「ふるさとづくり'99」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

人が輝き、地球が光る村づくり
兵庫県安富町 末広区
 『都市近郊の山里で、地元住民と都市住民の快適環境を、皆で創る』とは、私たちが掲げている地域活性化の基本方向です。そのために地域づくりの設計図を描き、最初に「人材」「情報」「資金」「活動」を考えました。
(1)人材→地域ぐるみで取り組むために、各団体や各世代を縦断した「新しいふるさとづくり実行委員会」を組織し、地域の連帯感を高め共に汗を流しています。
(2)情報→事業を推進するためには、正確な情報提供が必要です。そのために『末広区ミニ通信』を毎月発行しています。現在、145号を数えています。
(3)資金→活動には資金が必要です。しかし集落の財政は豊かではありません。そこで「末広ふれあい基金」を創設し、善意の預託をお願いすることにしました。今では、無償の善意が活動を協力に支えています。
(4)活動→新しいふるさとづくり実行委員会の活動も、はじめは文化・スポーツなど、いわゆる「ふれあい型」活動が中心でした。しかし、村づくりの構想を描き振興計画を策定し、やすらぎの空間と心の豊かさを求めるようになり、都市住民との交流や自然への回帰への取り組みへと変容しつつあります。
 私たちの集落における過去・現在の主な取り組みをご紹介いたします。


「郷土誌すえひろ」の編集

 村の歴史を知り、多くの村人たちの汗と涙の足跡と村づくりを理解するために、『郷土誌すえひろ』は編集されました。集落の全住民の顔写真と名前が一度は登場するよう心がけ、航空写真を含め写真は413枚。全18章208ページ。装丁にも苦労しました。


「末広区ミニ通信」の発行

 実行委員会の事業や活動を理解し、参加していただくためには正確な情報提供が大切です。また〈地域のミニコミ紙〉として、遠い昔、井戸端会議や夕涼みの縁台で情報を交換し合ったように『末広区ミニ通信』がその復活を果たしてくれたらと考えています。毎月1回の発行ですが、145号になりました。


「末広ふれあい基金」の創設

 多くの事業(活動)を積極的にきめ細かく推進するためには、当然なにがしかの経費が必要になります。自前の活動資金を確保することが行政主導を排除することにもなります。
 結婚記念日や誕生祝いに、健康に感謝してなど、多くの善意の預託を頂戴しております。


「末広地区振興計画」を策定する

 80戸の集落が自前の村づくりの構想・構図を描く。かつては想像もできないことでした。しかし、あえて挑戦し実行しました。振興計画の概要は次のとおりです。
(1)東山麓バイパスと墓地公園ゾーンの造成
(2)花と蛍と水辺空間ゾーンの推進
(3)福祉とやすらぎの里ゾーンの創造
(4)集落の景観保全と快適空間の創出
(5)豊潤の森ゾーンの演出と広葉樹林の再生
(6)国際化への対応と集落ホームステイ
 地域の人びとが『…いつまでも住みつづけたいと願い、そこに住んでいることが誇りに思える村づくり…』のため県・町にご理解を求め億単位の工事が数か所完成し、今後においても数億の県・町費が投入される予定です。


「共同墓地改修整備」に着手する

 共同墓地には多くの村人が眠っています。この浄土に鍬を入れるなど想像もつかないことでした。末広地区振興計画の中でそれが提案されたとき、騒ぎが起こったことを今でも覚えております。しかし、『…年をとるとご先祖様にも会いに行けません。墓への道や足元をよくして欲しいものじゃ…』老いた農婦のひと言が、無関心であった私たちの目を開かせてくれました。特別委員会が組織され、かつては「若造」として集落の組織の構成員にもなれなかった世代が委員長・副委員長を担当しました。ここにも集落を吹き抜ける新しい風があります。新しいふるさとづくりは、人を変え、集落をも変えつつあります。


「集落農業経営プラン」をつくる

 経営面積も小さく、水稲を中心とする土地利用型農業で兼業農家が99%以上を占め、農業従事者の高齢化と後継者皆無の状況下にあります。しかし、集落の活性化には農林地の管理機能の向上と経営体の育成とともに、自然景観を都市住民へ提供し保全する住民活動が必要と考えました。そのための経営プランの作成が緊急の課題でした。
(1)農業者の所得確保と資産価値の維持
(2)生きがい・楽しみとしての農業
(3)高齢者雇用とやすらぎの場の提供
(4)風土・景観の維持
 元気な高齢者を第2の現役世代と位置づけ、地域内雇用と地域の活性につなげたいとの願いがあります。末広区の「集落農業経営プラン」は、安富町を経由して兵庫県へ提出されました。


