「まち むら」113号掲載
ル ポ

心豊かに、花と緑のある日々を楽しむ人たち
秋田県潟上市 秋田グリーンサム倶楽部
 秋田県中央部、日本海と八郎湖を望む湖南地域に位置する潟上市は、人口3万4000余りの、のどかな田園都市。秋田平野の北辺部の肥沃な穀倉地帯が、花と緑で地域に貢献する秋田グリーンサム倶楽部の活動のフィールドである。


グリーンサムとは、花と緑を愛する人

 秋田グリーンサム倶楽部は、花と緑を愛する人なら誰でも参加できる交流の場として、平成12年、むつみ造園土木株式会社(以下、むつみ造園)によって立ち上げられた。コンセプトは、「暮らしの中に花を咲かせ、心豊かに日々の生活を楽しもう」。
 10年目の節目を迎え、発行された記念誌『Greenthumb(グリーンサム)』には、「花と緑と人々を愛し育て、光と笑顔いっぱいの郷づくりの大きな輪の中に仲間入りさせていただき、とても幸せに思います」(佐藤小枝子さん)。「活動を通して、一人ひとりが美しい地域づくり・心づくりに目覚めることが出来ました」(吉田良子さん)。「花と緑には、人の心を和ませ豊かにする力があります。そしてそれが私たちに生きる力も与えてくれます」(菅原優さん)と、活動に参加している人々の感謝と喜びの声が、数多く綴られている。花と緑に親しみ、学びながら地域を創っている人たちがここにいる。


出会いを楽しみながら、しぜんなカタチで地域貢献

 秋田グリーンサム倶楽部の会員は1200余名。会費も会則もなく、むつみ造園や秋田グリーンサム倶楽部が主催するイベントに参加・協力し、参加者名簿に記名すると自動的に会員として登録される。その中でも積極的な主力メンバー20名程が、様々なイベントの企画・運営に携わる運営委員として中心的な役割を果たしている。さらに、フットパスメンバー(※)と呼ばれる7名のユニットがあり、実際の地域活動にボランティアとして汗を流して、倶楽部の活動を支えている。
(※)フットパスメンバー:フットパスとは、イギリスを発祥とする森林や田園、古い街並みなど、そのままの風景を楽しみながら歩くこと(Foot)ができる小路(Path)のことで、ここでは花と緑を愛するメンバーの総称として呼んでいる。

 会員の活動は、大きく3本の柱からなっている。
1.むつみグリーンサムガーデンでの文化活動
 むつみグリーンサムガーデンは、むつみ造園が平成13年に開園した、田んぼや畑、果樹園に囲まれた里山と一体になったオープンガーデンで、アトリエと展示室がある。そこで、春から秋にかけて月に1回、人々が交流できるイベントを企画・運営している。
 内容としては、地域で教室を開くなど、自分を活かして活躍している講師を招いた体験教室の開催。味自慢の手づくりがっこ(漬物)、季節の花や野菜の販売。手塩にかけた花や緑、手づくり作品の展示会の開催等、地域の活力を活かしたもの。
2.グリーンサムロードの活動
 むつみグリーンサムガーデンからJR出戸浜駅までの道を、グリーンサムロードと名付け、その周辺を花と緑でいっぱいにしようという活動で、平成16年から、むつみ造園の従業員とともに花や緑を植え続けている。沿道の人たちの協力を得ながら、できるだけブロック塀を取り除き、生垣や花を植えることで魅力あふれる街並みをつくろうと、植え付け作業や草とりなど、フットパスメンバーが大いに活躍している。
 また、マサキやムクゲニシキギなどを毎年、1万本挿し木し、苗木を育て、5年後には花と緑でいっぱいのグリーンサムロードになることを夢見ながらの活動もしている。これらの活動を通して、会員は造園のプロから様々なことを学んでいるという。
 グリーンサムロードの途中には、東屋「さんぽ駅」があり、買い物や散歩の途中でひと休みする人の憩いの場になっている。心地よい緑に囲まれた清潔感のある一帯は、ここで暮らしたいという憧れも誘っているようだ。
3.子どもたちとの古代米作り活動
 平成17年から始まった活動で、むつみグリーンサムガーデン内の田んぼで田植えから稲刈り、脱穀までを、近隣の幼稚園、小中学校に通う子どもたちと一緒に行なっている。収穫した餅米を昔ながらの杵と臼でつく、もちつき大会もある。
 フットパスメンバーは、土や稲わらにまみれて作業する子どもたちとの農作業を、心から楽しみ、花や虫に興味を示す好奇心いっぱいの子どもたちを、あたたかいまなざしで見守っている。

