「まち むら」103号掲載
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無作為抽出方式によるまちづくりディスカッションの試み
東京都三鷹市 三鷹市青年会議所/三鷹市
 無作為に選ばれた市民が参加する討論会「みたかまちづくりディスカッション」が、新たな住民参加の手法として、マスコミや全国の自治体に高い関心を呼んでいる。三鷹青年会議所と三鷹市が協働で開催するこの討論会の出席者は、住民基本台帳を基に、18歳以上の市民1000人を、無作為抽出方式で選び、参加依頼書を送る。参加承諾者は、通常2日間計12時間にわたり討論。議論の結果は報告書に作成し一般に公開する。より正確な民意を把握することが可能であるとの理由から、近年全国各地の自治体で実施されている手法である。


無作為抽出に欠かせぬ住民基本台帳

 この無作為抽出による「市民討論会」は、ドイツを中心にヨーロッパで広く実施されている市民参加の手法「プラーヌンクスツェレ」を参考に実施している。因みに「プラーヌンクスツェレ」とはドイツ語で「計画細胞」を意味する。
 平成18年夏、三鷹青年会議所は、三鷹市とパートナーシップ協定を結んで無作為抽出の手法を実験的に実施した。当時の三鷹青年会議所の吉田純夫実行委員長は、「三鷹市には古くから市民参加のまちづくりを行なってきた土壌があり、行政と実施するなら三鷹しかないと思った。無作為抽出するための住民基本台帳の個人情報が関わってくることもあり、三鷹市と協働開催できてよかった」と語っている。


みたかまちづくりディスカッション

 三鷹市は、住民協議会による市民自治の実践、市民会議や審議会など様々な市民参加の取り組みを行なってきた。そうした市民参加の歴史を踏まえて、開催したのが「みたかまちづくりディスカッション2006」である。開催の狙いは「声なき声の反映」つまりサイレント・マジョリティであった市民も話し合いの場に参加し、意見を出す機会を創造する。話し合いで出された意見を、行政に対して市民提案すること。行政は、市民提案の施策への反映を目指す。「みたかまちづくりディスカッション」は、市民を含めた実行委員会により企画や運営が行なわれている。平成18年開催時の構成メンバーは、三鷹青年会議所12人、市職員4名、市民6人の合計22人。事前準備は、6か月前から、メンバーによる30回を超える打ち合わせ、スタッフを中心に5回の模擬ディスカッションを経て本番に備えたという。当初、実行委員会では参加者数を45人と予定していた。実行委員会のメンバーの一人、三鷹市市民協働センター長の伊藤千恵子さんは、当時を振り返り、「準備を進めながら、『無作為抽出により1000人に参加依頼書を送る方法では、45人の参加者を集められるのだろうか』『簡単に集まるわけがない』という不安が増大していった」と述べている。


参加承諾者が87人も集まる

「参加する人の立場に立つ」「おもてなしの心を込める」を基本姿勢として実行委員会は、二つの策を講じたという。
 一つは、チラシ1800枚、ポスター200枚の配布、新聞やテレビなどマスコミも活用し、PRに力を注いだ。もう一つは、参加依頼書を送る封筒の表に工夫を凝らしたこと。三鷹市が主催している旨や内容を、封筒の表面に記載することにより、開封せずに中身がわかるようにした。平成18年6月、1000通の参加依願書を発送。締め切りまでに送られてきた参加承諾者は、予想をはるかに超えて87人あった。そのため当初の参加者数45人から60人に変更。7月初め、参加者数を絞るために公開抽選会を開催している。その翌年に開催した「まちづくりディスカッション」でも参加承諾者73人を集め、公開抽選会を経て60人を選出している。