「末広区自主防災会」を組織する

 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)は集落の誰もが経験したことのない大地震でした。そればかりではありません。私たちの安富町は、岡山県北部から兵庫県東部にかけて帯をなす山崎断層上に位置しているのです。
 農山村ですから自衛消防組織は確立しています。しかし、新しいふるさとづくり活動の中で定着しつつある「隣保共同精神」を、自主的な防災行動にも役立てたいと考えました。
 本部・情報班・消火班・救出救護班・避難誘導班・給食給水班を組織し、集落の大半の人びとがかかわりをもっています。


「地域で子どもを育てよう」に挑戦

 毎月の第3土曜日、集落の中学生全員を預かることにしました。このことは「地域に学ぶ体験活動」として、学校の要請に応え企画しました。生徒たちが地域社会の一員として汗を流し、地域の仲間の一人として地域の人びとと一緒に労働し語る日を設けました。
「地域の大人は地域の子どもを知り、地域の子どもは地域の大人と地域を知る」そんな思いから次のような内容としました。
(1)集落の人びとと10坪花壇づくり
(2)婦人会員と料理教室と試食会
(3)老人会員と神社の清掃と懇親会
(4)お盆前に集落全員と共同墓地の夏草刈り
(5)子ども会のバス旅行に参加し引率する
(6)生産森林組合員と共有林野での山仕事
(7)森林ボランティア隊員と山仕事交流会
(8)小学生の廃品回収に参加する
 集落の全ての団体が手分けして担当することによって、地域で子どもを育て、子どもたちに生きる力を。そして、保護者はわが子を再発見する場であって欲しいと願っています。


「新しいふるさとづくり実行委員会」

 区長を会長として、住民生活部・福祉部・保健体育部・教養部・学習部の5部と事務局を組織し、私たちはそれを「新しいふるさとづくり実行委員会」と呼んでいます。そしてわずか80戸の集落で80名の実行委員を委嘱しています。
 80名の実行委員は、各種団体や階層別代表から推薦され、任期は2年です。実行委員会は《心ゆたかなふれあい》《地域内福祉》を目標として活動しています。
(1)住民生活部は『みんなが主役の村づくり』をスローガンに、自分たちの住む村を自分たちの手で魅力と活力のあるものにするため、みんなで知恵をだしあっています。
(2)福祉部は『ふれあう心にしあわせを』をスローガンに、ボランティア精神を育てる心のふれあいを深める活動を推進中です。
(3)保健体育部は『みんなすこやかに』を掲げ、一人ひとりがすこやかな毎日を送るため健康づくりの一翼を担当しています。
(4)教養部は『生涯学習をすすめよう』をスローガンに、趣味を深めよう・教養を高めようと生涯学習に取り組んでいます。
(5)学習部は『人権尊重の心を育てよう』と、みんなが幸せを感じることができる地域づくりをめざして活動しています。
(6)事務局は『やさしさのあとに幸せがやってくる』を合言葉に、実行委員会のお世話をしています。
 いつの時代にあっても「すべての人が心の豊かさ」を実感できるというのが、地域社会に住む私たちの願いです。そのための1つの手段・方法として、私たちは「新しいふるさとづくり実行委員会」を組織して10年になります。そして現在、各部の主な活動は次のとおりです。
*集落の1年を映像に記録する試み
*日本一のジャンボヒマワリをつくろう
*都市住民(森林ボランティア)との交流
*茜色の丘に石仏の森をつくろう
*料理教室と試食会
*地域で子どもを育てよう
*各種競技大会の企画から開催まで
*「末広区ミニ通信」の編集と発行


「みんないっしょに!」

 新しいふるさとづくり活動は、閉鎖的であった村社会の意識改革を果たしました。共同墓地の大改修は人の「こころ」と「意識」さえも変容させていくさまを、今、確実に肌に感じています。
 80戸・340余名の人びとが「心の豊かさ」を実感できる日々は扉の向こうにあります。その扉に手をかけた今、私たち末広区のスローガンも『人が輝き、地域が光る村づくり』へと変わりましたが、心はいつも《よりよいあした》を求めています。
 そして、『みんないっしょ!』を繰り返し心に刻みつづけながら…。