「まち むら」112号掲載
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地域のニーズに応えながら自らの生き甲斐も作り出す ナルクびわこ湖南
滋賀県草津市 子育て支援サポート広場「ふあふあ」
 JR草津駅から徒歩数分。毎週火曜日、午前10時半くらいから、就園前の子どもを連れたお母さんたちが、草津まちづくりセンターの2階に集まってくる。このビルの託児室で子育て支援サポート広場「ふあふあ」が開催されているのだ。受付には、子どもが大好きなおもちゃが並べられ、エプロン姿の女性が笑顔で迎える。子どもがよちよち歩いてくると「よく来たねー!」と抱きしめて、お母さんに「いらっしゃい」と気さくに声をかける。ここで受付し、参加費200円を支払うと子どもの背中に名札を貼り付けてもらって会場に入っていくのだ。名札には、子どもの名前と生年月日が性別で色分けして書かれている。保護者同士が会話しやすくなるようにとの配慮である。


「アクティブ・シニア」を目指す団体「ナルク」とは

 この「ふあふあ」を主催するのは、特定非営利活動法人 ニッポン・アクティブライフ・クラブ(NALC)(以下ナルク) びわこ湖南。ナルクは3万人の会員を擁する全国組織で平均年齢は67歳、男性が41%を占める。NPOとしては男性の割合が多い。地域ごとに支部が組織され、滋賀県には、湖南(会員は52世帯、92名)のほかに湖西、彦根、南東など全部で9つの拠点がある。ナルクの目的は、リタイア後の人生を充実させ、生き甲斐と健康を保ち、自立して社会に貢献しながら生きること。つまり、「アクティブ・シニア」を目指すボランティア団体だ。その活動は年齢によって違うが、50歳以上のシニア会員は、年会費として1人3000円(夫婦で参加する場合、2名でも同じ)を払い、それぞれの地域のナルクの活動に参加する。ナルクの大きな特徴として、時間預託システムがある。会員になると自分の住む地域のナルクに登録し、ナルクからの指示があったボランティア活動に参加する。活動後、時間預託台帳あるいは奉仕活動報告書に自分で記入し登録しておく。時間預託分だけ、将来別のナルク会員に頼んで自分のため、あるいは自分の家族のためにボランティアをしてもらえるのだ。全国組織なので。遠くに住む親のために実家近くのナルク拠点の会員にボランティアを頼むことも可能となる。


地域のニーズに合ったボランティアを

 滋賀県の他のナルクびわこ湖西や、高島などでは、土地を貸してもらい、ビオトープ作りや里山保全活動、畑で野菜の栽培を行なっている。高島地域は高齢化が急速に進んでいる。比較的大きな一戸建てで三世代同居の家庭が多い。しかし、滋賀県内でもナルクびわこ湖南が拠点とする大津の一部・草津・守山・栗東各市は、マンションに住む核家族が多い地域。滋賀県の年少人口(0〜14歳)は平成20年の時点で2年連続増加している。県の年少人口の構成比は15.3%で、全国平均の13.5%を上回っている。特にJR草津駅周辺は商店街を構成し、JR南草津駅の周辺には立命館大学の学生や若い夫婦が多く、新しいマンションが林立する地域である。地域コミュニティに参加していない、できないという住民も多く、就園前の小さな子どもが多いのに出会う場が少ない。このような地域の特色から、ナルクびわこ湖南では、7年前に子育て支援サポート広場を草津と南草津の2カ所で開始した。当初は知名度が低く、人を呼ぶために会場近くのマンションにチラシのポスティングをするなど、広報を粘り強く続けていった。副代長の大西香代さんは「町を歩いている時やスーパーで買い物している時にも『子育て広場を毎週やっているから、来てみない?』と親子連れに声を掛けまくって、3回に1回は成功する」腕利きの「ナンパ師」になったと笑う。現在、平均すると火曜日の草津まちづくりセンターでは5〜6組、木曜日の草津市民交流プラザには14〜5組の親子の参加がある。


男性スタッフが活躍し子どもに人気

 会場では、小さな子どもたちが、ナルクびわこ湖南の事務局長、渡辺日夫さん(69歳)にだっこされても嫌がらない。むしろ「高い高い」をしてもらって大喜びで「もっと」ときりがない。全力で遊んでくれる渡辺さんたち男性スタッフはクリスマスにもサンタクロースの扮装をするなど人気者だ。「ふあふあ」に来て、男性スタッフになじんでいる子は、実家で祖父に初めて会っても大泣きしたりしないのだそうだ。また「最初はお母さんにしがみついて離れなかった子が、何度も来るうちに他の子どもと遊ぶようになっていく姿を見ると、ここで社会性を身につけているのを実感しますね」と渡辺さんも大西さんも目を細める。7月には七夕で短冊書き、10月はハロウインの仮装とカード作り、12月はクリスマスリースを作っている。童謡、紙芝居、パネルシアター、誕生会と、子どもたちの喜ぶ行事は20人の女性会員が当番制で月2〜3回担当して協力し運営している。イベントで何かを作るのは、もちろん子どもたちのためだが、むしろ保護者のほうが夢中になってくれて育児ストレス解消にもなっているそうだ。


「ふあふあ」の子育てサポート広場運営

 利用料も安く参加が登録制や予約制ではないため保護者も気楽に参加できる。また、会場は公共施設を使う。壊れたおもちゃを補充するための費用は、スーパー「イオン」の「幸せの黄色いレシート」に登録しているので寄付がもらえ、それで一部がまかなえる。そして一番大きな出費となる人件費はボランティアという、この方式は、始めるのにハードルが低いので他の組織や行政からの見学も多いという。ただし維持していくためには、様々な苦労がある。草津市民交流プラザは駅から近く駐車場も無料なので使用するためには競争率が高く、会場申し込みには毎回受付に並ばなければならない。また、山ほどあるおもちゃ類の運び込みや管理が大変だったので、思い切って草津市に寄付して、逆に市から借りることに。現在は3年間に限って草津市から会場利用料の補助金をもらっているが、それも残り1年となった。参加料だけでは会場費と保険料にしかならず、クラフトの材料費はナルクびわこ湖南の会計から持ち出しとなる。ナルクびわこ湖南では、会員からの会費と、県全域のナルクで設立した「ナルク滋賀福祉調査センター」で、高齢者福祉の一環として認知症高齢者グループホームなどの外部評価を行ない、それが主な収入となっている。研修を受けセンターに登録した会員が、認知症高齢者グループホームなどに行って、評価を行なう仕事を請け負う。それで「ふあふあ」の赤字も補填が可能なのだ。


ムリなく続けていきたい

 事務局長の渡辺日夫さんは「男性では私とナルクびわこ湖南代表、中田匡美さんがほぼ皆勤。この子育て支援広場は元気の素なんですよ。子どもたちから元気をもらえます。それによく笑うようになりました。地域の孫育てに貢献しているという喜びが生き甲斐となっています」と言う。今後も、自分たちにムリなくできる、この子育て支援サポート広場「ふあふあ」を続けていきたい、という渡辺さんと大西さん。ナルクびわこ湖南のスタッフの皆さんは、とても忙しそうに見受けられた。そして、とても若々しい。渡辺さんは「ピンピンころり、が理想ですわ!」と呵々大笑した。