「まち むら」102号掲載 |
ル ポ |
住民自らの手で住民の安全・安心を |
福島県伊達市 伊達駅前住民福祉会 |
住民有志らによって結成された「伊達駅前住民福祉会」は、高齢者への手づくり弁当配食や様々なイベント活動を通して地域になくてはならない存在に成長して注目されている。 福島県伊達市伊達町は、福島市近郊の住宅地と農工業とが混在した地域。かつては、人口1万1000人余りの小さな町ながらも福島県内では最も人口密度が高い単独自治体であった。それが、いわゆる“平成の大合併”により、2004(平成18)年4月、伊達町は周辺5町と合併して、人口6万7000人余りの新しい「伊達市」として再スタートした。 旧伊達町は、東京−青森間を結ぶ国道4号とJR東北本線・伊達駅を中核として発展してきた。特に伊達駅は、駅周辺地区に福島製鋼や日本重化学工業といった大規模工場があったことから貨物駅も併設されて、交通の結節点となっていた。しかし、昭和40年代半ば頃に日本重化学工業が撤退し、伊達駅周辺は大きな様変わりをすることとなる。工場跡地を中心に新興住宅地が整備され、工場地区から住宅地区へと変貌を遂げた。 お年寄りの孤独死の衝撃 それから40年後の現在、伊達駅前地区は、全国の地方都市の現象と同じように、核家族化と少子高齢化の波が押し寄せてきた。駅前地区には現在、約1300人(約420世帯)が暮らしている。駅前地区には4町内会(駅一、駅東、駅南、根田)があるが、古くからの住宅地である根田や駅一地区の高齢化率は高く3人に1人が高齢者で、夫婦世帯や一人暮らしが多い。一方、新興住宅地で、賃貸住宅も多い駅東や駅南地区は、若い人たちが多いという特徴がある。いわば、新旧の住宅が混在している地区である。 このため、町内会の結びつきも薄れがちで、お隣に誰が住んでいるのかも分からないといった傾向も見え始めてきた。10数年前に、衝撃的な出来事があった。駅前地区の一人暮らしの方が風呂場で亡くなっていたが、まる1日間も誰も気づかないまま放置されていたという事故が起こった。「大都市ならいざ知らず、まさかこんな田舎で!」と、住民は大きな衝撃を受けたという。 この出来事を契機として、町内会の有志が集まって、「町内で一人暮らしの高齢者が増えてきているので、私たちにできることはないだろうか」と、知恵を出し合い始めた。かつて、駅前地区では夏祭りが行なわれて、これが住民の絆を育む大きな柱となっていた。この夏祭りが長らく途絶えたままとなっていたので「何とか復活させよう」ということから活動が始まったという。 夏祭りは住民らの手によって、今から13年前に復活を遂げ、伝統的な「和太鼓蝉創」の名手も生まれるようになってきた。その盛り上がりの中で、「伊達駅前住民福祉会」は誕生した。3年間の準備期間を経て、1998(平成10)年6月に正式発足した。 「最初の頃は10人ぐらいの小さな地域ボランティア組織でしたが、今では100人を超えるボランティアが活動する組織に成長しました」(渡邉忠利伊達駅前住民福社会会長)という。 福祉会の発足当初は夏祭り開催が主な活動であったが、祭りへの参加者が増えていくとともにボランティアスタッフも増えていき、活動分野にも広がりが出てきた。福祉活動の先進地視察をはじめ、地域での学習会・講演会などを重ねていくうちに、いろいろな知恵が出されるようになってきた。 ある日の会合で、「一人暮らしの高齢者は食事づくりが大変なようだ」という話題が出た。夫婦世帯でも、簡単なレトルト食品で済ましてしまうことがあるという話も出た。「ああいう事故(風呂場で死亡していた事故)があったので、お年寄りの安否確認もできればいいね」といった話も出てきた。 そういういろいろな議論から生まれたのが、「ふれあい夕食弁当」である。これは、地区内の一人暮らしや高齢夫婦世帯を対象に、週に1回、福祉会のメンバーが夕食弁当をつくり、自宅まで届けながら安否確認も行なうという活動である。 「ふれあい夕食弁当づくりは現在、20人ぐらいの会員が交代でつくり、配達しています。食材は地元産にこだわり、家庭の味を楽しんでいただこうと7種ぐらいおかずを付けていて、利用者からは大変喜ばれています」(佐々木恵美子伊達駅前住民福祉会弁当担当)。 ふれあい夕食弁当の配食サービスは現在、利用者に食材の実費負担として1食300円と有料。「家庭の温もりが味わえる」と大好評である。現在、夕食弁当に端を発して、町内会の集会所で「会食会」も催すようになってきていて、これも地区住民の絆を深めることに役立っているという。 なぜ、「配食サービスなのか?」という問いに、佐々木恵美子さんは「食べることは生きることです。食事づくりは、私たち主婦はお手の物です。私たち主婦が、地域の人たちに何かお役に立ちたいという気持ちが実を結びました」という。 他町内会でも続々誕生する住民福祉会 伊達駅前住民福祉会が発足後、他の町内会への波及効果をもたらした。町内会組織から独立した「福祉会」が、旧伊達町では10組織を数えるまでになった。単純計算では、地区人口1000人に一つの住民自主組織「福祉会」が誕生したことになる。 「私たちの活動は“できることをできることから”をモットーとしてきたことが、ここまでやって来られた大きな原動力ではなかったかと思っています」(佐々木英章伊達駅前住民福祉会事務局長)。 「私たちは住民のためにボランティアしている、といった気負はない。住民一人一人ができることから始めよう、という活動方針が地域に受け入れられたのではないかと思います」(同)。 町内会や行政、社会福祉協議会などと、ゆるやかな連携をしていったことも活動継続の力になっていたことは間違いない。 例えば、「ふれあい夕食弁当」づくりの拠点は、伊達駅前町内会の集会所である。この集会所にはもともと簡易な厨房設備は備えていたが、弁当づくりの厨房としては不十分であった。そこで、同福祉会では「赤い羽根共同募金会」に社会貢献活動補助金を申請したところ、70万円の補助を受けられることとなった。佐々木英章さんは、「この補助金は福島県第1号という名誉なことであった。これまでの活動が評価されたと思っている」と、語っている。 この補助金によって、集会所の流し台やガスコンロ、冷蔵庫など、調理に必要なすべての設備を整えることができた。このことが、「ふれあい夕食弁当」の宅配サービス活動につながっていったという。 役割増す住民福祉会 伊達駅前住民福祉会の活動資金は、地域住民の年間1000円の「協力金」によって運営されている。会員は現在、約100人だが、活動費としては苦しいものがある。「行政からの助成金が年間30万円だったものが、合併後は24万円に減らされて運営が苦しくなっています」と、佐々木恵美子さんはいう。旧伊達町から役場が消え、きめ細かな住民サービスができにくくなっているという。 「だからこそ今、住民福社会の役割が増しているんです」と佐々木さんはいう。住民の安全・安心は、「住民自らの手で」という精神が大事だというのである。この福祉会が母体となって、在宅介護を支援する「NPO法人ふれあいの郷だて」が設立された。伊達駅前住民福祉会はNPO法人とも連携して、ふれあい夕食弁当活動を軸としながら地域の安全対策からボランティア育成まで幅広い活動を展開し、「地域の和・輪づくり」に奮闘している。 |