「まち むら」115号掲載
ル ポ

NPOが運営する児童館がつなぐ地域コミュニティ
宮城県仙台市太白区 NPO法人FOR YOU にこにこの家
約300人が児童館へ
避難所となった震災の日


 津波警報が鳴り響く中、最初に仙台市東四郎丸児童館に避難してきたのは、車いすの人だった。その後も、家族と連絡がとれない中学生や高齢者など、その数は、約300人に上った。コミュニティセンターが併設されているとはいえ、その数は少なくない。
「みんなが来られる場所になっているんだねと言われて気づいたんです。児童館がそういう存在になっていることに」
 東四郎丸児童館の館長であり、NPO法人FOR YOU にこにこの家(20人)の理事長、そして地域福祉ネットワーク「ほっとネットin東中田」(14団体)の代表も務める小岩孝子さんは、緊急事態となったあの日を、そう振り返る。


地域の目線から生まれた
みんなの居場所


 全国に先駆けて2005年、新設児童館に指定管理者制度を導入した仙台市。その第1号となったのが、NPO法人・にこにこの家だ。それまでの地域貢献が評価されてのことだった。
 そもそも地域福祉活動を行なうにこにこの家が発足するきっかけとなったのは、市民センターで行なわれた介護ボランティア入門講座だった。「学んだことを生かしては」という市民センター職員からの声がけに手を挙げたのが、20代から60代までの主婦や看護師や塾経営者など6人。地域の保健センターでリハビリ介助ボランティアをはじめたのが最初だった。
 活動をはじめると今度は、介護する側の家族の大変さに気がついた。週1回でも介護する家族がリフレッシュできればと、地域でまだ行なわれていなかったミニデイサービスに取り組みはじめる。そこで、お年寄りと子どもがふれあう機会があった。子どもは「こういうおばあちゃんになれるなら、年をとるのも悪くない」と言い、お年寄りは「明日を生きる元気がもらえた」と喜んだ。世代間交流ができる「みんなが集まれる居場所があったらいいね」と、メンバーによるにこにこの家づくりがはじまった。
 冊子やネットで情報を収集。先駆的な取り組みをしていた横浜の施設を、メンバー数人と視察にも出かけた。資金的な課題も、行政に相談することで助成金などを利用することができた。
 東四郎丸児童館の指定管理者に応募したのも、にこにこの家で行なっていた、子どもの一時預かりを利用した1組の親子とのやりとりがきっかけ。離婚したばかりで仕事を探したいという母親が、1歳に満たない子を連れてきた。子どもを預ける後ろめたさを感じつつ、仕事探しに行った後、子どもを迎えに来た母親。にこにこの家の利用者であるおばあちゃんの膝の上で笑っている子どもの姿を見て、ほっとして緊張の糸が切れたように泣きだした。
 市営住宅に囲まれたこの辺りには、母子家庭や一人暮らしの高齢者、障害者も多い。「この地域には、子育て支援が必要だ」と感じた小岩さんは、新たに児童館ができると聞いて指定管理者に応募した。
 目指したのは、いつでも遊びに来られる児童館。開館当初から、乳幼児親子がいつでも遊びに来られる部屋を設けた。それがモデルケースとなり、今では仙台市内の児童館7カ所に「子育て支援室」が設けられている。


まちの人が得意分野を生かし
子どもの生きる力を見守る


 この地域には、古くからの農家と、近年は市営住宅や福祉施設、高齢者施設が建ち、新旧住民が混在している。多くの人が子育てにかかわってもらうよう、地域の方に手紙を書いて会報に載せ、人が集まる場づくりも行なってきた。
 活動は「食べたい」「見たい」「知りたい」「やってみたい」という、誰しもがもつ欲求に応えるもの。そのうち、「あそこに行くと楽しいよ」と、利用者の口コミが広まるようになった。
 児童館を支えているのは、運営スタッフのほかに、地域のパートナーもいる。「かにっことうちゃんS’」は、3つの小学校の父親10人によるネットワーク。夏休みに児童館に泊まり、夕食づくりや肝試し、今年は避難所の手伝いなども行なった。「にこにこ児童館送り隊」は、児童館から家に帰る子どもたちに付き添う地域の60代。大人だけでなく、児童館を手伝う小学生のジュニアリーダー「Jr.にこボラ」、学校枠をこえて集まる3小学校と中学、高校の生徒が企画運営する「チーム東中田っ子」もある。学校枠をこえての取り組みには、各小学校の協力が欠かせない。
「子どもたちが中心となって、地域にボランティア文化の芽を咲かせたい」
 小岩さんの説明を聞いた各学校長も、協力を惜しまない。授業参観に参加できていなかった父親も、子どもと一緒に活動することで、子どもとの会話が増えた。それまで見知らぬ人同士だった父親たちも、まちで顔を合わせると「今度行く?」といった会話がやりとりされる。児童館を通して、人と人がつながる。
「家族はもちろん、家族以外に自分たちを見守ってくれる地域の人がいることを、子どもたちが知ることが大切。高齢者にとっても、自分たちが役立っている意識は大切なんです」
 様々な人が触れ合うことで、お互いに欠かせない存在であることを実感できる。問題を抱えている親も、子どもが児童館を通して、ほかの人とつながり元気になることで、親が自立していく糸口になることもある。それが、生きる力につながっていく。

未来をみちびく
子どもボランティア


 児童館スタッフは、保護者からも、子どもたちからも、「さん」付けで呼ばれ、子どもたちにとっては、先生でも、親でもない、相談相手。保護者とは、まちで出会ったときも手を振り合うような、気取りのない関係。みんなで子育てする空気ができあがっている。そして、子どもたち自身も、地域を支える一員としての自覚が芽生えてきている。
 震災後、Jr.にこボラとチーム東中田っ子の子どもたちは、率先してボランティアに協力した。3月16日から3日間続いた炊き出しにも、大人に混ざって一緒に準備。炊き出しに来られないお年寄り69人には、小・中・高・大学生が自宅に届けてまわった。地域福祉ネットワークほっとネットin東中田に届いた支援物資も、お年寄りに配達。子どもたちが届けることで、高齢者が喜んで握手をし、自然と笑顔になった。
 子どもたちにとって「いつもしているボランティアとは違って、ほんとにボランティアしたなって感じた」と、これまでにない感覚を覚えた子も多い。
 けっして地域福祉活動が活発とはいえなかった地域で、子どもたちが地域を巻きこんでボランティア活動をする流れができつつある。
 にこにこの家が東四郎丸児童館の指定管理者となって6年が過ぎ、2011年4月から3期目が始まった。
 子どもたちに生きる力をつけてもらいたいと地域に密着した活動は続いている。地域に必要とされる活動を行なうために生まれたNPOによる、児童館の運営。その効果は、施設内だけにとどまることなく、まちに広がりつつある。バス停で出会った子どもたちとおばあちゃんが「あっ、にこにこのおばあちゃん」と会話をはじめる。みんながつながり、みんなが支え合う。小さなやりとりが、暮らしやすいまちへの一歩となっている。