「ふるさとづくり'99」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

栗山ならだいじょうぶ!
北海道 栗山町
 栗山町は、北海道の道央圏に位置し、札幌、千歳へ40キロ、苫小牧へ50キロと臨空、臨都、臨港のまちに近く、地の利を活かし着実に発展する南空知地域の拠点であります。栗山町の人口は約16000人で、ここ数年は微減状態にあります。このような中で、六五歳以上の老齢人口の割合は10年前に比べて2倍近い22%を超え、このような状況で高齢化が推移しますと、そう遠くない時期に30%に達する“大変な時代”が間違いなくやってくると予想されます。
 その大変な時代に向けて、行政がしっかりとした福祉ビジョンをもってすべての町民を意識した行動をおこすことが大切です。そこで、本町では次代に向けて5つの時代想定をし、「栗山ならだいじょうぶ」を合言葉に福祉のまちづくりをスタートさせ、町民を主役に先進的な試みを次々と送り出しています。
・在宅の時代
 施設や病院のサービスには絶対的な限界があり、大半の人は在宅しなければならない。そのためには、今からすべての人が在宅を意識し、当然行政もそこを意識したサービスを送り出す必要がある。
・地域(家庭)の時代
 住みなれた地域でみんなで支え合うこと、その母体は家庭だと思います。
 日本の個性である町内会や家族の役割を確認することが大切ではないか。
・有料化の時代
 つまり、高福祉高負担の時代です。経済的、身体的に能力のある人は負担をしてもらおう、そして、行政は従来のバラマキ福祉をやめ、必要な人に必要なサービスを行う勇気をもつこと。
・自立の時代
 お年寄りは年齢でサービスするのではなく、頑張れる間は年齢に関係なく自らの人生を頑張ってもらう。
・選択の時代
 町民がサービスを選ぶ時代、行政はどんどん情報を出す。お年寄りや家族は自らの意志でサービスを選択することが大切で、ケアサービスだけでなく予防的サービスの選択につなげて行く。


福祉情報誌「くりやまプレス」

 この時代想定をベースに最初に取り組んだのが、全国的にも反響を呼んだ福祉情報紙「くりやまプレス」の創刊で、全戸配布をしました。
 従来のように情報を機械的に発信するお役所流からの発想の転換を計り、主役である町民が実名で登場し、その実例を通して在宅福祉サービスや人にやさしいまちづくりのあり方を福祉視点から問題提起し、明日に向けて一人ひとりの心に訴えようとするものです。
 平成5年3月の創刊号発行以来、現在まで7号を発行し、お年寄りや障害を持った方の心のイメージとして自然な姿で町民に送り出され、新しい福祉イメージの創造につながっています。


栗山ならではのユニークな世代間交流
―いきいきホームステ小・中・高校生体験ボランティア―

 まず、「いきいきホームステイいん栗山」と題した事業は、ひとり暮らしや老人福祉施設に入所しているお年寄りが町内のお年寄りのいない家庭で、また逆にひとり暮らしのお年寄りの家庭に中学・高校生が1泊2日のホームステイをして、将来の目標である「在宅」を町ぐるみで支え合うやさしいまちづくりへ結びつけようという願いが込められています。
 ホームステイには、ひとり暮らしや養護施設に入所しているお年寄りが参加し、家族とお年寄りの交流は今も自然な形で続いています。ひとつの小さな事業が地域や家庭でいま何が出来るかを発見し、そしてお年寄りにとっては家族愛にふれる機会となっています。
 もうひとつの世代間交流事業として、夏休みと冬休み期間中の年2回「小・中・高校生体験ボランティア」を開催しています。これは、高齢化社会が進行するなか、日常生活でお年寄りと接する機会のない若い世代が増えている現状をふまえ、夏休み・冬休みを利用した実体験をとおして高齢者福祉について考えてもらうことを目的に開催しています。
 参加者は、用意されたコースのなかから希望するコースを自由に選び、コースは、デイサービスセンターなどの介護体験、独居老人宅へのテレビ電話サービス・ふれあい訪問、お年寄りの食事・外出サービスなどで、回を重ねるごとに参加者が増え、中・高校生たちはこの体験を通じてお年寄りへのやさしさを心と体で受けとめ、次代への“準備”が進められています。


