「まち むら」101号掲載
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住民主体の地区計画を策定し道路、公園の整備に取り組む
静岡県菊川市・潮海寺まちづくり推進協議会
 静岡県菊川市の潮海寺地区は、道路幅が狭く曲がった道が多く、自動車も擦れ違えないような地域であったが、住民が中心となり「地区計画」によるまちづくりを進めた結果、広い道路が整備された安全・安心な地域となってきている。このまちづくりに取り組んでいる潮海寺まちづくり推進協議会の吉田哲会長に話を聞いた。
 潮海寺地区は、JR東海道本線菊川駅の東約500メートルに位置し、かつては潮海寺(寺院)を中心とする歴史のある地区。現在は寺院も少なくなったが、地区の中央にある仁王門が昔の面影を残しており、地域のシンボルとなっている。3年に一度行なわれる潮海寺八坂神社祇園祭は、仁王門前の急な石段を1トンもある大きな山車をかつぎ、住民が心を一つにし、祇園ばやしに合わせ昇り降りをする勇壮な祭りである。


住民による潮海寺独自の「地区計画」づくり

 潮海寺地区は、道幅が狭く曲折した昔ながらの市道や農道に沿って住宅が建設されてきたため、火事や地震などの災害発生時の緊急車両は侵入が困難で、安全・安心な居住環境を確保することが難しい地区。
 そのため、市から地区全体の道路体系や公園・緑地を全面的に再整備する「土地区画整理事業計画」の提案が示されたが、昔の面影や歴史的な施設などが失われてしまう手法に対し、潮海寺地区の住民は賛同しなかった。
 しかし、土地区画整理事業に反対しただけでは、まちは良くならないと、平成8年5月に各地区の代表による「潮海寺まちづくり検討委員会」を発足し、新たなまちづくり手法の検討を始めた。そして、平成11年3月には「潮海寺まちづくり推進協議会」が組織され、地区の将来についての住民アンケートや先進地視察、子どもから高齢者まで参加したまちなみ探検隊(地区の現況調査)を行ない、地区の問題点や将来像について話し合いを重ねた。
 その結果、今後の潮海寺地区のまちづくりは、地域住民が話し合い、道路や公園・広場の位置・内容、あるいは建物の建て方などについて取り決めを行ない、地域の歴史ある風情を残しつつ、ルールに従って少しずつ整備していく「地区計画」という手法で進めることに決まった。


良好な住環境を作るための数々のルール

 この「地区計画」では、建築基準法で定められた最小限必要な4メートルの道路幅を確保するのみではなく、自動車が擦れ違える5メートル、6メートルの幅員を街区単位で決めておき、家の建替えのときに自宅前の道路計画幅に従いセットバックして建てることにより、20年、30年掛けてゆっくりと整備する計画である。
 同協議会では、平成12、13年度の2年間をかけ、委員が巻き尺を持って個々の家を訪ね、話し合いにより将来の道路幅を決めた。そして、良好な住環境を作るためのルールとして建物、植栽、塀等の位置や高さなども決めた。さらに、潮海寺地区は、住む人の顔の見える一戸建てのまちにしようと、アパートは建てないことも定めた。この地区計画は、最終的には市の条例として定め、誰もが守らなければならないルール(案)とした。そして、平成13年度には、91%の同意を得て、まちづくり協定書と道路拡幅計画の原案を作成した。


おじいさん、おばあさんも交通量調査に参加

 平成14年度は、この道路拡幅計画の素案をもとに具体的な測量を行ない、まちづくり計画を作成した。あわせて住民が交通の実情を知るため、各家庭より調査員を1人ずつ出してもらい、平日と休日の2日間、朝7時から夜7時までの12時間交通量調査を行なった。地域のおじいさんやおばあさんも参加し、数取器を持って交差点を通過する自動車の数や方向を調査した。その結果、一部の少し広い道路に朝、夕の通過交通が集中していることや、ほとんど車が通らない道路もあることが改めてわかった。また、交通量調査に自ら参加することにより、一人ひとりがまちづくりに参加しているという意識も高まったようである。


住民参加により、楽しくまちづくりを進める

 同協議会では道路整備だけでなく、潮海寺地区の将来を担う子どもたちとのふれあいを大切にし、人と人とのコミュニケーションが良いまちづくりを進めようと話し合った。そして、3年に一度行なわれる祇園祭の間の2年は、地域の子どもたちを対象とした子ども祭りを行なうことにした。お祭りでは、今話題の「富士宮やきそば」を焼いて食べたり、夜のきもだめし、金魚すくいなどいろいろ工夫して楽しく過ごす。今では、それが潮海寺地域の楽しいイベントとしてすっかり定着している。
 また、大人は地区内の空地を借りて花壇を造り、花を植えるなど快適な環境づくりに取り組んでいる。このような地域の人と人のつながりを大切にした活動を続けた結果、地区の防災訓練には住民の90パーセント以上の人が参加するというまとまりの良い地区となった。


全国的に注目を浴び、早まった道路整備

 地区計画によりルールを決めておき、建替えにあわせて少しずつ道路を広げ、30年後くらいに道路が整備されればよいと考えていた。ところが、地域全体を自らの「地区計画」により整備しようという計画は、全国でも珍しいと注目され県や国からの補助が受けられ、整備が進められることとなった。そして、平成17年度から道路整備が始まり、現在までに三つの区画路線が完成した。整備された道路は、元の道路位置を基準としているため、少し曲がっているが、以前とは見違えるように良くなり、沿線には新たな住宅も建ち始めている。整備された道路を見て「こんなにきれいになるとは思わなかった」「自分の所も早くやってほしい」という住民の声も聞かれるという。


息長くまちづくりに取り組む

 吉田哲会長は、道路計画に基づいて安全で、住みよい道路環境を整備するとともに、住民の話し合いに基づいた防災公園づくりや各家庭の緑化推進、歴史や伝統の調査・保存など、住民のコミュニティの強化を図り、息長くまちづくり活動に取り組んでいこうと考えている。