「まち むら」113号掲載
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自治会でNPO法人を設立し、高齢者の生活支援活動を推進
埼玉県上尾市 尾山台団地自治会/NPO法人ふれあいねっと
 埼玉県上尾市の尾山台団地自治会は、2006年1月に会員制の「たすけあい友の会」を発足し、通院や買い物の付添いなどの在宅支援活動を進めている。2009年度からは埼玉県の補助事業を活用し、ワゴン車による付添い活動も開始した。さらにはNPO法人を設立し、団地内の空き店舗を活用した食堂の運営など、新たな事業に乗り出している。


活発な住民福祉活動を展開

 尾山台団地は、1967年に入居を開始したUR都市機構の賃貸住宅で、戸数は1760世帯。JR宇都宮線東大宮駅から徒歩15分の立地で、東京のベッドタウンの役割を果たしてきた。だが、近年は高齢化が進み、65歳以上の高齢化率は34%を超えている。
「高齢化に加え、1世帯当たりの人口は1.89人で独居者が多い。年間数件の孤独死が起こるようになり、2010年にも2件発生した。そのため、住民の交流活動とともに、高齢者の見守り活動などの必要性が高まってきている」と尾山台団地自治会会長の尾上道雄さんは話す。
 尾山台団地自治会では、公団住宅の住環境向上に向けた運動や運動会・夏祭りなどの団地コミュニティ活動などを活発に展開してきた。上尾市社会福祉協議会尾山台団地支部などと連携した住民福祉活動にも力を入れており、2001年からは「ふれあい喫茶」を開始した。集会所を利用し、ボランティアが中心になって毎月第1水曜日に開催。高齢者をはじめ地域住民の交流の場となっており、団地外からもやってきて毎回約150人の利用者で賑わう。2004年からは70歳以上を対象にした食事会(年2回)、2006年からは映画会(毎月第3水曜日)を開催するなど、様々な催しを行なっている。


「たすけあい友の会」をスタート

 2006年1月には自治会の高齢者などを対象にした在宅支援活動として、会員制の「たすけあい友の会」を発足。自治会員を対象に利用会員・支援会員・賛助会員を募集し、利用会員が希望するサービスを支援会員が提供していく取り組みを開始した。入会金500円、年会費500円を払って利用会員になれば、1時間300円で、力仕事や簡単な修繕、洗濯や掃除等の家事、通院や買い物の付添いなどのサービスが受けられる。サービスを提供する支援会員には時給500円を支払い、差額の200円は賛助会員の会費等で補填する仕組みにした。
「介護保険対象外としての支援を行ない、要介護認定を受けていない高齢者でも様々なサービスが受けられる。3つの会員合わせて約160人が登録し、支え合いの活動を進めている」と尾上さん。
 2009年度には埼玉県の地域支え合いの仕組み推進事業を導入した。ボランティアによる支え合いの仕組みづくりを支援するため、県が3年間で計450万円を上限に補助していく事業だ。尾山台団地自治会は同事業の補助を受け、たすけあい友の会活動の充実を図った。
 具体的には、ワゴン車をリースし、高齢者等の通院や買い物などの付添いサービスの足となる「たすけあい号」の運行を始めた。月曜日と木曜日の週2回、午前9時、午前10時30分、午前12時の3便で、利用者の希望に応じてJR東大宮駅周辺の整形外科等の医療機関やスーパーマーケットを回っている。月に1回、大型ショッピングモールまで足を延ばすコースも用意している。3人のボランティアがローテーションでドライバーを務め、たすけあい友の会の支援会員が付添う。利用できるのは友の会の利用会員で、前日までの予約制。利用状況に応じて付添人の人数を決めている。たすけあい号は友の会の付添いサービスの一環として運行しているので、1時間300円の利用料(付添料)以外の負担はない。
「利用者は付添い分も含めて目的地までの交通費を負担していたが、たすけあい号を使えばその負担が軽減される。運行当初は曜日によって、医療機関へ行くコースと買い物に行くコースに分けていたが、両方を回るコースに変更して利便性を高めた」と尾上さんは話す。現在、1日平均5〜8人が利用しているという。
 また、補助事業を利用して尾山台商品券を発行し、支援会員への時給500円は同商品券で支払っている。団地内や周辺の26店舗で使用できる地域通貨の導入により、地域の商店街振興も図った。友の会会員対象の食事会も月1回開催し、高齢者等の交流を促進している。


NPO法人を設立し食堂を開設

 県の補助は2011年度で終了することから、たすけあい号運行などの事業の継続に向けては自立した仕組みを構築する必要がある。そのため尾山台団地自治会は、たすけあい友の会の組織とは別に特定非営利活動法人(NPO法人)を立ち上げ、活動を広げていくことにした。@活動資金への寄付が集めやすくなる、A団地自治会という枠組みを越えた活動が可能になる、B法人格を持つことによって委託事業を受けやすくなる――のがNPO法人化のねらいだ。
 2010年7月に「NPO法人ふれあいねっと」の設立総会を開催し、9月に認証を取得して登記した。代表理事を務める尾上さんを含めた理事8人と監事2人が役員となり、正会員と賛助会員で組織。個人正会員は入会金1000円・年会費1000円、法人正会員は入会金1万円・年会費1万円、賛助会員は入会金はなく、年会費は個人1口1000円、法人1口5万円とした。12月20日現在、正会員は21人、賛助会員は38人。
 手始めに取り組んだのが、団地内の空き店舗を活用した食堂の開設である。2010年6月に閉店した団地の飲食店の厨房設備などをURの協力も得て居抜きで借り、出資金などを集めてリニューアル。10月に「ふれあい食堂」としてオープンした。店舗は45平方メートルで16席。定休日の水曜と日曜以外の週5日、午前11時〜午後2時と午後5時〜7時に開店し、住民ボランティアがローテーションを組んで5人体制で調理や配膳などに当たっている。
「そば・うどんや丼物、日替わり定食、夜はビールや酒、つまみなどを低価格で提供し、常連客も増えている。一人暮らしの高齢者には、温かい料理が食べられる身近な店が必要。配食サービスでは孤食になりがちだが、食堂に来れば顔見知りに会える。食堂での食事も配食と同様のサービスとして認めてもらうよう市に働きかけている」と尾上さん。1日平均30人が利用し、2万〜2万5000円を売り上げている。「URの支援で家賃は半額となったが、運営の効率化を図って採算制を高めていくことが当面の課題。ボランティアの時給は現在100円なので、なんとかアップさせたい」と話す。
 尾山台団地自治会は、家賃値上げや民営化の問題もあって、住生活を守るための運動や集会を長年積み重ねてきた。それに伴い自治会活動の足腰が鍛えられ、住民間の結束力や地域の関係団体との結びつきも強い。
「住民がお互い助け合って活動を進めてきたことが、NPOの設立や食堂の運営につながった。今後は様々な事業を行なうとともに、活動エリアを広げていきたい」と尾上さんは意欲をみせている。