「まち むら」106号掲載
ル ポ

地域に眠った宝を磨き、時代に合った形にコーディネートする
宮崎県宮崎市 NPO法人宮崎文化本舗
 平成18年のある日、宮崎市にあるNPO法人「宮崎文化本舗」代表の石田達也さんに、高校時代からの親友、黒木幹夫さんから一本の電話が入った。
 「おい石田、宮崎市自然休養村センターって知ってるか? 今度、指定管理者の募集があるらしいぞ」
 「あ〜、あそこか。やめとけ。相当な赤字らしいぞ。再建は無理だ」
 黒木さんは地元の出身者だった。身内から、センターが指定管理者を募集するという話を聞きつけ、「経営のやり方を工夫すれば何とかなるはず」と思い、石田さんに相談した。石田さんも、その地域の人たちが「この温泉はうちら地元の宝の場所。みんなが利用できる温泉として何とか復活させたい」と願っていることを知っていた。
 2人は情報収集し、事業計画を練った。そして計画が出来上がったとき、「ダメ元でやってみようや」と、指定管理者に手を挙げた。


自然休養村センターの管理者に

 宮崎市自然休養村センターは、宮崎市内から車で20分ほどの緑豊かな木花地域の自然の中にある。農村地域の活性化を期待され、昭和52年に建てられた(これまでに5回ほど増改築が行なわれた)。しかし、周囲に近代的な温泉施設がたくさん作られる中、来場者は年々減少、センターは次第に集客力を失っていった。
 センターを運営・管理してきた宮崎市は、平成18年、指定管理者制度による受託先を募集した。
 NPO宮崎文化本舗は平成12年に立ち上げられ、ミニシアター系の映画館「キネマ館」の運営と、市民活動の事務局代行を主な業務として行なってきた。温泉施設の再建のノウハウはなく、多額の赤字に苦しむセンターの指定管理者など初めは考えもしなかった。
 石田さんに電話をかけてきた黒木さんは、かつて関西方面で温泉事業体を傘下に持つ多角経営の会社に勤め、温泉事業の立ち上げの経験も持っていた。その黒木さんの話を聞くうち、石田さんは、「もしかすると何とかなるかも?」という可能性のほうに少しずつ心が動いていった。地元に根強い復活への願いがあることも大きな後押しとなった。
 「ダメ元」で出した事業計画書が評価され、平成19年からNPO法人宮崎文化本舗は宮崎市自然休養村センターの受託先に決定した。


一流の公民館施設を目指して

 前管理者からの引継ぎはまったく行なわれなかった。センターのカギを受け取ったのは、平成19年4月1日のことだった。
 「5日間は休業にして、4月6日からオープンしよう」と決め、不眠不休で準備に奔走した。ホームセンターに何度も足を運び、必要な品物を買いまくった。「あれは生涯で一番買い物した日でした。レシートが1メートルぐらいになりました」と、石田さんは当時を振り返り苦笑する。
 センターの支配人になった黒木さんはその逆境に燃えた。「やってやる。意地でも成功させてみせる。今に見ていろ!」
 悪いと思ったところはとにかく改善した。まず、「午前9時から午後4時まで」の営業時間を「午前10時から午後9時まで」とし、現役世代が立ち寄れる時間帯にした。建屋が古くても小ざっぱりときれいにしてあれば評価されると考え、施設内を徹底的に掃除し、磨き上げた。昔の診療所風のガラスの小窓での受付を、人と人とがカウンターでやり取りする対面方式にした。利用者が館内で履くスリッパを、スタッフでいつもきれいに並べるようにし、1時間ごとのトイレ、浴槽、脱衣場の清掃見回りを実施した。
 宴会は1500円から利用できるようにし、レストランのメニューも増やした。市内在住のフランス料理のシェフを説得し、スタッフに加え、料理の幅を広げた。
 近郊の町(片道40分以内)の予約には、バスでの送迎を行なった。気軽に利用できることからいろんな機会で利用されるようになり、地元の人たちが公民館代わりに使うことも増えてきた。
 「繁盛することが地域の活性化になる。くつろげて、気取らなくていい、敷居の低い、そういう一流の公民館のような施設を目指しています」と黒木さんは話す。


