「まち むら」100号掲載
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「ラミーユみんな顔見知り」地域に開かれた、マンション自治会
埼玉県さいたま市北区・ラミーユ大宮ハイライズ自治会
マンション自治会の誕生

 20年前、埼玉県さいたま市北区宮原町1丁目のこの辺りは、見渡すかぎり田や畑がひろがり、梅林や栗林が点在していた。9階建て2棟の「ラミーユ大宮ハイライズ」は、そういう景観の宮原町内に初めて建設されたマンションである。
 最寄り駅はJR宇都宮線(東北本線)の土呂駅。ラミーユ大宮は、その土呂駅から歩いて10分余りのところに位置する。周辺は宅地化されて、大きなショッピングモールも近く、かつての田園地帯の面影はない。
 1988年11月、1号棟(ソレール棟)の入居が始まる。翌年2月には2号棟(ルナール棟)の入居も始まる。早々と入居した御藤誠一さんは、管理組合の理事長を引き受ける。その御藤さんのところへ、地元の宮原町1丁目自治会の会長と副会長のお二人が、「自治会をつくってほしい」と訪れる。250余りの世帯のマンションの誕生に、地元の人々は、独自に自治会が組織される方がよいと判断したらしい。マンション住民は、お二人から自治会の意義と共に「市の補助がある」といった丁寧な説明を聞き、ラミーユ大宮ハイライズ自治会を立ち上げる。その年の5月のことである。
 このような経緯があったので、地元住民との関係は深い。町内の7地区が大砂土小学校の校庭に集まる、宮原1丁目親善大運動会に参加するなど、地域の人々と積極的に交流してきた。高度経済成長期の頃まで全国各地で盛んに行なわれていた地域の運動会が、マンション自治会も加わって続いていることに感心する。
 その後、御藤さんは3代目の自治会長を引き受けて今日に至る。自治会活動の合言葉は「ラミーユみんな顔見知り」「全員参加の自治会」である。自治会役員は、13戸から15戸の各フロアで1人選ばれる。18人の役員の任期は1年間。一回りすれば全員が役員経験者となる。役員になったばかりの時期は「小学校の1年生と同じ」で、皆さん初々しい。それが、7月の夏祭りまでに、さまざまな活動をとおして楽しい盛り上がりを経験すると、自治会活動に積極的になるという。自治会費は、月額200円の年払いを役員がフロアごとに集金する方法を採っている。住民の入れ替わりはあるが、入居以来の世帯が半数以上。自治会加入率96%という数字は、一部借り上げ社宅等があるので、ほぼ全世帯ということになる。


盛んな季節行事、周到な自主防災活動

 ここでは、自治会の「季節行事」が新しい年中行事になっている。主なものは、ボーリング大会(1月)、餅つき大会(1月)、花見大会(3月か4月)、七夕飾り(7月)、夏祭り(7月)、大運動会(9月)、防災訓練(10月)などである。
 1月のラミーユ餅つき大会は、隣接する加茂宮公園で開催される。餅米を炊く薪は毎年、近所の工務店に提供してもらっている。昨年の様子を記録した動画を観ると、まるで親戚の祝い事のような和気あいあいとした雰囲気だ。引っ越していくご夫婦に、「たいへんお世話になりました」という感謝状と花束を贈呈する場面に注目した。
 7月の夏祭りは、自治会の最大行事といえるだろう。マンション前の道を全面通行止めにして歩道に10のテントを張る。この様子も記録されている。地元商店などの名入りのちょうちんの下に、数多くの屋台が並ぶ。くじ引き、輪投げ、射的、それにスイカ割りや花火大会もある。はちまきのお兄さんや子どもたちの店番姿が微笑ましい。昨年から「お国自慢の店」も始まり、讃岐うどん、静岡の黒はんぺんのおでん、明石焼きの店が並んだ。手打ちの讃岐うどんは、住民の父親が材料と機材持参で岡山からやって来たのだという。この夏祭りには、ほかの行事と同じように、近隣住民も集まる。新しい年中行事と受け止められているのだろう。
 この自治会は、自主防災活動にも力を入れている。1998年8月、大宮市(当時)の指導で自治会長を本部長とする「ラミーユ大宮ハイライズ自主防災対策本部」を立ち上げた。防災倉庫2棟には、ヘルメット、消火器、発電機、ジャッキ、担架、車いす、毛布、簡易トイレ、テント、かまど、リアカー、非常食などを備える。詳細な『自主防災マニュアル』(2000年1月)も作成した。各戸に防災カードを配布して提出を求めているが、これは周知徹底について課題が残るという。年1回の防災訓練では、地震体験の起震車を呼ぶなど、その年の目玉を工夫する。年2回の救命講習会では、各棟に配備された自動体外式除細動器(AED)の操作も学ぶ。
 ところで、マンションに特有の課題もある。その一つが、ペットの飼育である。ここでは、犬と猫にかぎって上下左右の世帯の承諾を得たうえで管理組合傘下の「ペットクラブ」へ加わる仕組みを採って認めている。自治会副会長の富永美信さんは、「これから高齢化がすすむ。周囲に迷惑をかけなければ、マンション内でペットとの共生に理解を深める必要もあるのでは」と語る。
 ラミーユ四季の会という活発なサークルについても紹介したい。もともと、住民有志が自主的に始めた、バスツアーなどの親睦旅行の集まりだったが、2006年、自治会の文化厚生部に属することになった。インターネットにブログでは、まるで自治会の広報メディアのように、自治会や管理組合の活動を幅広く紹介している。「同じ屋根の下、コンクリート長屋の仲間なんだから」という御藤さんのことばが思い浮かぶ。


マンション自治会のひろがりを期待

 入居当時、住民の多くは30代40代だった。富永さんによれば、「子はかすがい」ということばのとおり、幼稚園児や小学校児童の親のつながりが住民の人間関係をひろげてきたという。「長年の積み重ねによる信頼関係」が自治会活動の基本だと考える富永さんは、「最近、毎月の役員会の出席率が100パーセントということをみると、信頼関係が育っていることを自慢してもいいかなと思う」と語る。
 入居から20年を経て、住民の多くが定年退職前後の年齢になっている。年長世代の御藤さんや富永さんを引き継ぐ世代の層は厚いということだろう。
 なお、お二人の活動は自治会だけに限られない。富永さんは、会社を退職してすぐ防犯ボランティアを引き受けた。現在、さいたま市内に101校ある小学校を巡回する、さいたま市防犯ボランティアリーダーを引き受けている。このような活動をとおして行政ともかかわるし、市内全域の住民リーダーとつきあう機会も多い。
 御藤さんは、宮原地区自治会連合会副会長も務めており、北区役所の区政懇談会の司会役を引き受けるなど、広い視野で地域を考える機会が多い。多数のマンションが市内に建設されるようになったが、自治会が誕生するところは少ない。「うちの例を、ほかのところに見てもらい、自治会をつくって欲しいと思っている」、「自治会の必要性を考える人が、一人だけでは無理でも、何人かいれば実現する」と語る。旧来の自治会は「有力者を通じての組織づくり」であり、「人が言ったからとか、前例だからとかいう理由で活動する」ので魅力を感じられない。「自治会とはこういうものと説明して、楽しくやろうと伝える」ことが大切だという。御藤さんは、「マンション自治会連合」を夢見ている。もしこれが実現すれば、日本の地域社会も大きく変わるだろう。
 昨年11月、ラミーユ大宮ハイライズ自治会は、住民自治組織の活動の功績が認められて、埼玉県知事から最優秀賞を受賞した。今年は20周年を迎える。さらに一層の発展が期待されるのである。