜る)は、「協働のまちづくり」の推進拠点施設だ。1階には交流やミーティング、パソコン、展示、作業などの各コーナー、2階には会議室があり、パソコン講座などの各種講座、研修、セミナー、講演会などに幅広く活用されている。またNPO、ボランティア、文化交流などの幅広い分野の団体の活動拠点ともなっている。
 平成20年度からセンターの指定管理者に選定されたNPO法人「市民交流ネットワーク井原」(大坪正廣理事長)が施設の管理、運営に当たり、さまざまな中間支援を行って協働のまちづくりをサポートしている。


指定管理者制度の導入を機に法人設立

 NPO法人市民交流ネットワーク井原と井原市市民活動センターのつながりは、センターの2階に倉掛公民館が設けられたことに始まるという。
 センターが位置する倉掛地区は、井原市の市街地の中心にあり、約240世帯の自治会加入数を抱えていたが、長年自治会活動の拠点となる自治会館(公民館)がなかった。平成16年、市が元信用組合の土地建物を買い取り、市民活動センターとしてよみがえらせるとの情報を得た自治会は、市にかけあって建物の2階の2室を有料で借り受け、翌17年4月、センター開設と同時に倉掛公民館をオープンした。
 「センターに入居してみると、指定管理者制度を取り入れれば、ここをもっと有効利用できるのではないかと思うようになりました。平成19年に市がセンターに指定管理者制度の導入を決めた際、私たちはセンターのこともよく知っていましたし、地元への思いもあり、倉掛自治連合会のOBら10人でNPO法人市民交流ネットワーク井原を立ち上げて応募したところ、3団体のなかから地元NPO法人がもっともふさわしいと選定され、翌20年度から指定管理団体としてスタートしました」と理事長の大坪正廣さんは、副理事長で所長の渡辺研一さん、理事の田原耕太郎さんらと当時を振り返った。


ホームページ開設やミニコミ紙発行

 市民交流ネットワーク井原は、4人がセンターに常駐し、利用許可を含めた施設の運用、維持管理、情報発信にとどまらず、ボランティア、団体に対する相談支援や情報提供、講演会開催などさまざまな活動を行っている。
 センターの利用拡大を図るにあたってまず注力したのが情報発信だ。センターを利用してもらうためにはまず施設のことを知ってもらわなければ始まらない。新しくホームページを開設し、きめ細かく更新しているほか、「つどえ〜る通信」というミニコミ紙も年4回発行。施設の紹介や行事の案内に加え、登録団体の活動などを積極的にPRして認知度を高めてきた。
 また、より多くの市民に情報機器に触れてもらおうと始めたパソコン講座は現在まで続く人気講座となっている。これにあわせて自治会や町内会などのホームページ開設を支援するなど地域の情報発信もサポートし、その先には電子自治会ネットワーク構想を思い描く。


まちづくりのワークショップ

 倉掛自治会と協力してまちづくりワークショップや年6回の講演会を開催するなど、まちづくりの機運を盛り上げ、市民の社会参加を促すのも活動の柱の一つだ。
 「私の口ぐせですが、地域の問題を解決するにはワークショップが最適だと言っています。古くからいる住民こそが昔からの問題を提起できると思うし、現実的にそこから取り組まないと次につながらない」と渡辺さん。地域力アップ講座のワークショップでは、「生涯スポーツの推進」や「各自が持つ特技を登録」という意見が出たり、田原さんが代表をしていた当時のいきいきサロン・あすはでもワークショップを開いた際「ふだんあまりしゃべらない人から、年寄りの知恵が出てきて驚きました」というように、この手法は住民たちに地域の問題を認識させ、意見を引き出すことにつながっている。今後はファシリテーターとの連携なども視野に入れて地域の課題解決に取り組みたいという。
 こうした活動は着実に地域に根付いているようだ。当初は10程度だったセンターの登録団体は今では町づくりNPO、いきいきサロン、サークル、ボランティアなど各種27団体に増え、登録していないものも含めれば60以上の団体がセンターを利用している。結果、利用者数は指定管理者制度を始めた平成20年度の約4000人から22年度には7000人を超えるなど右肩あがり。人件費もできるだけ押さえたため、市が管理していた時代に比べ、経費は3分の1に縮小、利用者は3倍に拡大した実績を評価され、平成23年4月から2期目(5年間)の契約を結んでいる。そして平成24年度は前期だけでセンターの利用者が4000人を突破した。


NPOと自治会の連携

 ここまで来るには相当な苦労もあったと推測されるが、「メンバーには三角や四角いのや丸いのなど、織り交ざってバランスがとれていたのが良かったと思う」と渡辺さんは笑う。大坪さんが総務管理を一手に引き受け、田原さんがホームページを作成し、渡辺さんが「営業部長」よろしく各地を駆け回って情報紙作成などに取り組んだ。地域の活動で気心の知れたメンバーが、それぞれの得意分野を生かした連係プレーが大きな力になったようだ。
 とはいえメンバーたちは現状に満足しているわけではない。センターを訪れる人は地域全体からみればまだまだ少ないと3人は口をそろえる。
 「利用者を増やすためにも、このスペースを活かしてカフェがある憩いの場にしたり、地域の物産や野菜を販売する場として提供したいのですが、市の指定管理団体のため収益事業は許可がおりないので」と大坪さん。新しい取り組みが自由にできないもどかしさはあるが、それでも市に要請して自動販売機を設置し、物販に関しても禁止解除の要請をしていくなどあきらめてはいない。
 そんなメンバーたちには、自治会活動に関わっていたからこそ分かる、まちづくり推進に対するある考えがある。
 「自治会は地域に密着していますが、防犯など地域の安全や環境維持などが主な目的で、発展的なまちづくりを進めるのは難しい。そのため地域にもうひとつ柱になる組織が必要だと思っています。それがNPOであれば、研究機関として地域課題に取り組んだり、情報を提供したり、広い視野から支援したりすることができます。自治会とNPOが両輪となってまちづくりを進めていくことが、地域の活性化につながると考えています」と渡辺さんは言う。
 そのためには拠点となる「つどえ〜る」の利用者も増やして市民の向上心を育み社会参加を促していきたい。それが地域力のアップにつながるはずと信じて、メンバーたちは活動を続けている。