「まち むら」117号掲載
ル ポ

日本一元気な田舎「源快集楽」へ 未来を先導するまちづくり
広島県広島市安佐北区 NPO法人小河内Oプロジェクト
 昨今、日本各地の農村で過疎高齢化が進み、集落を維持していくことが困難になるという「限界集落」が顕在化している。過疎が過疎を呼ぶ悪循環となりあきらめムードが漂う集落も少なくないが、「悪循環を断ち切り、住んでみたいまちに」と住民自らがまちを変えようと立ち上がった地区がある。広島市で最も過疎が進んだ地域とされる小河内地区では、住民が主体となって特定非営利活動法人(NPO法人)「小河内O(オー)プロジェクト」を設立。地域資源を柱にした都市住民との交流事業や経済活性化事業を通して、未来に向けたまちづくりを推進している。


地域の宝の掘り起こし

 広島市中心部から車で約1時間、市内の北西端に位置する小河内地区は、豊かな自然と伝統的な農村風景、200年も続く吹囃子行事などの伝統を今に残す地域である。
 その一方、深刻な過疎高齢化の問題に直面している。昭和40年代の高度成長期、平地が少ない小河内は団地造成、工場進出などの開発から取り残された。若者は次々と町へ流出し、昭和30年代に1000人台を数えた人口が、平成20年には500人台まで減少している。しかも60代以上が半数を占め、近い将来大幅な人口減が予想される典型的な過疎高齢地域である。
 このまま手をこまねいていたら過疎化が進み、高齢者の生活不安は増大、やがて集落が崩壊して人が住めなくなってしまう。こうした危機感から平成20年11月、自治会、社会福祉協議会、女性会、老人会など地区10団体の30人程度が集まり、地区の未来像についての話し合いの場をもった。この住民主体のまちづくりを小河内の頭文字をとった「Oプロジェクト」と名付け、以後、走りながら考え、考えながら走る試行錯誤が続く。平成21年度から2年間、都市住民と一緒に地区内の全集落の宝さがし(地域資源観察会)を13回実施。それらに参加した都市住民から足元に大きな宝があることを教えられた。
「小河内に住むみんなこの田舎には何もないと思っていましたが、高度成長期に開発されなかったことが幸いして、農村の景観や豊かな自然、歴史、文化が残されていたこと、また、農村の生活自給圏であるだけに、生きる力(生活の智恵や豊かな経験)を備えた人が多いことにも気づかされました」と「小河内Oプロジェクト」理事の迫田勲さんは当時を振り返る。
 過疎地の再生には多くの人が住む都会の人たちの協力が欠かせないが、この環境や人材(財)は、都市住民に地域の魅力を訴求する宝となりえるのではないか。そう考えた迫田さんらは地域資源を生かした地区活性化事業を進める活動を開始し、それを責任もって遂行すべく平成23年4月にはNPO法人「小河内Oプロジェクト」へと発展させた。
 そのコンセプトに、広島市の「源」となる街、「快」い暮らしができる街、人が「集」まる街、「楽」しい街を意味する「源快集楽」を掲げた。目指す小河内の未来像は夢や希望があり、安心、安全で住み続けたい、住んでみたい日本一元気な田舎であり、その延長線上に都市住民の定住化を思い描く。


農村体験ツーリズムで交流事業

 「小河内Oプロジェクト」の事業内容は農地・農業保全事業、農村体験ツーリズム、都市交流事業、どんどん農園経営、雇用創出と経済発展事業、有料配食事業、歴史・文化芸能の継承を柱としている。環境保全、安心、経済発展など地域内の環境改善に注力する一方、基幹産業の農林業を中心に都市住民との交流を図り、活性化を促す内容だ。
 このうち農村体験ツーリズムは、地区内の歴史探訪や柿もぎ、ゆずもぎ、登山、漬物講習会、炭焼き体験など農村の伝統的な暮らしを体験できるメニューを企画、実施している。
 例えば昨年秋、2回に分けて実施した柿もぎ体験には都会から計182人が参加した。柿をもぐだけでなく、つるし柿、ほし柿などの作り方を農家の人々が教える体験交流が好評で、終了後のアンケート結果では満足度が高く、今後も小河内のツーリズムに参加したいと回答した人が多かった。
 さまざまな活動が企業や地域との新たな交流を呼び込んでいる。昨年、ハウス食品の「食と農と環境の体験教室」が同地区で実施され、30人程度の親子が毎回田植え、草刈り、稲刈りなどに参加した。農業体験は初めての親子が多く、「米作りの大変さが分かった」「ご飯を大切に食べるようになった」と、農業に関心を深めた人も多かったという。
 さらに市内中心部の白島商店会とは酒米作りを通じた交流をきっかけに、相互の祭り参加や農産物販売等という形で交流が拡大している。
 平成21年5月以降、イベント、ツーリズムなどで小河内を訪れた人は延べ1800人にのぼる。そのうち約1200人が地区外の都会からの参加者であり、小河内地区と都市住民との交流の輪は確実に広がっている。


着火材・弥太郎君発売

 地区再生には経済発展も欠かせないとして、地場産業を育成し、雇用創出と経済活性化事業にも取り組んでいる。
 その一つが、大都市近郊の過疎地という小河内の特性と炭焼き技術、山林などの資源を生かした使用済み割り箸を活用するリサイクル事業(弥太郎君)だ。環境意識の高い飲食店などに配置したみどりのポストで使用済みの割り箸を回収し、地区の炭焼き名人が炭焼きしバーベキュ等の着火材にリサイクルして、ホームセンターなどで販売する。箸のリサイクルを通じて循環型社会形成に寄与する社会貢献度の高い事業であると同時に「地域の炭焼き技術の継承、経済発展、雇用創出などを生み出す過疎地の先進ビジネスモデル事業になるはず」と迫田さんは期待する。このほかLEDほたるかごなど、地域の特性を活かした事業を次々と開発中だ。


都会から見たユートピアへ

 「小河内Oプロジェクト」の取り組みは受け入れ側の地域住民にも大きな変化をもたらしている。地域のお年寄りたちは交流事業や弥太郎君の事業などを通じて、長年培ってきた農業、炭焼きなどの智恵や技術を都会の人たちに伝える喜びを見出し、改めて郷土に誇りを持つことができるようになった。じつはそれが大切なことだと迫田さんは言う。「地域住民が郷土に誇りと愛着を持ち、元気で生き生きとした幸せな生活をおくっていてこそ、都会の人から見て、夢や希望があり、帰りたい、住んでみたいと思うユートピアになるはずですから」
 「小河内Oプロジェクト」の活動は、代々大切に受け継がれてきた農村の日常的な営みや景観、智恵などが都市住民にも共感を呼ぶ地域の魅力になることを教えてくれる。しかしこれらの地域資源を住民たちが宝とみなさなければ魅力にはなりえなかった。だから住民自らが立ち上がり、地域の宝を発掘し、それをホームページや小河内便り等さまざまな形で発信してきた。その活動が今、地域に誇りを取り戻し、夢や希望がある活気あるまちへと再生しようとする原動力となりつつある。