絶えず改善のアイデアを出し合って

 特に大切にしているのが地元との関わりだ。いろんな健康づくり教室を実施したり、ちんどん屋を呼んでの季節ごとのイベントなど、賑わいを積極的に演出している。今年5月には、宮崎文化本舗が指定管理者になって営業を開始してからの利用者数20万人突破を記念して、「第1回休養村楽市楽座」を開いた。地元大学の留学生がそれぞれのお国自慢料理を振る舞ったり、金魚すくい、地元JA女性部や漁協婦人部による農林水産物の販売などを行い、1000名以上の市民が各地から集まった。
 施設内に豊富にある木々を、シルバー人材センターの受講生(60歳以上)たちの剪定教室の実習場所として提供することも始めた。剪定作業をすると全身汗びっしょりになる。剪定作業の特典として無料で入浴ができるので、受講生たちにも好評だ。
 センターの利用者の約8割が高齢者なので、バスに乗ってやってくる人たちも多い。この2年間でのバス利用者の増加の実績を地元のバス会社、宮崎交通に持っていった。その申し出が認められ、各地でバス路線の廃止が進む中、7月1日よりセンターへの宮交バスが乗り入れが実現した(上り3便、下り3便)。
 黒木さんの頭の中には、「いつも、とにかく改善と新たなチャレンジ」がある。平成20年度からは、毎月の「改善ミーティング」で年間240項目以上の改善点を検討した。絶えず、みんなで改善のアイデアを出し合い、公共施設としての癒し・ふれあい・くつろぎ・おいしいを感じてもらえる仕掛けづくりを考えている。
 「この2年3カ月での休みは身内の葬儀のときの1日だけ。とにかく改善に追われた日々でした。だから多くのお客さんが来てくれるようになったんだと思います」と、支配人の黒木さんは今も熱い。
 宮崎文化本舗が業務受託する以前の平成18年の利用者は約4万5000人。受託後の平成19年は、8万4000人と倍増した。平成20年は約11万人にまで数を伸ばし、今年度はさらにそれを大幅に上回る見込みだ。
 入浴に来た常連さんに話を聞いた。「ここは料金も安いし、お湯も気持ちがいいので毎日来ているよ。支配人に気さくにいろんな要望も出せるしね」と笑った。黒木さんの温かい人柄も、多くの利用者を集める要因の一つのようだ。


自治会もコーディネート力をもつと町は変わる

 宮崎文化本舗は、活動の基軸である映画館運営と市民活動の事務局代行のほか、自然休養村センターを含め全部で四つの指定管理の業務受託をしている。
 その一つである墓地「みたま園」の業務受託では、企業と知的障害者施設の間に入って、知的障害者の子どもたちに月に1、2回の墓地の草取りの作業を提供した。
 また、市民活動に対する相談や支援にも積極的に取り組んでいる。昨年度は延べ535件もの相談を受けた。同じように運営に携わる立場からの、相談に対する的確な答えや具体的なアドバイスに、相談者たちは心強さを感じるのだろう。
 「全国のNPOは今も数を増やし続けています。今年の秋には4万件ぐらいまで行くでしょう。でもその実情は、半分以上はほぼ休止状態。ボランティア時代は仲良く楽しくやっていたのに、NPO法人化して事業を取ってきたために分解してしまうケースもある。立ち上げる前に充分議論し、納得してやっていくことが大切でしょうね」と石田さんはアドバイスする。
 そして石田さんは、これからの地域のあり方についてこう語った。
 「自治会とか老人会とか子供会とか婦人会とか、いろんな団体が地域にあるけど、その枠を超えて連携し、自分たちをプロデュースしたり企画したりするノウハウを持っている裏方がいれば、地域はもっと面白くなると思う。そういう意味では自治会の可能性は充分ある。みんなが参加できるように間口を広げていくノウハウをもっと伝えていきたい。自治会がNPO的なノウハウを持って動けるようになると、町はすごく変わっていくはずですよ」
 地域にはまだ「眠った宝」がたくさんある。それを呼び起こし、磨きをかけ、今の時代に合った形にコーディネートすることで、そこに価値が付与され、受け入れられていくものになっていく。コーディネートに携わる人や組織の能力の高さ、それが地域の輝き方を決める時代になってきた。