「まち むら」110号掲載 |
ル ポ |
地域の子どもは地域が守り育てる! |
山口県岩国市 ひらたげんきっこクラブ |
子どもたちの居場所づくりは大人の役目 ある土曜日の朝、坂の上の小学校から、子どもたちの元気な声と大人たちの声が聞こえてきた。ここは山口県岩国市の平田地区。平田は、名前の通り山に囲まれた平地で昔は田んぼが多いのどかな場所だった。しかし、今では、山はだに団地がたくさんでき市内でも1、2を争う人口増加地区となっている。子どもも多く、平田小学校には1000人近い児童が通っている。その子どもたちのために居場所をつくろうと「ひらたげんきっこクラブ」は、平成17年に設立された。幼稚園の子どもから小学生まで、平田に住んでいる子どもだったら誰が来てもいい。 「ひらたげんきっこクラブ」は、文部科学省の「子どもの居場所づくり『地域子ども教室』」事業として設立された。この事業は平成20年度で終了したが、「事業費がなくなったのでクラブも終了です」というわけにはいかない。そこで、大人たちが知恵を出し合い、お金をかけずに手間をかけて運営を続けている。事業終了後も参加費は無料。運営費は、22名いる会員の会費(年500円)と賛助会費、そして文部科学省の事業で個人に支払われた謝金をクラブに寄付したお金で賄っている。参加費は無料。だいたい月1回のペースでイベントを開いている。会員には子ども会の役員OBが多いので、子ども会と協賛しているイベントも多い。 クラブの会則には「このクラブは、地域のボランティアが連携・協力をはかり、地域の住民である大人と大人、子供と子供のほか、大人と子供の交流を作り出す中で、@地域教育力を高め A地域の伝統文化を継承し B地域の自然や環境を守り C子供の居場所をつくりだすことを目的とする」と書いてある。子どもの居場所をつくりながら、地域と子どもたちを固い絆で結び付けることが目的だ。 平成21年度は、電車に乗って山奥の町に行って豆腐やこんにゃく作り体験をしたり、キャンプや盆踊り、リサイクル工作をした。そして、地域の人たちとお月見を楽しんだり、スポーツをしたり、とんどまつりをしたりと絆をつくってきた。家族以外の大人と話すことがあまりない子どもたちにとって、これは貴重な体験だ。 スーパー竹とんぼは、子どもの夢のように高く飛ぶ この日のプログラムは、「むかしの行事だ!〜竹馬、竹とんぼをつくろう。それからたのしいもちつきだよ〜」子ども70人が参加。いつもは倍以上の150人以上が参加するというが、残念ながらこの日はスポーツ少年団の試合が重なってしまって人数が少なかった。 小学校内の地区体育館の中では、小さい子ども向けの「竹とんぼ作り」、体育館の外では「竹馬作り」が始まった。体育館の横では、子ども会のお母さんたちが餅つきのために忙しそうに動いている。なんだか盛りだくさんの1日になりそうだ。 「竹とんぼ作り」をのぞいてみると、ブルーシートの上で、子どもたちが竹とんぼの羽根をサンドペーパーでこすっている。割れないように丁寧に薄くすることで、飛び方が格段に変わってくる。 「これはね、普通の竹とんぼじゃないんよ。スーパー竹とんぼ! 体育館の天井まで飛ぶよ」と、常任理事の三原善伸さん。「天井まで飛ぶ」の言葉に子どもたちの目が輝き、羽根を作る手の動きが速くなる。薄い羽根ができると、竹ひごを羽根の真ん中の穴に入れる。羽根に色マジックで思い思いの模様を書いたらできあがり!! 「おじさん、これでええ?」「おお、上手にできたのぉ! でも、もうちょっとこっち側の羽根を薄くしたほうが飛ぶぞ」 「おじさん、うまく飛ばん」「ええか、見ちょけよ! こうやって上に向けて飛ばすんじゃ!」