「まち むら」106号掲載 |
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自治会が中心となってホタルの里づくりを推進 |
埼玉県東松山市 上唐子第一区自治会 |
埼玉県東松山市は、地域や市民との協働による環境保全活動の一環として「ホタルの里づくり」を推進。そのモデル事業として、上唐子第一区自治会(約220世帯)の地区内で「上唐子ホタルの里」の整備・維持管理に取り組んでいる。地権者と同自治会、市の三者で協定を締結し、自治会を中心に、地域住民、市民ボランティア、市の協働で活動を進めているのが特徴だ。 ホタルの里づくりのモデル地区に選定 埼玉県のほぼ中央に位置する東松山市は、比企丘陵の豊かな自然に恵まれ、谷津田やため池、雑木林で形成された里山が市内随所に残されている。 「昭和40年頃までは、地域のあちこちでホタルが舞っていました。しかし、農薬散布や休耕田の増加などによって田んぼの生き物は激減し、ホタルも目にしなくなりました。それでも、上唐子不動の滝周辺の湿地には、わずかながらヘイケボタルが自生していたんですね」と上唐子第一区自治会前区長で、ホタルの里推進委員会会長の小林登さんは振り返る。 東松山市が「ホタルの里づくり」事業に乗り出したのは、ホタルの保全を訴えた中学生からの手紙がきっかけだった。市は、ホタルを人と自然との繋がりを象徴する存在として位置づけ、地域ぐるみでホタルを保護・育成することによって身近な環境保全活動の輪を広げていくことをめざしたのだ。 平成11年度〜14年度に市民や専門家等による委員会などでホタルの生息確認調査や里づくりの方向性を検討した。その結果、生息が確認された市内20か所の中から、上唐子第一区自治会地区内の上唐子不動の滝周辺をホタルの里づくりのモデル地区に選定した。 モデル地区は台地の縁に接し、湧水のある湿地と竹林、休耕田からなる約1.7haのエリア。地権者は15人に及んだ。長期間にわたって人手が入っていなかったため、竹林はうっそうとし、背丈を超える雑草が生い茂って足を踏み入れられる状態ではなかったという。 「平成16年秋に、市から自治会にホタルの里づくりについての具体的な話がありました。平成17年の自治会総会で自治会の事業として取り組むことを提案し、賛同を得て活動することになりました」と当時の上唐子第一区自治会区長で、現在ホタルの里推進委員会副会長を務める岩田剛吉さんは経緯を話す。 地権者・自治会・市で協定を締結 地権者の理解・協力が得られたことから、平成17年からホタルの里づくりに向けた活動が始まった。 2月に自治会役員有志や地域住民、市民ボランティア、造園業者、市職員などで竹林の整備を行なった。竹林には伸び放題の竹がアーチのようにしなってトンネルをつくり、地面には枯れた竹が倒れていた。枯れた竹を運び出し、古い竹を切って間引くと、竹林の間から空が覗けるようになった。 その竹林で6月にキャンドルナイトを実施した。竹でつくったキャンドル立てを並べて灯を点し、地元ギタリストのミニコンサートを楽しむ催しだ。また、近くの丸木美術館で「ホタルの里の展覧会」も開催した。専門家や子どもたちによる生き物調査や水質調査なども進めた。湿地の整備や草刈りも行ない、平成18年3月にはホタルの里を守る看板や間伐材でつくったベンチを設置した。これらは市民協働で進めていった。 「アズマネザサの藪を刈り、セイタカアワダチソウなどは一本一本根から引き抜きました。雑草は毎年伸びるので、定期的に行なうことになりました」と上唐子第一区自治会区長の江野利平さんは話す。 並行して市は平成18年度〜20年度にホタルの里整備工事を実施。18年度は湿地整備工事、19年度は水路・畦畔整備工事、20年度はゲート・案内板設置工事を行なった。今後の維持管理も見据え、実習も兼ねて工事の一部を地権者、上唐子第一区自治会、市の三者で行なったのが特徴だ。 こうして三者は、手づくりでホタルの里づくりを進めるとともに、ホタルを育てていくためのルールについての話し合いを重ね、平成19年1月に地権者、自治会、市の役割などを明記した三者協定を締結した。5月には地権者、自治会役員、市民ボランティアなどで組織するホタルの里推進委員会も発足した。 「継続的な活動には地域全体の理解と協力が必要です。委員会発足によって活動体制が整いました」と小林さん。 現在65人が委員会メンバーとなっており、毎年5月と11月に竹林整備、6月と10月に草刈りを行なうなど、本格的な維持管理活動を進めている。竹林整備では、年間100本の竹を伐り出すという。 「作業には地権者や地域住民、市民ボランティア、市職員など30人くらいが参加し、無理をせずに進めています。それが長続きのコツ」と岩田さんは話す。 ホタルの観察会を実施 ホタルが飛び交う時期には観察会も実施している。今年度は「ホタルの観察週間」を設け、7月4日〜12日に観察会を実施。推進委員会のメンバーや市職員、市民ボランティアなどが交代で案内役を務めた。 「雨が降らない限り、毎夜7時30分から9時頃まで行ないました。平日で30人〜50人、土曜には100人以上がホタル観察に集まりました」と小林さん。 幻想的な光景をひと目見ようと、地元だけでなく県内からも多くの観賞者が訪れた。小型バスで都心から来た団体もあったという。 「毎年、ホタルの発生チェックを行なっています。今年は各夜30頭〜150頭で昨年より少なかったのですが、それでもホタルが舞う光景を観た人たちは感嘆の声を上げていました」と小林さん。 岩田さんも、「竹林の管理や草刈りは大変ですが、ホタルを観た人が感動してくれると本当にうれしい。ホタルの里づくりを通じて、自分たちの地域の素晴らしさを再認識しました」と目を細める。 江野さんは、「ホタルの里づくりによって自治会活動も活性化しました。孫を連れた高齢者がホタルを見せながら昔の様子を語り伝えたり、他地域との交流も生まれています」と効果を話す。 一方で、世代が代わっても活動が継続していく体制づくりが、今後の課題だという。現在は推進委員会が中心となって熱心に活動しているものの、地域住民の高齢化が進んでいるからだ。 「ホタルを観た子どもたちがふるさとの良さを深く心に刻み、この自然を地域の宝として残したいと思うことが大事。その感動が活動の推進力になるのではないでしょうか。ホタルが生育する環境を次世代に残していくことが、私たちの役目だと考えています」と小林さんは話す。 市は、上唐子第一区自治会が中心となって進めているホタルの里づくりのノウハウをまとめた「ホタルの里 維持管理の手引き」を作成した。市内にはホタルの生息地が点在し、ホタルの保護などに取り組む市民活動や地域活動も活発化している。地域住民とボランティア、市の協働によるホタルの里づくりのさらなる広がりが期待されている。 |