国初新築住宅に30万円 福祉の先行投資です

 だれもが安心して在宅するために、最も基本になるのはやはり住宅です。その住宅問題にも栗山ならではの特徴があります。平成6年にスタートしたリフォームヘルパー事業(住宅改良相談員)は、在宅福祉サービスを行政だけでなく、地元の建築や医療の専門家の参加を得て進めようとするものです。
 相談を受けると同時に7名のメンバーが対象世帯を訪問し、身体状況や住宅状況等に合わせ、それぞれの専門的立場からアドバイスを行うもので、その活動は町民の声として、公営住宅の改造、個人住宅改造奨励金事業(最高50万円)だけでなく、公共施設や歩道、商店街のバリアフリー化へとつながり、人にやさしいまちづくりへと広がりを見せています。そして平成7年からはこれらを背景に全国初というユニークな事業がスタートすることとなりました。それは、いま住宅を建てる全ての人が自らの高齢期を想定し、手すりの段差解消、介護スペースの確保等配慮を行った場合に30万円の奨励金を出すものです。そしてそこには、将来予想される負担を少しでもおさえることができればという、いってみれば福祉の先行投資となる事業です。


これで安心!ボケの検診

 栗山では、急増が予想される痴呆症高齢者対策として、平成3年から「いきいき検診」という全国でも珍しい痴呆症の健康診断を行っています。
 65歳以上の高齢者を対象に、従来の内科検診に加え運動機能チェック、かなひろいテストを行い、痴呆症の早期発見に大きな役割を果たしています。お茶やお菓子が用意された健康診断とは思えない雰囲気の会場で、参加者はゼッケンをつけてグループごとにゲーム感覚で検査に参加する。この健診には、道立精神保健福祉センター、町保健婦をはじめ、町内の医療機関、保健所、ホームヘルパー、体育指導員、民生委員など多くの職種の人が関わりをもって取り組んでいます。健診結果はピカピカ(とても元気)、ニコニコ(少し元気)、ソロソロ(少し心配)、オヤオヤ(心配)の4段階で本人に通知され、ソロソロとオヤオヤが出た人は、元気回復のためいきいきクラブに参加してもらい、パークゴルフ、公園花壇の手入れ、料理作り、陶芸などを通じて外へ出て、生活パターンに変化をつけるような動機づけを行い、少しづつではありますが、お年寄りに変化が現れています。


テレビ電話で元気コール

 情報化時代を意識したユニークな事業も平成8年10月から進めています。「マルチメディアによる高齢者在宅支援事業」と名付けられたこの事業は、テレビ電話を活用し、電話サービスのボランティアが高齢者の方と“対面して”電話をすることで在宅のサポートだけでなく、生きがいや健康づくり、また、マンパワーの有効活用に結びつけようとするものです。
 現在、1人暮らし高齢者宅や、ろうあ者宅など4世帯に設置し、研究を進めていますが、顔が見えることで会話時間が大幅に増え、表情や行動に変化が生じてきており、このテレビ電話の今後の活用、普及によっては、痴呆予防や趣味や学習などの社会参加を促進する1つのきっかけとなると期待しています。
 このように、栗山では情報発信したり、サービスを進める行政がまず、意識改革をしてきました。従来、私たちは新しい事業を企画する時に、自分たちの価値観で判断するために「人が集まらないのでは…」「一部から批判が出るのでは…」などとなって、事業が途中で断ち切られてしまうのです。私は町民に向けて投げてやるような事業があっても良いと思います。そこには、町民の参加と行動が生まれ、その中から問題を提起してくれたり効果を示してくれるのです。すべての人に喜ばれるバラマキ福祉の時代は終わり、場合によっては、ひと握りの人へのサービスになるかもしれませんが、私たち行政がサービスの意図をはっきりと町民に伝える勇気をもつこと、そして時には町民同士で議論をしてもらうそこにこそ、本当の福祉への理解や、やさしいまちづくりへの行動が生まれると思います。

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 介護移住なる言葉が出始めた今日、生まれ育ったふるさとを出て、福祉サービスの充実したまちへ移住するとんでもない時代になろうとしています。福祉サービスの充実と反比例して、もしかして、家族や地域の役割が希薄になっていくのでは…。
 あったかい家族や親しい友がいて、四季を感じるふるさとの自然が生きる喜びを与えてくれる。それが私達行政の目指すものでは…。