「まち むら」111号掲載
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自治会連合会が推進する地産地消給食と森のエコパーク構想
広島県三次市 酒屋地区自治会連合会
 広島県の県北に位置する三次市。そのほぼ中央にある酒屋地区は緑豊かな丘陵地で、カタクリの自生やホタルの生息地としても知られる。近年、自動車メーカーの工場が進出し、三次ワイナリーやみよし運動公園などの主要施設ももうけられるなど、急速に発展を遂げつつある地区でもある。
 一方、豊かな自然を残そうとする地域の住民組織による取り組みも始まった。酒屋地区の6つの自治会を取りまとめる、酒屋地区自治会連合会が中心となり、地産地消給食や荒廃する里山を甦らせる森作りなどを推進している。


自治会が中心となり地産地消給食スタート

 酒屋地区の小学校のある日の給食の献立は「パン、牛乳、焼きししゃも、ツナサラダ、ポークビーンズ」。このうちサラダに用いられたキャベツときゅうり、ポークビーンズに用いられた玉ねぎ、にんじん、じゃがいもなどの野菜はすべて近隣農家が生産した地元産だ。酒屋地区自治会連合会では、地元の農家や栄養士などと連携して平成18年から地域の小学校や保育所の給食用に地元産の野菜食材を提供する事業を行なってきた。今でこそ地産地消給食は珍しくなくなったが、ここでの始まりは、少し事情が違う。酒屋地区自治会連合会長の箕田英紀さんによると、「平成17年、休耕田の活用のために子どもたちと植えたさつまいもが豊作だったことから保育所に持って行ったことがきっかけ」だったという。その後、栄養士から「地元のおいしい野菜を子どもたちに食べさせたい」という声が上がり、地元で協力しようと話がまとまった。箕田さんが地元農家によびかけ、翌18年に玉ねぎや白菜、大根などの数種類の野菜を、地域の3小学校と1保育所の給食に提供する活動がスタートした。
 こうして、毎週初めに、学校給食の共同調理場からの発注を受けて、10軒程度で活動している生産グループから食材を集め、月曜日から金曜日まで毎朝、必要な食材を届けるようになった。配達や毎月の伝票整理、各農家への支払いなどは連合会が一手に引き受けている。
 毎日の給食野菜を全部地元産でまかなうのは難しいものの、数種類だけの野菜納入から始まった事業も平成21年度には40種類近くの食材を提供できるまでになった。たまねぎや白菜、じゃがいもなどが主だが、三次特産のピオーネや旬のたけのこなどもある。


新鮮で安全な地元の野菜こそエコ!

 地産地消給食の魅力の一つは新鮮で安心な食材を提供できること。そのため酪農農家から仕入れた堆肥を使って土づくりにこだわり、農薬使用なども極力控えている。また、前日に収穫するようにして、新鮮さにもこだわってきた。
「取れたての野菜はみずみずしくておいしいですよ。それに地元産なら輸送コストもかからず、一般の市場に出すような包装もしなくてすみます。規格外で出荷できなかった野菜も使えるし、地産地消こそ究極のエコですよ」と箕田さんは強調する。地産地消を推奨する三次市も市場価格より安く、安全な野菜を得られるので、歓迎しているという。
 しかし、地産地消ならではの悩みもある。現在は酒河小や十日市小の学校給食共同調理場を中心に、多いときには1400人の食材を提供しているが、虫がついたり不ぞろいの野菜の調理は調理に手間がかかって大変だという。また、天候不順やイノシシの被害などで食材を供給できないこともある。
 それでも箕田さんたちが地産地消にこだわるのは、子どもたちに地元の新鮮な野菜を食べてもらいたい、子どもたちの喜ぶ姿を見たいという強い思いだ。学校でも食育活動に力を入れている。校舎に農家の人の写真を貼っているので、先生から「今日は誰々さんの野菜です」と聞くと、子どもたちも「あのおじさんだ」とすぐ顔が思い浮かぶという。ときには子どもたちに「虫も食べないキャベツなんておいしくないよ」といったような話をしたり、教育の一環で田植えの指導をしたりして、子どもたちに農業の魅力を伝えている。
 その思いは子どもたちにきちんと伝わっているようで、給食の食べ残しが平成17年度の6.4パーセントから平成19年度には2.5パーセントへと減少したという。


森を甦らせた「森のエコパーク」構想

 酒屋地区自治会連合会のもうひとつの主力事業が、里山を再生させる「森のエコパーク」構想だ。酒屋地区では人口が増えているものの、自然豊かな酒屋の良さを知らない住民も増えてきた。「酒屋をハコもの町ではなく、自然と共存の町にしたいというのが出発点でした」と箕田さん。
 荒廃した里山を甦らせ、住民の憩いと学びの場にする目的で平成17年、有志約15人が集まって荒れ果てた森を借りて整備し始めた。倒木を取り除き、枝打ちを行ない、遊歩道をもうけた森は「探検と憩いの森」と名づけられた。活動の転機となったのは平成19年にTOTO水環境基金と三次商工会議所の「町おこしチャレンジ」の助成金を得てから。これを機に活動は広がり、今では「水車カタクリの里山」「鎮守の森」「酒屋ミニ歴史街道」の整備が進み、「景観の森」や「セラピーの森」など他地域と連携した構想も広がっている。
 ちなみに「探検と憩いの森」では森学習やきのこ栽培など森と触れ合う取り組みや、まき割りや伐採など森を身近に体験してもらう試みを行なってきた。県内各地で開かれるひろしま「山の日」県民の集いの一会場にもなっており、平成22年のつどいでは森の中で山菜天ぷらを食べたり、カブトムシの幼虫探しを楽しんだりと子どもたちで賑わった。今ではすっかり地域の憩いの場として根付いている。


町を好きになってもらえたら嬉しい

 順調に見える活動だが、若い人材の育成が課題だという。地産地消の給食事業の生産者グループはこの5年間、10軒前後で推移している。それは生産者のほとんどが70代以上の高齢者で世代交代のスパンが短いためだ。このままでは生産が止まるのではないかと心配の声もあがっている。若い人は農業、森作りともに経験したことがない人が多く、これらの活動への参加は敬遠されがちだが、箕田さんはあきらめてはいない。「人づくりはすぐに成果がでるものではないですから、粘り強さが大切。まずは酒屋の自治会はいろいろな活動をしているなと興味を持ってもらえたら嬉しい。そのため何をやったら喜ばれるか、試行錯誤の連続です」と将来を見据えた地道な活動を続けている。
 地域づくりはすぐ目に見えた成果があがるものばかりではない。あせらず着実に一歩ずつ。この積み重ねが周囲の人を巻き込み、やがて大きな輪になって広がる。この確かな歩みがいつか「地元を好きになって、一人一人が酒屋のよいところを一つでも語ってもらえれば」という、地域の人たちの願いをかなえてくれるに違いない。