ユニークな話し合いの方法や進め方

 平成18年8月26日と27日に渡り、三鷹市市民協働センターで「みたかまちづくりディスカッション2006」が開催された。参加者は、52人(1日目52人、2日目51人)。テーマは、「子どもの安心安全」。1回の話し合い時間、60分を、計4回行なった。
 ちなみに参加意欲の向上を促すために、参加者には2日間で6000円の謝礼を用意した。話し合いの方法は、次の通りである。
 最初に、1グループ5人の単位で分かれてもらい、全部で10グループが同時に話し合いを進める。次に、意見の偏りを防ぐため、一つのテーマごとにグループのメンバーを入れ替える。さらに、多数出された意見を一つのグループ内で三つにまとめるための方策の形式を行なう。最後に、各グループの代表により発表が行なわれ、賛同する意見に対して投票を行なう。
「まとめの提案=子どもを犯罪から守るために、こんなことを始めたらどうでしょう」―まとめの提案と投票結果の一例を紹介する。
 ―「警察・役所・学校で協議会を作る」投票欄14。
 ―「見守る人の養成(無作為抽出や団塊の世代の能力の活用)有給のリーダーが必須」投票欄27。
 ―「市区を超えた自分たちの生活に合ったマップをプロの指導で作る」投票欄6。
 自由に楽しく、主体的に話し合いに参加してもらうため、グループ毎に次の担当を決めている。「まとめ係」「進行係」「ちょっときてカード係」などだ。ちなみに「まとめ係」は、付箋に書かれた意見を一つから三つの山に分け、メンバーの同意のもとに模造紙に意見を書き出す役割。「進行係」は時間管理で、終了20分前になったらまとめの時間が来たことを伝える役割。「ちょっときてカード係」は、話し合いが進まなくなり、助けが欲しいときに「カード」を揚げて、「補助係」を呼ぶ役割である。また、参加者の眼に触れる所に、話し合いのルールを掲示した。「ひたすらアイデアを出してください」「相手を否定しないでほめてください」「全員のみなさんが発言できるようにご配慮ください」。グループ内の意見が限られた人に偏らず、全員による討論を活性化させるための、運営機関側の細かい配慮である。


まちづくりディスカッションの検証と評価

 参加者からの声を一部紹介する。「楽しかった」「面白かった」「地域でこのような機会をもつ経験で、やっと市民になった気持ちになった」。運営委員会の検証・評価の結果、「まちづくりディスカッション」の効果が、次のような点から明らかになった。まず「質の高い提案」である。話し合いの結果である提案の内容が、市民や地域で実施すべき課題と行政で実施すべき課題とが区別されており、それぞれが実現性が高いものとなっており、三鷹市の施策に反映すべき内容を備えた質の高い提案が期待できる。次に「参加者の高い満足度」や「参加意識の高まり」である。参加者の76%が「大変満足または満足」と回答、また、82%が「再度参加しても良い」、と回答している。今後もこの取り組みを継続することが期待できるデータである。さらに「参加を承諾した市民の多さ」も挙げられる。こうした有効性を実証できたため、翌年も同じ手法を用い「市の総合計画の策定」に向けた「まちづくりディスカッション」を開催。「三鷹の魅力(課題)はなにか」「災害に強いまち」「高齢者にも暮らしやすいまち」などをテーマに話し合いが行なわれた。「ジブリの活用を期待する声、避難経路や場所などの情報に対する不安、道路事情に対する不満やコミュニティの重要さ」等の意見が出された。
 こうした無作為市民の提言が、三鷹市の計画改定案に反映され、実施されることが期待されている。ちなみに、平成20年の「まちづくりディスカッション」では、「東京外かく環状道路」のテーマにも取り組んでいる。三鷹青年会議所の理事長入月裕樹さんは、無作為抽出による討論について「リーダーが生まれない、一人の意見を大切にする手法」と言う。同会議所の元理事長植村貴志さんが語る言葉が、印象に残った。「一人の意見が街を変えるかもしれない」。三鷹市は、市民自治による協働のまちづくり実現に向けて、確かな歩みを続けている。