「まち むら」105号掲載
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農業と観光、環境が調和した湯にばーさるなむらづくり
熊本県山鹿市 平小城活性化協議会
 山鹿市(やまがし)は、平成17年1月に旧山鹿市、旧鹿北町(かほくまち)、旧菊鹿町(きくかまち)、旧鹿本町(かもとまち)、旧鹿央町(かおうまち)の1市4町が合併し発足した市で、熊本県の北部に位置し、頭に和紙と糊で出来た金色の灯籠をかぶって優雅に踊る「山鹿灯籠まつり」で知られている。平小城(ひらおぎ)地区は山鹿市の北西に位置し、東西約3キロ、南北約7キロ、総土地面積14平方キロで、人口約1700人、総世帯数約500の小さな集落である。明治22年に平山村(ひらやまむら)、小群村(おむれむら)、城村(じょうむら)の三つの村が合併し頭文字を1文字ずつ使って、「平小城(ひらおぎ)村」となり、その後山鹿市平山・城・小群となったが、現在も平小城地区としてまとまっている。
 主な産業は農業で、米を中心に、スイカ、トマト、キュウリ、イチゴなどが作られている。しかし、経営面積は2ヘクタール以下がほとんどで、経営規模が小さく、高齢者、兼業農家が中心となった経営を行なっている。それに、後継者不足や担い手の不足による農地の遊休地化が大きな問題となっている。
 また、少子化と若い世代の減少で、地元の小学校の児童数は減少し、平成21年度から2年生・3年生は複式学級となり、数年後には、統廃合される可能性が出てきた。
 一方、平小城地区内には1000年以上もの歴史をもつ平山温泉があり、以前から田舎の湯治場として賑わってきたが、九州・沖縄地区温泉好感度調査で1位となる泉質の良さと近年の温泉ブームで全国的に名前が知られるようになった。観光客が急増する一方で、道路や下水道などの環境整備の遅れが目立ち、自然環境が損なわれる等の懸念が出てきた。
 平成12年、地元温泉旅館から「冬は殺風景で何もない所なので春、旅館のまわりに菜の花が広がる風景があったらきれいだろうな〜」との要望が出され、景観作物として菜の花を栽培するようになった。翌年には、農家有志でその菜の花を緑肥として鋤込んで栽培した米を「九州米サミット」に出品し、荒木正輝さんが最優秀賞の栄誉に輝いた。初めての出品でいきなりの最優秀賞は、驚きとともに、この取り組みを通して観光を利用した農業振興を中心とする「むらづくり」を期待する声が次第に高まった。


環境に優しい平山菜の花米の栽培

 平成15年度、地域農業拠点づくり支援事業を受け農業、観光協会、学校などの各関係機関29名により平小城活性化協議会を設立した。活動していく中で、地域活性化の基本は環境を守ることであると気づき、平成17年、協議会活動の基本を次の5項目に絞り「山鹿市平小城校区環境づくり協定」として、校区住民全員で締結した。
 それは「自分たちの地域の環境は、自分たちで守り育てます」を基本に、
@ホタルの飛び交う自然環境を守ります。
A豊かな田園環境を守り育てます。
B環境に優しく活力ある農業を目指します。
C開発する時は皆に情報を公開します。
D住む人の心ふれあう地域を目指します。
を目標としている。
 現在は平小城校区民全員を会員とし、会長を校区長、各組織代表者・区長会・ボランティアなど54名を代表、それに県・市・農協などの関係機関が加わり、「環境部会」「農業部会」「観光部会」「広報部会」の4部会を組織化し活動している。
 また、平成18年6月から、熊本県のユニバーサルデザイン(UD)アドバイザー派遣事業等を通して勉強会を重ね、「住んでいる人、訪れた人、すべての人が心地よいむらづくり」という理解のもとに「目指せ!湯にばーさるなむらづくり」を合言葉に、新たな視点での取り組みを始めた。
 米作り農家有志で「平山菜の花米生産組合」を設立し、全員がエコファーマー認証を取得した。通常より化学肥料や農薬を減らした地域循環型の米づくりと、トラクターは環境に優しいBDF(バイオディーゼル燃料)を使っている。
 組合長の荒木正輝さんが栽培確認責任者となり、生産ほ場の状況把握や、食味向上など1年に5回以上の勉強会を開催して、意欲を高めている。一同の努力により、平成18年度「九州米サミット」減農薬米の部において、今度は高木和茂さんが2回目となる最優秀賞を受賞した。
 小学校の食育の一環として、平成15年から「田んぼの学校」を開始。子どもたちと一緒に、5月は種モミの温湯消毒と種まき、6月は田植え、10月は稲刈り、11月に収穫したモチ米は「平小城ふれあい祭り」の会場で生産者組合の皆と小学生とが一緒になって餅つき・餅投げをする。さらに、3月の学習発表会では稲作りについての発表を行なう。平成18年12月より学校給食で、20年度からは、平小城保育園でも菜の花米の給食が始まった。


直売所「ひらやま湯の里市」の開設

 平山温泉には年間30万人以上の観光客が訪れている。地元には新鮮な野菜を始めとした美味しい農産物があるが、販売するところがなかった。
 そこで、平成12年頃から、直売所を作ろうという動きが起こり、14年6月、JA生産組織の代表者15名で開設に向けての会議を重ね、会員54名で7月から「ひらやま湯の里市」を、土・日のみということで営業を開始した。順調に伸びはじめたので、17年より毎日営業に切り替えた。21年5月現在、会員は105名で、朝取りの新鮮な野菜は安くて美味しいと評判も良く、午前中に売り切れるものもある。
 また、農産物以外にも地元の人たちによる木工芸品、陶芸、竹ほうき、花苗、手芸品などもあって、お年寄りの生きがい作りにも一役買っている。最初年間1000万円ほどだった売り上げが、観光客などの評判を呼び3000万円を超えるようになってきている。
 しかし、平成19年5月、長年地域の中核として親しまれてきたJA鹿本平小城支所と、同じ建物内にある地域唯一のスーパーマーケットだったAコープ(JA系列のスーパー)が、JAの統廃合により閉鎖された。そこで、平成19年1月13日「平小城支所・Aコープの利活用を考える」という課題で会議を開いた。平小城を思う熱い話し合いの結果、交通事情の悪いこの地区で、高齢者などの交通弱者の生活を助けようと、湯の里市がAコープ跡に入って、Aコープが果たしてきた役割の一部を担うことになった。
 JA事務所と一体になっているAコープ跡に移転したため、一見事務所のようで直売所としての雰囲気がなくなってしまったことや、建物が道から1メートルほど高い土地に建っているため見にくいこと、道がカーブしている場所にあるため、出入りが危険であること、などの問題点が出てきた。
 平成20年度は、この問題を解消しようと会議を開き、
○湯の里市の外観を親しみやすく直売所にふさわしいものに変え、一目見て直売所だと分かるようにする。
○出入り口の改造を行ない車の出入りをしやすくする。
○テラスなどを作り、休憩出来るようにし、交流や情報交換が出来る場所を提供する。
 などを決めた。このような方針に沿って、外装の変更など行ない好評を得ている。
 次から次へと難問が出てくる度に、住民皆のアイデアとパワーで乗り越えている。あくまでも、日本の原点のような里山の景観を残しながら、皆が安心して暮らせるむらづくりを目指している。