「まち むら」116号掲載 |
ル ポ |
ママ同士の交流から子育てを支え合う環境に |
兵庫県神戸市垂水区 HeartMam(ハートママ) |
健全な親子関係のためのリフレッシュの場づくり 「子どもができたら自分のすべてを捧げるのが当たり前」「赤ん坊を預けて遊びに行くなんてとんでもない」そんな考え方がいまだに根強い日本の社会。少しずつ風潮が変わりつつあるものの、子どもを預けて自分の時間を持つことに後ろめたさを感じる人はまだまだ多い。そのため、家に閉じこもったまま、外との交流もほとんどない日々が続き、どんどんストレスがたまっていく。神戸市垂水区で活動するHeartMam(ハートママ)は、こうした現状に悩む子育て家族を支援したい、との想いで2007年に立ち上げられた団体である。 HeartMamの活動のひとつが「Babyガーデン」の開催。「Babyガーデン」は0歳の赤ちゃんとママのためのスペースである。毎月第1、第2、第4金曜日の10時から11時30分までと、13時30分から15時までの1日2回開放されており、利用料は500円。赤ちゃんがHeartMamのメンバーと遊んでいる間、ママはお茶を飲んだり、雑誌を読んだり、普段なかなかできないネイルをしたり、少しの間、自分のための時間を過ごし、日ごろの子育ての疲れを癒すことができる。 HeartMamの代表、高田佳代子さんはこう語る。「健全な親子関係を築くには、適切な距離感が大事。24時間べったり一緒にいることが必ずしもいいわけではありません。自分の時間を作って、うまくリフレッシュすることが、ママにとっても、赤ちゃんにとっても大切です」 地域の自治会館から生まれるママ同士の交流 保育付きママヨガも大人気のプログラムである。毎月第4木曜日に実施されており、毎回定員を大きく超える応募がある。「Babyガーデン」と同様、赤ちゃんを保育してもらっている間、講師の先生からヨガを学ぶことができる。ヨガの後には30分程、受講生と先生がお茶を飲みながら語り合う時間が設けられており、なごやかな雰囲気の中、子育てについての情報交換や悩み相談が繰り広げられる。時には話が盛り上がって、ついつい時間をオーバーしてしまうこともあるそう。 ママヨガに限らず、HeartMamの実施するイベントや企画には必ずと言っていいほど、参加者同士などで語り合う時間や場所が設定されていることに気付く。そこには、リフレッシュだけでなく、ママ同士の交流を生み出そうとする想いが感じられる。 HeartMamが主に対象としている0歳〜1歳の子どもを持つママたちのほとんどは、専業主婦、あるいは産休中で仕事を休んでいる人である。つまり、生活の大部分を地域で過ごしているため、地域内に友だちができるかどうかが、子育てをする上で重要な鍵となるのだ。HeartMamのプログラムを通して、同じ経験や悩みを共有するママたち、そして、子育て経験者であるHeartMamのスタッフのみなさんといろいろな話をする場が生まれ、子育ての不安が解消されたり、交流の輪が広がったりしている。 もちろん、保育の中で子どもたち同士の交流も生まれている。小さい頃から他の子どもたちと接することは子どもの社会性を高めるために、重要な意味を持っていることは言うまでもない。 多様な展開を見せる活動 最近ではママだけでなく、パパの子育て支援にも取り組んでいる。2009年からは、ママとパパ両方を対象にした子育て講座が実施されている。この講座では、ママがアロマセラピーやヨガを体験している間に、パパと子どもは赤ちゃんマッサージや親子あそびを勉強したりする。また、子育て中の現役パパたちが活動するファザーリングジャパン関西とともに、「パパの絵本大作戦」というイベントも開催し、パパたちに絵本の読み聞かせ方や、お薦めの絵本を紹介してきた。 子育てパパたちにとって、こうしたイベントは、子育てについて学ぶ場だけではなく、子育てのあれこれを語り合う貴重な機会になっている。パパが子育てについて語り合う場所は、ママにも増して少ないからだ。 また、近年は、共働き夫婦などが増え、おじいちゃん、おばあちゃんが孫育てをするケースも増えている。「まだまだやらなければいけないことは多くあります」そう代表の高田さんは語る。 一時保育の活動も盛んだ。美術館での展覧会や行政主催のフォーラム、学術講演会などで一時保育が必要なとき、HeartMamに協力依頼の声がかかることが多くなってきたという。「少しずつHeartMamの活動が認められてきたのかもしれません」そう高田さんは語る。こうした一時保育により、子どもができてからも、少しの時間アートに触れることでリフレッシュしたり、講演会等に参加し、新しい情報に触れたりすることができる。 被災した子育て家族の支援へ 東日本大震災で被災した子育て家族の支援も始まっている。今年の3月22日に神戸のNPOや子育て支援グループなどと共に「神戸ぽけっとnet.」を立ち上げた。震災を経験した神戸のママたちだからこそできる支援を目指して活動している。たとえば、「セカンドハンドプロジェクト〜「We are シンセキ!」子ども服送ります〜」では、まだ十分に着られるきれいな子ども服を集め、「親戚のおばちゃんが東北にいる姪っ子や甥っ子に服を送るような感覚」で、被災地に送付した。今年4月には「チャリティーママフェス」を開催し、ママ、パパ、子どもたちが楽しめる様々なプログラムを展開。当日の売り上げを義援金として、被災地の子育て支援のために寄付した。 神戸に避難してきた子育て家族支援も積極的に行なわれている。5月に開催した「子育て家族一時避難者への支援のあり方講座」では、住み慣れた家をやむなく離れ、避難してきた被災者のみなさんに対する支援のあり方を考えた。そして、この講座をきっかけにHeartMamの活動を知った産婦人科の方が、被災地から避難してきたため、出産の準備が何も出来ていないある妊婦さんのことを紹介してくれた。このように、見知らぬ土地で、しかも夫と離れ離れの中、子育てに奮闘したり、出産を迎えたりするママたちは多い。そんな同じ境遇のママたちが仲間となり、支援を受けるばかりでなく自分たちの力で自立した生活を送りたい、との想いから誕生したのが「べこっこMaMa」神戸市内に避難しているママたちによって立ち上げられたこのグループをHeartMamも支援している。べこっこMaMa が現在取り組んでいるのが、神戸居留地のケーキ屋さんとのコラボレーションで開発したオリジナルケーキ「べこっこロールケーキ」の販売。11月から定期的に予約販売を始め、新たな生活で自立していく第一歩を踏み出している。 地域全体で子どもを育てる環境の実現 HeartMamの地道な活動は、地域のママ同士のサポートの輪を広げている。それを象徴する出来事を高田さんが聞かせて下さった。ある日、HeartMamの一時保育を利用しているママが熱を出してしまった。実家は遠方で頼ることができない。そんな時に声をかけてくれたのが、HeartMamで知り合ったママ友。子どもを預かり、調子の悪いママに代わりめんどうをみてくれたという。 かつての日本では、ご近所同士で子育てを助け合う光景が普通にあった。HeartMamの活動を通じて、そうした光景が少しずつ戻りつつあると言えるだろう。「私たちの活動はお医者さんと一緒。地域全体で子どもたちを育てる環境ができ、私たちの存在が必要なくなる日が来るのが一番の理想です」そんな高田さんの言葉が印象的だった。 |