「まち むら」115号掲載
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町会と連携し、高齢者も安心して暮らせる仕組みづくり
東京都八王子市 めじろ台安心ねっと
 定年後の元サラリーマンの生きざまを描いた重松清の小説『定年ゴジラ』。その舞台になったといわれる東京都八王子市めじろ台は、1967年10月1日の京王高尾線開通に伴い分譲された郊外のベッドタウンだ。現在、戸建て住宅を中心に3790世帯、8592人が暮らし、そのうち65歳以上は2957人で高齢化率は34%に上る。独居高齢者や高齢者のみの世帯が増えており、高齢社会の進展に伴う諸問題への対応が大きな課題となっていた。そのような中、地域住民による「めじろ台安心ねっと」(以下、安心ねっと)が誕生し、活動を開始した。住民同士の交流や見守り活動などを行ない、町会などと連携して高齢者が安心して暮らせる地域づくりを進めるのがねらいだ。


町会とも連携した住民活動組織を発足

 めじろ台地域では、めじろ台1〜4丁目の4つの町会や各町会に置かれた老人会の「むつみ会」が活動しているほか、ボランティア団体「風の会」やNPO法人「めじろむつみクラブ」などが高齢者の交流事業や生活支援等を行なっている。
「地域では町会が活発な活動を展開していますが、エリアが限られ、また役員が交代するため、福祉に関して一貫した活動がしづらい面がありました。一方、ボランティア団体は、地域全体に活動を広げたいという思いを持っていました。そのため、地域の枠組みを越えた全住民を対象に、高齢期においても安心・安全・快適に暮らせる仕組みづくりができないかという声が上がりました。そこで各町会役員経験者をはじめ、様々な活動団体や医療・福祉関係者などに働きかけ、新たな住民組織の立ち上げを試みました」と代表の嶺学さんは振り返る。
 2008年6月に呼びかけ人などが集まって組織や活動について議論を開始。体制や運営方法などを検討しながら準備を進め、年齢・性別・国籍を問わない会員制で運営する組織として安心ねっとを発足させ、秋から会員を募集した。
 年会費は500円、賛助会員は1口1000円で、70代を中心に幅広い世代が参加し、会員数は現在120人に上る。代表1名、副代表2名、委員10名(うち1名は事務局長)で運営している。
 活動を始めるに当たっては、2008年暮れに高齢化をテーマにした全世帯対象のアンケートを実施した。東京都の地域の底力再生事業助成金を導入し、町会と協働で行なったもので、45%から回答を得た。その結果、犯罪や健康への不安が多いことや、24時間365日往診・訪問看護を行なう施設や見守りの仕組みへの要望が高いことなどが分かった。そこで、健康・医療専門委員会と見守り専門委員会を設け、活動を開始した。


住民交流のサロンと医療・福祉相談を実施

 具体的な活動としては、講演会の開催や回覧・掲示板を通じ、暮らしや医療・福祉・介護等の情報提供を行なっている。
 2009年1月には住民交流の場として「ふれあいサロン」を開設した。町会施設のめじろ台会館を借りて月1回開催。手作りのお菓子を楽しみながら語り合ったり、住民等によるミニコンサート、日帰りバス旅行などを行なっている。参加費は200円で、会員だけでなく全世帯を対象とし、めじろ台地域以外の住民にも門戸を開いているのが特徴だ。毎回35人前後が参加している。また月2回、「健康麻雀サロン」も開設し、麻雀で脳を活性化させながら交流を深めている。
 健康・医療専門委員会では、医者や看護師も含む委員が集まり、在宅医療のあり方の勉強会を進めた。医師による講演会も行ないながら、24時間365日対応の在宅療養支援診療所の設置について関係者も交えて検討し、報告をまとめた。現時点での設置は難しいものの、引き続き講演会などを行ないながら地域医療に関する住民への情報提供に努め、地域医療等のあり方について検討を進めている。
 その活動の中から、会員である医師の好意と、八王子市地域包括支援センター「めじろ」の職員の協力と地元信用金庫の場所提供により、2010年4月から無料の「医療・福祉相談」を開始した。月2回開催し、毎回2〜3人が相談に訪れている。また、2010年11月には医師・看護師同行によるウオークラリーを開催した。


「救急医療情報キット」の普及活動を展開

 見守り専門委員会では、学識者も交えて「見守り」の制度化へ向けた議論を重ねた。講演会参加者等による討議も行ない、そこでの意見も取り入れて、元気な人も対象とした「ふれあいフレンズ・システム」と称する仕組みづくりの案をまとめた。そして、町会や市、民生委員との意見交換の後、今年1月と3月に利用希望者と見守りボランティアの募集を行なった。その結果、ボランティア応募者に対し利用希望者が少なかったことから、継続はするものの新たな展開を模索している。
 また、「救急医療情報キット」の普及活動も推進している。かかりつけ医療機関や既往症、緊急連絡先などを記入したシートをプラスチック製の円筒容器に入れて冷蔵庫に保管するとともに、目印に玄関内側と冷蔵庫にステッカーを貼っておき、急病などで救急車を呼んだときにその情報を提供して迅速な救急搬送や治療に役立てようという取り組みだ。委員の一人が同キットの存在をテレビで知り、導入を提案。キットの普及に取り組んでいる東京都日の出町を視察し、町会や八王子消防署などとの協議も進め、安心ねっとでも取り組むことにした。1050セットを作成し、2010年3月から町会と共同で案内を回覧して1セット300円で販売。めじろ台地域だけで約1000セットを配付した。好評だったことから、400セットを追加作成し、現在1セット350円で販売している。
 キットの普及活動とともに、今年度からはキットを設置した世帯への点検のお勧めと用紙の配布も開始、そのためのマニュアルを作成してアフターフォローに努めている。
「町会の後押しによって、さらに設置を進める予定です。また引き続き市内の他の町会や住民の方からの問い合わせや依頼にも対応していきます」と事務局長の青木光子さんは意欲をみせている。
 今後に向けては、「ふれあいフレンズ・システム」の進展が課題だという。
「見守りの仕組みを望む地域の声は多いものの、見守りという言葉に抵抗を感じたり、自分には必要ないと思っているのが現実のようです。ご近所でフォローすることが理想なので、ご近所づきあいの延長として、さり気ない形で浸透していければと思っています」と嶺さん。救急医療情報キットの普及とフォローアップ活動を通じて、「見守り」につなげられればと期待を寄せている。
 安心ねっとは、会費や賛助会費、サロン活動の参加費などのほか、八王子市社会福祉協議会の助成金や、八王子市の市民企画事業補助金などを受けて運営。めじろ台4町会の高齢者福祉受託団体としても承認され、助成金も受けている。
「会員の増加を図ることも課題です。めじろ台地域には、人材が豊富なので、地域のために、多くの人に安心ねっとに入っていただきたいと思っています」と副代表の芦谷設代さんは笑顔で語る。
 今年度はエンディングノートの導入も始めるなど、活動を広げているところだ。