「まち むら」118号掲載
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自治会組織が独自に地域内公共交通を運営
栃木県宇都宮市 きよはら地域内公共交通運営協議会/板戸のぞみ号運営協議会
 宇都宮市東部、鬼怒川左岸に位置する清原地区は20の自治会で構成され、約5750世帯が生活している。1954年まで清原村であったが、宇都宮市と合併した。1970年代に国内最大級の内陸型工業団地として清原工業団地が造成されて以降、宇都宮のベッドタウンとして急速に発展。1984年に清原地域振興協議会を設立し、活発な地域活動を展開している。だが、地域内の公共交通が十分に整備されていないことから、住民の高齢化に伴い、自家用車を持たない高齢者の移動手段が大きな課題となっていた。
 そのような中、清原台と光ヶ丘の自治会エリアで地域内公共交通として定時定路方式の「さきがけ号」を運行、さらに板戸町エリアでデマンド方式の「のぞみ号」を運行している。ともに市の支援を受けて住民組織が自主運営しているのが特徴で、県内初の住民主体の取り組みとして注目を集めている。


ジャンボタクシーを定時運行

 「さきがけ号」は9人乗りのジャンボタクシーで、2008年1月からの試験運行の後、8月から本格運行を開始した。
「2006年に清原地区全体の住民を対象にしたアンケートを実施したところ、地区全体の67%、清原台地域に限ると実に82%から地域内公共交通が必要との回答がありました。そこで要望が強かった清原台エリアで公共交通を先行導入することにし、準備を進めました」ときよはら地域内公共交通運営協議会会長の古澤勝司さんは振り返る。
 清原台エリアは、清原台1丁目〜6丁目の各自治会と光ヶ丘自治会の計7自治会、2350世帯で構成される。地域内公共交通の導入に向けては、2007年7月に各自治会長などで組織するきよはら地域内公共交通運営協議会を設置し、住民説明会を行って合意形成を図るとともに、市の交通政策課などの支援を受けながら運行計画の検討や事業者の選定、関東運輸局への許可申請などを進めた。
「ルートやバス停の位置は各自治会の意向に基づき決定。経費を抑えるため、バス停などは材料を揃えて協議会メンバーが中心になって手づくりで完成させました」と協議会事務局長の白瀬利博さんは話す。
 事業は、入札を行って地元タクシー会社に委託した。運行コースは、エリア内の商業施設や医療機関、金融機関などを循環する1周約21キロメートルで、45か所の停留所を設置。朝8時30分の始発から18時40分まで、1日9便を走らせることにした。利用料は1回150円で、1か月1000円(当時)の定期券や8枚1000円の回数券も発行し、利用者の利便性を高めた。


毎月600人以上が利用

 利用者数は、スタート年のピーク時で月1100人の利用があったが、現在は月600人台で推移している。当初は運行ルートを交互に逆回りで走行したが、分かりにくいという声を受け、一方向の回り方に変更。また、利用状況を勘案して1日9便から8便に見直した。
 運行委託料は年間約680万円。それに対し、運賃収入70万円、自治会の出捐金70万円(各自治会10万円)のほか、地元のスーパーや商店、医療機関、企業等の協賛金130万円などで賄い、不足分は市からの補助金でカバーしている。
「タクシー会社が企業向け朝夕送迎用の車を日中にさきがけ号として活用しているので、運行委託料はかなり抑えられています。それでも市からの補助が運行委託料の64%を占め、その割合をできる限り少なくしていくのが目標。そのため、利用者の拡大を図っていく必要があります」と古澤さん。2009年10月からフリー乗車制を導入しバス停以外でも自由に乗降できるようになったが、より利用しやすくするため、きめ細かい運行ルートに変更していくという。
 利用者からは、近隣の路線バスの停留所までの延伸を望む声も少なくない。だが、既存バス路線との競合や地域内交通の範疇を超えてしまうことなどから、実現には難しい面がある。
 古澤さんは、「東西方向の公共交通が弱い宇都宮ではLRT整備の話も浮上しています。地域内にLRTが通るようになり、さきがけ号を最寄り駅まで運行できるようになれば、利用者は大幅に増加するでしょう」と期待を寄せるとともに、「運営では地域住民自ら汗を流していますが、地元企業からたくさんの協賛金をいただくなど地域の善意に支えられています。市職員にもお世話になっており、様々な関係者の協力がなければ、地域内交通は続きません」と強調する。


デマンド方式のタクシーを導入

 一方、清原台エリアの北に隣接する板戸町自治会では、2009年4月から1年間の試行実施を経て、2010年4月から「のぞみ号」の本格運行を開始した。セダン型5人乗りタクシーを利用したデマンド方式で運行しているのが特徴だ。
「さきがけ号の運行を受け、地区の敬老会でその必要性を聞いたところ、多くの人から必要だという声が上がりました。自治会でアンケートを行なった結果、自宅の玄関先から直接訪問先まで行ける方式を望む回答が多かったことから、利用しやすさを考えてデマンド型乗合タクシーにしました」と板戸のぞみ号運営協議会会長の山中隆夫さんは話す。自治会役員経験者や福祉関係者などで構成する検討委員会を立ち上げ、市にも働きかけながら検討を進め、運行に漕ぎ着けた。
 運行は地元タクシー会社に委託し、利用できるのは300世帯の板戸町自治会会員のうち、利用を希望して登録した世帯。登録は無料で、現在170世帯が登録している。
 行き先はJR宝積寺駅や路線バスの停留所、スーパーや商店、金融機関、医療機関など38か所に限定。月曜から土曜の午前9時から午後5時まで、1時間に1回、1日9便運行している。利用は予約制で、利用便の30分前までに委託タクシー会社に電話を入れる。タクシー会社は利用者の乗車場所と行き先を勘案し、効率的に回れるコースを走行する。利用料は大人1回300円、小学生以下150円。事業費は月約40万円で、利用料のほか、自治会の負担金や行き先の商店等の協賛金、市の補助金で運営している。
「行き先はアンケートに基づいて決めましたが、すべてを網羅できないので、絞り込みに苦心しました」と山中さん。
 現在、月平均300人が利用し、増加傾向にあるという。
「買い物や通院が楽になった、外出する機会が増えた、送迎する回数が減って家族の負担が軽減した、という声が寄せられ、利用者から喜ばれています。運行エリアを拡大するなど、利用しやすい形にすることが今後の課題です。市の補助金を少なくするためにも、利用率を高めていきたいと思います」と山中さんは意欲をみせている。