「まち むら」112号掲載
ル ポ

小行司かあちゃんパワーは、人を変え、地域を変える
山口県田布施町 企業組合小行司健康グループ
にこにこパーク小行司

 市街地を抜けて、民家もまばらな山間の道を延々車で走る。突然たくさんののぼり旗が目に飛び込んできた。旗の後ろの大きな看板には、女の子と男の子が米俵を楽しそうに掲げている絵と「とにかくう米!小行司米」という文字が躍っている。広い敷地には「田布施町農産物加工センター」と「にこにこパーク小行司」が並んで建っている。
 ここは、山口県熊毛郡田布施町の小行司地区。田布施町といっても飛び地で、周りを岩国市、柳井市、光市に囲まれた特異な場所である。
 お店の入り口脇には、地元の取れたて野菜と花や野菜の苗が置いてある。中は昔ながらの食堂といった雰囲気。長テーブルが3つあり、奥には畳の席もある。17席しかないが、お客は入れ替わり立ち替わり入ってくる。入り口横には、加工センターで作られたパンやケーキ、お饅頭、お餅が狭いスペースにぎっしり並んでいる。その横の冷蔵庫には、福神漬、ジャムや生芋で作られた手作りこんにゃく、梅干などが入っていた。向かいの壁と棚には、小行司米や間伐材で作られたひのき炭・乾物・手芸品などが並んでいる。厨房近くの棚には、お皿に入った「おかず」がいくつもラップをかけて並んでいた。棚の上には、「うどん300円」「おかずセット250円」「お弁当400円」と書かれた小さなカードが・・・。「おかずセット250円」?安すぎる!
 「おかずセット」を食べてみた。洋皿の中には、10種類ぐらいのおかずが所狭しと入っていた。これに、ご飯(量はお好み)と、お汁をつけると、お客さんが名づけた「定食300円」になる。安い!しかも、おいしい!大満足!ご飯がまたおいしい。さすが、『とにかくう米!小行司米』だ。小行司米は、栽培方法や味の良さからエコファーマーのついたブランド米となっている。お菓子類も人気で、ロールケーキ(220円)は、すぐに売り切れてしまう。焼きたてのメロンパン(100円)はふわふわで、3個、4個と買って帰る人が多い。お餅、お饅頭もあり、スイーツ好きにはたまらない。


「何もない」は「何でもできる」

 「にこにこパーク小行司」は、「企業組合小行司健康グループ」が運営している。代表の河村久美子さんにお話を伺った。
「今でこそ、広い道路が走ってるけど、4、5年前までは狭い道路しかなくてね。20数年前までは田布施町の人も知らないほどの暗いイメージの山村だったんですよ」と河村さん。暗いイメージを変えるには、地域の人が明るく元気でないといけないと思った。
 昭和63年に、「小行司点検マップ」を作った時、小行司地区に何もないことがわかり、これではいけないということになった。「何もない」ということは、「何でもできる」ということだ。みんなで話し合い、「朝市」と人と人とのつながりを求めて、「おいでませ!小行司むらまつり」を地域住民総出で開催することになった。これが、「小行司健康グループ」を設立するきっかけになった。
 平成元年、「小行司健康グループ」を結成。平成6年には、田布施町に要請して辺地対策事業費で加工センターを建ててもらった。「建物を作ってもらったからには、使わんといけんよ!」と農家のかあちゃんたちは、発奮し加工品生産をスタートした。
 女性たちの頑張る姿を見て、地域の男性たちが変わった。最初は、「女が何をしよるか」と冷ややかだったが、そのうち「やるのぉ〜!」と感嘆に変わっていった。そして、「あれらぁがやるなら、わしらぁも手伝ってやろうじゃないか」と、平成8年、加工施設の隣りに飲食店営業施設を建ててくれたのだ。平成15年に増改築して、現在の「にこにこパーク小行司」になった。
 平成19年には、加工センターで作っている「小行司かあちゃんの福神漬」が「やまぐち農山漁村女性起業統一ブランド」(やまみちゃん)に認定された。そして平成20年には、法人化して「企業組合小行司健康グループ」を設立した。現在14人の従業員が、食堂部門、惣菜部門、菓子加工部門、コンニャク製造部門、福神漬製造部門で元気に働いている。


地域を元気にしたい!

 「おかずセット」は、なぜこんなに安いのか、一番の謎を聞いてみた。「肉とか魚とかは仕入れるけど、野菜はみんなが作ったものを持ち寄るからね。自分が食べる野菜だから、安全でおいしいんよ」と河村さんは笑った。
 ここで働く人たちは、60〜70代の人が多い。賃金はわずかだが地域を元気にしたいという思いで働いている。だから、小行司かあちゃんたちは皆、元気で明るい。「ここで働くのが生きがいなんよ」「お客さんと触れ合えるのがいいね。いろんな人と話をするでしょ。ここが無かったら、出会えん人と話ができるのは楽しいですよ」と口々に言う。
 食堂の営業時間は、午前10時から午後2時まで。閉店15分前に、悦ちゃんこと末廣悦子さんが、「もう、お客さんも来てんなかろうけぇ、今日は早じまいしようかね」と、食堂の入り口を閉めようとしたら、車が駐車場に入ってきた。もう終わりかと、立ち去ろうとする車に、悦ちゃんが大声で「お客さ〜ん!大丈夫、大丈夫じゃけぇ入りんさい!」と手招きした。「すいませんねぇ。まだ時間はあるけぇ、食べて行ってね」結局、2組のお客さんがやってきた。20皿ばかりあった「おかずセット」は完売になった。
「おばさんらぁが、遊びでやっとるんじゃろと、言う人もいるけど、私たちには、地域を元気にしたいという信念がある!」と、河村さんはきっぱりと言った。ここに至るまでには、たくさんの苦労があった。農家のかあちゃんたちは、外に出て働いた経験がない人が多く、意識を変えていくことからスタートした。気心が知れて、遠慮がなく家のこともすべてわかっている間柄だからこそ難しいこともあったという。メンバーは家に帰れば、主導権を握っている人ばかり。協調性をもってもらうのも大変だった。例えば、味付け。各家庭の味があり、みんな自分の味に自信を持っている。「甘い」「辛い」を平均的な味にしていくのは、並大抵の作業ではなかった。
 河村さんは、グループができた当初から、みんなにやる気を持たせ、まとめ上げていった。「独裁的だと言われましたよ。ヒットラーみたいだったかも。人は殺してないけどね」と茶目っ気たっぷりに笑った。そして、「リーダーは優柔不断ではダメ!何がしたいのか、何が目的なのかをはっきりさせないといけない」と言う。「ここまで信念を貫き通して、力づくで引っ張ってきたようなもんよ。でもね、一人の力じゃできんのよね。グループのみんなと地域の協力があってこそできることなんです」


小行司かあちゃんパワーが意識を変えた

 「小行司健康グループ」の活動は、たくさんの人の意識を変えていった。まず、女性の意識、女性が変わると男性の意識が変わった。そして、地域が変わっていった。地域が変わると行政も変わったという。
 最後のお客さんたちに、河村さんはお菓子の試作品を配った。「今、開発中なんですよ。食べてみて」とモニターリサーチしている。さすが、そつがない。これからもたくさん夢がある。地元の材料100%の手作り味噌を近い将来商品化したいという。小行司かあちゃんパワーは、これからも力強く、いくつもの花を咲かせていくことだろう。