 むつみ造園には、他にもたくさんのボランティア活動があり、会員は出会いを楽しみながら参加しているという。


花と緑で足元から地域をきれいにしたい

 むつみ造園の域貢献活動は、現会長 佐々木吉和さんの「造園業を発展させながら、花と緑で地域をきれいにしていきたい」、との思いに始まっている。従業員とともに、地域の人々とともに、生まれ育った里山の豊かな暮らしを守り、次の世代に渡したいとの熱い思いがある。
 そもそもの始まりは平成7年にさかのぼり、秋田県の保健保安林に指定されている海岸林にゴミの不法投棄が目立つことから、従業員と地域の人々で「フィロスあきた」としてゴミ拾いの活動を始めたことから。秋田火力発電所から八郎湖河口までの約15キロメートルの清掃活動は、100名ほどで始まったが、その後広がりを見せ、平成10年からは東北電力と秋田県立大学が参画、平成14年からは秋田県が主導的役割を担っている。今では7〜800名ほども参加するほどになった。
 様々な地域での活動が高く評価され、平成18年度、財団法人あしたの日本を創る協会、NHK、読売新聞東京支社等が主催する、「あしたのまち・くらしづくり全国フォーラム」において、トヨタ、ソニー、西友など全国の企業の中から、企業の地域社会貢献部門のグランプリである内閣総理大臣賞を受賞。従業員が80名の地方の企業が、その活動の質の高さと多彩さが認められた特筆すべき受賞だった。
 佐々木吉和さんは、「グリーンサム倶楽部の活動を通して、たくさんの出会いがあり、感動があった。一歩、また一歩と歩んできた10年間だった。地域の皆様や多くの関係者の支援があったからこそここまで来られた。また次の10年につながる一歩を踏み出したい」と淡々と話す。


活動はワクワク、ドキドキ、ニコニコで

 たくさんのボランティア活動に汗を流す会員が、楽しみにしていることがある。それは、むつみ造園がこれから目指す「あきたグリーンサム創造の杜」計画だ。農林業者と市民が力を合わせてつくる新公益事業で、新しいコミュニティと地域文化を創造しようという壮大な計画だ。豊かに広がる里山を活用し、アート作品にふれることができる森の美術館やアートの杜、採れたて野菜がいただける森のレストラン、珍しい花やその花で作られた香水が並ぶ花と緑のマルシェなどが、緑に包まれるように点在する創造の杜。
 そこにも、生まれ育った里山の素晴らしさを身を持って知っている会員の声が活かされようとしている。「きのこが採れる里山のような雑木林があったらいいね」(安田久雄さん)。「薪割り体験やどぶろく特区など、自分の経験を活かして参加したい」(目黒和夫さん)。「山野草の小径ができたら散歩するのが楽しみだ」(吉成康男さん)など、一人ひとりが「こんな杜だったら」という夢を抱いて、ワクワク、ドキドキ、ニコニコしながら活動している。

 むつみ造園の経営理念の一つに、「人間の無限の可能性を信じ、世の人々に自分の最高の贈り物を創造する人を育む」、とある。地域の人々の力を活かし、つないでいくことで、自然環境を守り、持続可能な美しい地域社会を創造していこうとする意気込みが、グリーンサム倶楽部の活動から伝わってきた。