「まち むら」103号掲載
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地域住民の力で送迎活動やコミュニティバスを自主運営
神奈川県横浜市泉区 下和泉住宅自治会
 横浜市泉区の下和泉住宅自治会は、高齢化と交通不便の問題を解消するため、地域住民の手で高齢者の外出支援活動を進めるとともに、自主運営によるコミュニティバス「Eバス」を運行している。自治会から分離独立したNPO法人や自主運営組織が、独立採算の形で運営しているのが特徴だ。住民自ら知恵と力を出し合い、様々なハードルを乗り越えながら地域の難問解決に取り組んでいる。


地下鉄延伸に伴い交通事情が悪化

 下和泉住宅団地は、横浜市南西部の山林を切り拓き、昭和37年に造成された。現在、950世帯、約3000人で下和泉住宅自治会を構成している。
「造成時は、市営水道はなく、道路は未舗装で、バス停まで歩いて15分、最寄り駅までは50分かかる交通不便な土地でした。造成業者からは数年経てば路線バスが走ると言われましたが、45年たったいまも実現していません」
 下和泉住宅自治会前会長で、現在富士見が丘連合自治会会長を務める佐久間幹雄さんは、そう言って苦笑した。
 昭和47年に市営水道が始まり、昭和58年に下水道が完備され、住宅が立ち並ぶようになった。しかし、平成に入ると徐々に高齢化が進み、若者は大学や就職で流出するようになる。平成9年には「シルバーサロン」を開設し、高齢者の交流活動を開始した。
 平成11年9月に横浜市営地下鉄が戸塚駅から湘南台駅まで延伸し、歩いて20分ほどの場所に下飯田駅が新設された。だが、それに伴って既存の路線バスは廃止や減便となり、下和泉地区の公共交通事情は悪化する皮肉な結果となった。
 危機感を抱いた住民は、平成11年に自治会内に特別対策委員会を設置し、地区の様々な問題の検討を開始した。
「それまでは役員会で検討していたのですが、役員の任期2年で解決できないと討議未了となり実現されませんでした。そこで各層から委員を選出し、立案されるまで活動を継続してもらうことにしたのです」と佐久間さんは振り返る。


高齢者の外出支援活動を展開

 同委員会は全戸アンケートを行なって問題点を抽出・整理し、問題解決が急がれるものから順次実行に移していった。その結果、平成13年に、災害時の災害弱者に対して物資供給を行なう「生活物資協定」をコープかながわ和泉店と締結。また、災害時に避難誘導や救護などの自主活動を行なう「自衛消防隊」を発足した。さらに、高齢者や障がい者の病院までの送迎や外出支援を行なうボランティア組織「あやめ会」を発足した。
「災害時の救急搬送のためのボランティア輸送を議論したとき、高齢者は日常生恬でも病院に行くのに困っているという話が出たのです。そこで日常的に支えられないかと検討しました」と佐久間さんは導入のきっかけを話す。
 自家用車で送迎できるボランティアを募り、利用者は65歳以上の会員制にしてスタート。平成18年にはNPO法人の認証を取得して活動組織を整えた。それに伴い、利用会員は要介護支援者に限定し、現在約100人が登録。一方、活動員は18人おり、12月29日〜1月4日を除いた毎日8時〜18時まで、2人ずつ当番となって利用会員の外出支援に当たっている。
 利用の際は、30分前までにあやめ会に電話で申し込む。送迎先は近距離の医療機関や駅、泉区役所等で、料金はタクシーの半額を目安に行き先によって300円〜1350円としている。地区内の商店で利用券を購入し、それで支払う。料金の8割は活動員の対価とし、その中からガソリン代などを賄う。活動員は任意保険、ボランティア保険に加入し、事故が起こった場合はあやめ会の事故委員会が対応。重度の要介護者は付添者に同乗してもらっている。
「1日10人前後が利用。本当に助かると感謝され、それがボランティア活動の誇りとやりがいにつながっています。安全運転に万全を期し、事故は1度も起こっていません」と佐久間さんは話す。


自主運営組織でバスを運行

 あやめ会とともに大きな成果となったのが、自主運営によるコミュニティバス「Eバス」の導入である。平成14年4月から運行を開始した。
「団地内へのバス路線の新設が困難である以上、自分たちで手を打つしかありませんでした」と佐久間さん。そこで浮上したのが、地元観光会社と契約して小型バスを走らせるアイデアだった。
 だが、一般貸切バスの運行には、@不特定の人を乗せたり料金を取ってはいけない、A運転手は運転するだけで、料金を取るなどの業務を行なってはいけない、Bバス停を設置してはいけない、という制約があった。そこで、@会員制にして会費を取り、会員証を提示して乗車する、Aボランティアの添乗員も乗車して会員証の確認業務などを行なう、Bバス停は置かず、停車場所や時間は会員に直接通知することで解決を図った。
 採算性も大きな問題となった。運行開始前の会員募集では70人しか集まらず採算ラインに達しなかったが、観光会社の好意と、自治会会員から募金で基金を設けることで契約運行にこぎつけた。地域住民で組織する下和泉地区交通対策委員会(通称・Eバス委員会)が独立採算で運営しているのが特徴だ。委員長は佐久間さんが務めている。
「Eバスとは、イージー(容易・手軽)、良いという意味が込められています。委員会は自治会からは分離独立しており、当初は自治会三役なども運営委員に入っていましたが、いまは元役員やあやめ会活動員などを中心に20人の委員で運営しています」とEバス委員会幹事長の今野光春さんは説明する。
 Eバスは、28人乗りのマイクロバスを使用。下和泉住宅団地を出発し、団地内を含めて途中3か所に停車して市営地下鉄下飯田駅および相鉄線いずみ中央駅まで結ぶルートを、平日の6時30分〜10時15分に8便、16時〜21時30分に9便の計17便運行している。ボランティア添乗員は現在17名で、交代でバスに乗車して会員の確認や乗降の安全確保などに取り組んでいる。
 会費は利用頻度に応じ月2000円〜7000円。現在、1日平均140人が利用し、採算ラインは確保している。通勤通学や外出が楽になったと会員には好評で、若者も地域に戻ってきている。今後の課題としては、平日の日中と土・日の運行、新路線の設置が挙げられるという。
 佐久間さんは、「遠い親戚より近くの自治会」をモットーに自治会で高齢者を支える活動が定着したことが大きな成果とする一方、あやめ会の活動員、Eバスの添乗員とも平均年齢は70歳で、高齢化が進んでいることが課題だと話す。
「次の世代である団塊世代にいかに活動に参加してもらうかが活動伸展の大きなカギ。将来的にはコミュニティビジネス的な組織が生まれ、そこがEバスの運営を行なっていけるようになればという夢も抱いています」
 地域住民による地域住民のための活動は、次の段階を迎えようとしている。