「まち むら」110号掲載
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家庭と農家を結んだ生ごみ回収・堆肥化を推進
神奈川県相模原市 相模原いきごみ隊
 家庭で出た生ごみを回収し、堆肥にして地元の農家で使ってもらい、その堆肥で栽培された地場の新鮮な有機野菜を入手する――相模原市では、各家庭のキッチンと農家を直接結び、生ごみ回収と堆肥による野菜づくりを循環させた生ごみの減量・資源化が進められている。市民グループ「相模原いきごみ隊」が行なっている活動で、地域住民自ら生ごみの資源化を進め、ゼロウエイストをめざすのがねらい。その輪は市内に広がっている。


「まちづくりセミナー」がきっかけ

 「相模原いきごみ隊」は、さがみはら市民活動サポートセンターで2003年度に開催された「まちづくりセミナー」をきっかけに、9月に誕生した。
「地域の様々な課題解決やまちづくりに向けて、住民自らできることを考えてみようというセミナーを企画しました。テーマを絞った方が進めやすいと考え、誰でも参加できる身近な問題としてごみをテーマに選んで会合を始めました」とNPO支援のスタッフとして活動し、現在、「いきごみ隊」代表を務める斉藤奈美さんは発足の経緯を話す。
 主婦やリタイアした男性、ごみの問題に関心のある住民など10人くらいが集まり、月2回のセミナーを開始。「プルタブを集めると本当に車いすになるの?」「ペットボトルや発泡トレーは回収後どうなるの?」などの素朴な疑問を出し合い、市職員へのヒアリングやごみ処理施設の見学も行ないながら学習活動を進めた。そのような中から、生ごみに対する問題意識が高まっていったという。
「市内のごみの40%は生ごみで、生ごみの70%以上は水分。生ごみを堆肥にすれば資源となり、ごみを減量することもできます。にもかかわらず、多くのエネルギーを費やして燃やしているのが現状。もったいないなと思いました。生ごみ処理機を導入している自治会を見学するなど、生ごみの処理や堆肥化の知識を深めていきました。サポートセンターのセミナーは03年度に終了しましたが、せっかく集まったので継続的に活動しようということになりました。農業を行なっているメンバーがおり、堆肥を使ってもらえることから、生ごみの回収と堆肥化を始めることにしたのです」と斉藤さん。


「青空生ごみ堆肥化事業」をスタート

 04年4月から、斉藤さんをはじめ数人の家庭による生ごみ回収モデル活動を開始した。密閉バケツに生ごみと堆肥化を促進するボカシ肥を入れて、1週間に一度回収。それを地元の農業生産法人である有限会社青空農園に引き取ってもらう。有機農業に取り組んでいる青空農園では、回収した生ごみをさらに熟成させて堆肥として利用。生ごみを出した家庭は、その堆肥で栽培した有機野菜を受け取る仕組みにした。
「県や生協からの助成金を受け、どのようなやり方がいいのか、調査・検証しながら進めました。1世帯で1週間当たりに排出する生ごみ5キロ分が減量されるなど、効果も確認できました」
 地元の東第3自治会などにも声をかけて参加者を募り、05年から「青空生ごみ堆肥化事業」として本格スタート。市からパートナーシップ事業助成金や市民企画提案型補助金なども受け、生ごみ資源化の活動を確立していった。
 参加者は年々増え、会員は現在約30人。会費は月2000円で、週1回生ごみを出すと、引き換えに朝採りの旬の有機野菜が届けられる。
「地場の安全な野菜が手に入るのだから、決して高い会費ではないと思います。美味しい野菜が食べられることを楽しみに参加している会員も少なくありません。定期的な生産物の販売が見込めるので、青空農園にもメリットがあります」と斉藤さんはにっこり笑う。
 野菜くずなどはよく水を切り、分解できない骨や貝殻などは避けるとしたほか、生ごみにはあまり難しい条件は課していない。密閉バケツに生ごみとボカシ肥を入れておくだけでいいので、手間はかからず、臭いもあまり気にならない。
「ボカシは、袋に入れて配っています。自分たちが出した生ごみが、再び野菜となって自分たちの口に入るわけですから、自ずと生ごみの出し方にも気を使うようになります。いい堆肥をつくろうという意識が高まっていくんです」


地域の農家とのつながりがカギ

 生ごみの回収は、当初、「いきごみ隊」会員が交代で行なっていた。回収拠点に出されたバケツを軽トラックで集めて青空農園まで運ぶ作業を、ボランティアとして行なっていたのだ。
「基本的に、事業は会費に基づいて進めていました。野菜購入代金として青空農園に納めるほか、ボカシ代やガソリン代、事務費などに使うと、とても回収作業の人件費にまで回りません。なんとか回収作業代を捻出できないかと思案し、市の資源循環推進課と定期的な話し合いを持ちました」と斉藤さん。
 その結果、07年度〜08年度の2年間、回収費用や堆肥化によるごみ減量の効果、堆肥の質などを調べる実証実験を市とともに実施。それに基づき、09年度に有機性資源活用補助金の創設を実現させた。生ごみを有効利用する5世帯以上のグループを対象に、1世帯当たり年間1万円を補助することになったのだ。
「相模原市ではごみの有料化が実施されておらず、税金で処理されています。生ごみを減らせば、その分の処理費はかからないわけですから、資源化に取り組んでいる家庭に還元してもいいのではないかと働きかけたのです」
 ごみ処理費は1世帯当たり年間約2万4000円かかっていた。そのごみの40%は生ごみだったので、40%に相当する1万円を補助することにしたという。「いきごみ隊」も年間約30万円の補助金が受けられるようになった。回収作業の人件費が確保でき、09年度からは青空農園の職員が回収に当たっている。
 この補助金ができたことで市民の生ごみ資源化の意識は高まり、活動に取り組むグループが増えてきた。「いきごみ隊」メンバーは、公民館などが主催する生ごみ資源化の講座やワークショップなどに講師として招かれる機会も少なくない。市は09年度に「有機性資源活用事業市民アドバイザー制度」を導入。斉藤さんも市民アドバイザーに登録され、生ごみ堆肥化の広がりに一役買っている。
 斉藤さんは、町内会など身近なエリアでの活動の広がりに期待を寄せる一方、次のような課題を挙げる。
「せっかく堆肥を作っても、その受け皿がなければ活動は進みません。その意味で、農家との連携が求められます。ごみ捨て場にされるのではないかと心配する農家の方もいますので、信頼関係を築くことが何よりも大事です」
 「いきごみ隊」でも会員と青空農園との交流を深めるため、農業収穫体験などの催しを実施したり、田植えなどの農作業の手伝いを積極的に行なっている。
「地元の農家の皆さんとしっかりつながり、地産地消も進めていければと思います。それが地域の農業を元気にしていくことになるのではないでしょうか」と斉藤さんは今後の抱負を語ってくれた。