会長の林輝昭さんが竹とんぼをはさんで両手を力強くこすると、竹とんぼは天井めがけてすごい勢いで飛んでいった!「すっご〜!!」子どもたちから感嘆の声。林さんの顔が子どものようにほころんだ。大人も子どもの心に帰れる時間なのかもしれない。 大人と子ども、子どもと子どもの絆づくり 体育館の外では、竹馬作りの真っ最中。子どもたちは自分の背丈より長い青々とした竹を2本ずつ持っている。竹を踏み板2枚で挟んで、縄で縛ればできあがり。作りは簡単だが、作るのはむずかしい。「縄を竹の節のとこで縛らんと乗ったときに下がるよ!」おじさんの声に、子どもたちの目も真剣になる。 子どもたちが四苦八苦している時に、楽々乗っている男の子がいた。聞くと小学3年生だと言う。「あのね、前に竹馬を作った時、お父さんに怒られながら練習したんよ。そん時は、3時間で乗れるようになったんよ。竹馬に乗るとね、背が高くなったようで楽しい!」お父さんの猛特訓のおかげで、一番うまく乗りこなしている。なんだかさわやかな男の子だ。 竹馬は作れても、乗って歩くのがむずかしい。乗ったかと思うと、バランスを崩して落ちる子が多い。靴を脱いで靴下まで脱いで裸足で乗っている子もいる。「前に重心を倒すようにして乗るんよ! 足の指で竹を挟んで乗ってみい」と、おじさんたちの声がする。 さっきのさわやか君はどこに行ったのかと見ると、乗れない子たちに熱心にコツを教えていた。次に探した時には、いない・・・。竹馬は隅っこに立て掛けてある。飽きたのかなと思ったら、小さい子の竹馬作りを一生懸命手伝っていた。これがいいのだ! 異年齢で助け合う。最近ではなかなか見ない光景だ。昔は、近所の異年齢の子と空き地や道端で遊んでいた。強くて少し怖いけど面倒見のいいガキ大将がいて、小さい子たちは一目おいていた。年上の子が、いろいろなことを下の子に教える。ビー玉遊びや、チャンバラごっこ、ゴム飛び、ケンケンなどの遊びも伝承していたのに、いつの間にか失われてしまった。それを、「ひらたげんきっこクラブ」は復活させようとしているのだ。 技術や知識を身に付けて、また地域に戻ってきて欲しい 林さんは、27年間子供会に関わってきた。「昔は、親は公園に行っておいでと子どもを送り出せたがね、今はそれができん危ない時代になってきた。それじゃったら、地域の大人が子どもの安全を確保してやらなきゃあいけんよね」 月1回のイベントだがその準備は大変だ。今回のイベントでも、あらかじめ竹を切ってきた。竹とんぼの羽根は竹を割ってグラインダで削って形にしてある。「竹は、会員さんの竹林から切ってきたしね、竹ひごとグラインダの歯は100円ショップで買うけえね、金はいらんのよ」いやいや、お金はかからなくてもなかなかできることではない。「子どものためというより、自分のためじゃね。子どもたちからエネルギーをもらうんよ」と、林さんは子どもたちをいとおしむように見た。 三原さんは、「子どもが小さい時にワクワクドキドキする経験をいっぱいさせたいね。その経験が、大きくなった時にいろんな世界に進んでいく力になるんよ!」という。「不思議だった、おもしろかった! という体験が、科学する心になれば大きくなって科学者になるかもしれんでしょ。物を作る体験ができない時代だからこそ、こういう場が必要なんじゃないかね。岩国から離れても、技術や知識を身に付けてまた地域に戻ってきて欲しいね。もしかしたら、ノーベル賞をとる子がいたりして!!」三原さんは子どものように大きな声でワハハと笑った。 最後は、餅つき。子どもたちの喚声と大人たちの笑い声がいつまでも響いていた。 地域の子どもは地域で守る! 大人たちが一肌脱いで子どもたちを育てる「ひらたげんきっこクラブ」の活動は、いろんな地域に広がって欲しい活動だ。 |