「まち むら」111号掲載 |
ル ポ |
閉校した小学校を活用し子育て支援や交流事業を展開 |
神奈川県相模原市 NPO法人篠原の里 |
2007年3月に相模原市に編入された旧藤野町の篠原地区では、閉校した小学校校舎を活用した交流・宿泊・研修・ふれあい施設「篠原の里センター」を開設し、様々な事業を展開している。都市住民との交流や地域内での交流活動とともに、市認定保育室「のびるっ子」を設置して乳幼児の共同保育を推進。また、小学生対象の放課後ふれあい教室「しのばらっ子」や、乳幼児と保護者対象の子育てサロン「わはは」などの子育て支援活動に取り組んでいる。特定非営利活動法人(NPO法人)「篠原の里」を設立し、地域住民が主体となって施設の運営や活動を進めているのが特徴だ。 地域住民で閉校後の活用を検討 「篠原の里センター」は2005年5月にオープンした。2003年3月に閉校した篠原小学校を整備し、地域交流拠点として開設したものだ。同年4月に設立したNPO法人「篠原の里」(岩木晃範理事長)が管理・運営に当たっている。 「篠原小学校が閉校することになり、それならば地域住民のニーズに沿った活用をするべきだと町と話し合いを重ねました。自治会や老人会など地域団体代表で組織する篠原地域振興協議会が中心となって検討を進め、町から無償貸与される施設の管理・運営を行なうため、協議会を母体に地域住民でNPO法人を立ち上げました」と「篠原の里」事務局員の後藤素子さんは当時を振り返った。 篠原小学校区であった篠原・牧馬地区は、約80戸、人口約250人の山間の小さな集落だ。都心から1時間程度の距離にありながら、ホタルやギフチョウが飛び交う豊かな自然に恵まれている。 校舎活用の検討は、以前から交流のあった日本大学の糸長浩司教授の研究室の協力も得て、地域住民によるワークショップや都市住民へのアンケートなども交えながら進めたという。 「小学校がなくなり、子どもの声が聞こえなくなるのが淋しいという意見が強かった。また、地域住民が使いやすい施設にしてほしい、都市の人たちに里山の自然を楽しんでもらう交流の場にしたいという声も多かったですね」と後藤さん。 その意見に基づき、@都市農村交流事業、A地域内交流事業、B子育て支援事業を柱にした「篠原の里計画」をまとめ、NPO法人「篠原の里」が主体となって活動を開始した。 認定保育室「のびるっ子」を開設 「篠原の里」は現在、理事長を含めた理事9人、事務局スタッフ5人、正会員33人で構成。正会員は入会金3000円、年会費7000円で随時募集している。 センターは、宿泊室、研修室、自炊調理室、シャワー室などを備え、親子親睦団体や少年野球チーム、大学のゼミ・サークルの合宿、自然体験グループなどに利用されている。2009年度は延べ1227人が宿泊利用した。炭焼き体験、陶芸教室、野鳥観察、みどりの里山コンサートなどの都市農村交流イベントや、ホタルの夕べ、敬老会などの地域交流イベントも開催。イベント等による2009年度の施設利用者は延べ5800人に上った。それら交流事業の運営費は、行政からの助成金等にほとんど頼らず、会員会費と事業収入で賄っているのが特徴だ。 もうひとつの特徴は、センター内に保育施設を開設していることである。センター開設と同時に無認可保育園「のびるっ子」を開園。2007年3月からは、相模原市の認定保育室になった。 「校舎活用の検討を進めていたとき、地元の私立保育園が閉園するという話がありました。里山の自然や遊びを活かした独自の理念で保育を行ない、人気が高かったことから、保護者の組織で運営を継続できないかということになりました」と後藤さん。「篠原の里」が運営し、地元の保護者と保育士が一緒になって事業を進める共同保育の形で開園したという。 保育士5人、給食調理員3人が勤務。募集定員は33人で、生後8週間〜就学前の乳幼児が対象。保育時間は月曜〜金曜の7時〜18時。土曜や18時30分までの延長保育のほか、一時預かり保育も実施している。入園料は2万円、保育料は月3万7000円〜4万5000円。篠原地区の美しい自然の中での遊びや運動を存分に取り入れるとともに、地域異世代交流として地域イベントへの参加や高齢者との交流機会を保育に取り入れているのが特色。独自の保育カリキュラムに惹かれ、地域外からの入園者も少なくない。 2009年度は年間を通じて25人の保育を受け入れ、8人の子どもが卒園していった。 様々な子育て支援活動を展開 放課後ふれあい教室「しのばらっ子」も開設している。スクールバスで10分離れた藤野南小学校に通う篠原・牧馬地区の小学生を対象に、下校後の安全な遊び場としてセンターを開放する取り組みだ。月曜〜金曜の放課後から18時まで、篠原・牧馬地区の小学生であれば自由に利用できる。 「センターがオープンした2005年5月から行なっています。無料で利用でき、10人くらいの子どもたちが自由に遊んだり、宿題をしたりして過ごしています。保育園児とも触れ合え、0歳の赤ちゃんから小学校6年生までが一緒に過ごすことができるのも大きな特色です」と後藤さん。 第2・第4水曜の月2回、10時〜12時には、子育てサロン「わはは」を開催している。篠原・牧馬地区だけでなく広い地域の乳幼児と保護者を対象にした子育て支援活動だ。保育士の協力を得て、子育て相談や乳幼児体験プログラムなどを行なうとともに、第4水曜にはランチサービスを提供。親同士の情報交換や交流の場となっており、毎回、10組20人程度が参加している。 2007年度からは、センターの食堂を利用して毎週金曜の12時〜17時に「里カフェ」を開いている。石窯で天然酵母のパンを焼いている会員が始めた活動で、手づくりのパンやスープ、コーヒー、スイーツなどが楽しめる。保育園に子どもを迎えに来る親などの常連客を中心に、毎回20人〜40人が午後のひとときを過ごし、交流を深めている。 その中からは新たな動きも生まれ、2009年5月から「里の市」が始まった。フリーマーケットや地元農産物の直売、ワークショップなどを行なうイベントで、毎月第1土曜に開催。毎回、多くの参加者で賑わう。 後藤さんは、「のびるっ子」をはじめ、様々な子育て支援活動によっていろいろな人と活動の結びつきが生まれ、交流の輪が広がっているという。 「閉校後の小学校を都市住民との交流だけに活用していたとしたら、平日にこれほどまで活発に利用されなかったと思います。保育園を始める前は、小学校がなくなるくらい子どもが少ないのに保育園が成り立つのかと心配する声もありました。しかし、実際開園すると、たくさんの子どもたちが集まり、保護者の交流から様々な活動が生まれています。それが地域の交流活動の起爆剤になっていることを最近強く感じるようになりました」と保育園の効果を強調する。 今日も地域には、子どもたちの元気な声がこだましている。 |