「まち むら」119号掲載
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ピンチをチャンスに変えたスーパーエコタウン
鹿児島県大崎町 菜の花エコプロジェクト
 鹿児島県の東南部に位置する大崎町は、人口約1万4000人。平成の大合併でも合併は行なわず、独自のエコ活動で注目を集めている町だ。
 大崎町は平成20年6月に環境省が発表した「一般廃棄物処理実態調査」において、ごみリサイクル率80.0%を記録し、全国の自治体のトップにたった。平成24年3月の同調査でもリサイクル率80.7%を記録し、5年間に渡ってトップの座を保っている。ではこの大崎町の高リサイクル率はどのようにして達成されたのか、同町住民環境課課長補佐兼環境対策係長の中野伸一さんにお話を伺った。


町のピンチをチャンスに転換

 大崎町にはもともとごみの焼却施設がなく、すべてのごみは埋め立て処分が行われていた。「当時は何も考えずに、あらゆるものを捨てていました。そのため処分場に近づくだけで異臭がするほどの状況でした」と中野さんは振り返る。しかし平成2年に完成した埋め立て処分場が、予定していた平成16年を待たずに満杯になってしまうという切迫した状況であることが判明。そこでごみの量を減らすために平成10年9月から、缶・ビン・ペットボトルの分別収集を開始することになったのだ。
 まず、大崎町では実施まで1年近い時間をかけて昼夜を問わず住民にリサイクルの必要性や分別方法を説明する集会を開き、住民の不安を取り除くことからはじめた。そして町内の住民組織である約150の衛生自治会を組織し、収集場ごとに環境衛生協力員を配置して住民の分別をサポートする体制を整えた。月1回の収集日には役場職員をボランティアで各収集所に配置して分別を手伝うなど、行政と住民の信頼関係を築きながら実施してきた。そして平成12年には分別が16品目になり、さらに平成14年には生ごみの回収も開始され、現在では28品目に分類が徹底されている。その結果、平成10年度には年間4382トンもあったごみの量は、平成23年度には703トンにまで減少、さらにリサイクルで得られる益金は年間1000万円にもなるという。この益金のうち一部は各衛生自治会に分配されるほか、収集場のごみ箱購入の補助金などにも活用されている。


菜の花を活用した取り組み

 大崎町のごみ分別収集の成功に弾みをつけたのが、平成13年に始まった「菜の花エコプロジェクト」だ。大崎町では下水道及び合併浄化槽の普及率が低く、家庭から排出される天ぷら油などが河川を汚染する一因ともなっていた。そこで各家庭に専用の容器を配布し、平成12年4月から資源ごみ回収などの業務を請け負う「そおリサイクルセンター」による廃食油の回収が開始された。回収した廃食油は石鹸やごみ回収車の燃料に変えられたが、当初は回収量が予想を大きく下回ってしまう。そこで平成13年に町や衛生自治会で知恵を絞り、衛生自治会員の畑、約7ヘクタールで菜の花を試験的に植え、この菜の花から採取した油を製品化し、各家庭などで使用してもらうことで廃食油の回収量を増やせないかと試みることに。こうして「菜の花エコプロジェクト」が始動することになったのだ。
 現在ではこの菜の花→食用油の利用→回収のサイクルは順調に機能している。各家庭から出る生ごみは「おかえり環ちゃん」という完熟肥料に生まれ変わり、この肥料を使って育った菜の花から食用油「ヤッタネ! 菜ッタネ!」が製品化され、回収した廃油からは菜の花エコ石鹸「そおプ」が製品化され、また軽油代替燃料としても利用されている。


ごみ分別から地球温暖化対策へ

 「菜の花エコプロジェクト」が順調に成果を見せる中、大崎町は平成16年の住民投票で市町村合併を行わない道を選択。このことは厳しい行財政改革が避けては通れないことを意味していた。そこで役場では「40歳未満の職員で構成する検討委員会」の提案をきっかけに徹底的に経費削減、地球環境対策に取り組むことになる。例えば照明の節電、電気ポットを廃止してマイ水筒の持参、待機電力削減のため退庁時にパソコンなどの主電源オフなどを実施。この取り組みをきっかけとして、ごみを減らすための活動は、町全体での地球温暖化対策へとステップアップすることになった。
 さらに大崎町では「菜の花エコプロジェクト」をはじめとした取り組みを、それまでの成果と関係機関との連携などを融合させ「知恵の環(わ)ひとの環(わ)資源の環(わ)ストップ温暖化プロジェクト」として平成19年に環境省が実施した『ストップ温暖化「一村一品」大作戦』へ応募する。「知恵の環ひとの環環境の環ストップ温暖化プロジェクト」とは、「ストップ温暖化」をキーワードに、住民によるごみ分別活動や菜の花エコプロジェクトの展開、行政によるエコチャレンジ、リサイクル事業者による収集業務に伴う取り組み、学校や農家による地産地消の推進や環境学習などを融合した、総合的な地球温暖化対策であり、菜の花エコプロジェクトの集大成ともいえるもの。そしてこれが見事に『ストップ温暖化「一村一品」大作戦』の地域循環賞を受賞した。このことは大崎町でごみリサイクルに携わる全ての住民にとって自信と誇りをもたらしたに違いない。


スーパーエコタウンの今後

 「混ぜればごみ、分ければ資源」を見事に証明してみせた大崎町ではすでに新たな取り組みも始まっている。そのひとつに、JICAの草の根技術協力事業として、インドネシア・デポック市に非焼却型ゴミ処理法を技術支援する活動がある。デポック市の面積は大崎町の2倍ほどだが、そこに180万人もの住民が暮らし、経済成長に伴って増え続けるゴミは分別やリサイクルもままならない状態だとか。そこで低コストで継続可能なゴミ処理法である大崎モデルを普及させようと、すでに大崎町からも現地への視察、提案などを行なっている。
 ほかにも「ビッグスパー大崎」という環境情報誌を年に4回発行したり、これまで冊子やポスターなどで紹介していたリサイクル品目を、携帯端末やスマートフォンなどからもチェックできるようなシステム作りにも取りかかっている。また、現在、紙おむつは一般ゴミとして埋められているが、子ども用だけでなく、高齢化社会を迎えこれからは大人用の紙おむつの使用量が増えることは間違いなく、対応が急がれる。すでに紙おむつに使われるパルプは建築資材にリサイクルされていることもあり、大崎町でも前向きに検討されているそうだ。この紙おむつリサイクルが実現すれば、現在あと40〜50年は利用できると試算している埋め立て地の寿命が100年にまで延びるかもしれないという。さらに携帯電話などの小型家電の分別開始、高齢者などのごみ出し困難者のサポートなど、大崎町の活動は進化を続けている。
 ごみを埋め立てる場所がなくなる、という危機感から生まれた大崎町の取り組みは、現在では住民にとっては「あたりまえ」のこととして浸透しているという。ピンチをチャンスと捉え、行政や住民の垣根を越えてアイデアを出し合ったことで、より良いシステムが生まれている大崎町の姿からは学ぶべきことが多い。