「ふるさとづくり'98」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

生涯学習の振興こそ、地域活性化の原点
愛媛県 大三島町
「住む人が楽しく学ぶ生涯学習大学」

 大三島町は、瀬戸内海の中央部に浮かぶ、周囲56キロメートル、面積65平方キロメートル、愛媛県で最北端、瀬戸内海で6番目の大きさの「大三島」の西側に位置している。
 住民人日は、4782人、うち65歳以上が40.46パーセントと、愛媛県でも有数の高齢町である。
 本町のプロフイールの紹介にあたり、何はさておきご紹介させていただきたいのが、わが町に鎮座する日本総鎮守大山祇神社である。
 古来、武門の神と崇められ、戦勝の祈願や御礼に奉納された甲胃刀剣類は夥しいものがあり、その数は国宝8点、国指定重要文化財469点にのぼっている。
 とくに、甲胃類においては、全国の旧国宝の8割を蔵するところから、古くから国宝の島と呼ばれてきた。
 その中でも、源義経奉納の国宝・赤絲威鎧、河野水軍の統領河野通信奉納による国宝・紺絲威鎧、源頼朝奉納の国宝・紫絲威鎧、三島大祝(今で言えば官司)安用の娘鶴姫着用の国指定重要文化財・紺絲裾素懸威胴丸(日本唯一の女性用の鎧)は、いずれも出色である。
 夢の架け橋と言われた尾道・今治間の瀬戸内海大橋も、残る多々羅大橋と来島大橋の建設工事が平成10年度末の完成を目指し、今、急ピッチで進んでいる。全線開通の暁には、「大山祇神社とみかんと、瀬戸内の小魚の味」を求めて、全国から多くの観光客が訪れるものと期待を抱いて、わが町は「住む人が楽しく学ぶ生涯学習大学」に取り組んでいる。


取り組みの概要

1 他機開と連携、生涯学習大学として体系化
 従来、町長部局、教育委員会事務局、社会福祉協議会の3者が個々別々に開いていた各種の講演会・学級・講座等を「大三鳥町生涯学習大学」の1講座として体系づけ、平成2年度から発足させた。
 現在では、商工会の講座も生涯学習大学の講座として認定、受講者が増えたと喜ばれている。
2 学習記録力−ドと単位制を導入
 町民の生涯学習大学での学習の成果を評価する手段として、また、町民の自主的な学習を奨励する目的のもとに学習記録力−ドを活用、単位制を導入した。
 3者が主催する講演会・学級講座・趣味学級に、それぞれ1回出席する毎に1単位取得できることとした。
3 修了請授与
 講演会で3〜6単位以上、学級講座で9〜14単位以上、趣味学級で5〜10単位以上取得し3領域で合計25単位以上取得した学習者には、翌年度の生涯学習大学開講式で、修了証(表彰盾)を授与している。
4 社会教育委員の増員
 生涯学習大学を身近な集会所等でも学習できやすくし、11地域からの要求課題、地域謀題等を学習に反映できるように、さらには学習の成果を地域をよくする地域づくりに役立たせようと、社会教育委員(3号委員)を11名増員した。
5 地域課題解決学習
 町民自らが生涯課題を持ち、自分たちの地域を見直し「地域課題の解決は、自分たちの手で」をモットーに、生活運動として取り組むよう方向づけを行った。
 海に囲まれた本町の立地条件から、海の汚染は自分たちの生活にも大きな責任があることを学習する場として、「海を美しくする学級」を開設し、下水道の必要性等を学習する機会を設けた。花づくり教室、歴史教室、観光ガイド講座、古典教室等、学習者が選べるメニューを増やした。
6 講師に町内人材を登用
 地域により密着した生涯学習大学を目指すという趣旨から、町内の各分野で研究実践活動を行っている人材の発掘に努め、講師に登用した。ちなみに、ヨガ教室、歴史教室、花づくり教室、俳句教室、すみ絵教室、パソコン教室、古典教室等である。
 とくに、パソコン教室講師に中学校教論を、古典教室講師には高校教師を登用、学校の施設と人材開放につなげたいと考えている。
7 学習者への啓発
 (年度当初)
 大学生募集リーフレット(A3判)を全世帯に配布。
 (毎月20日頃)
 翌月の学級講座の予告を「生涯学習大学ご案内」(B4判)として全世帯に配布。
 (前日と当日の朝)
 声の広報(無線放送)により全世帯に放送。
 (2か月に1回)
 生涯学習大学での学習内容を中心に、写真記事にした「生涯学習情報誌ふれあい」(B5判)として、2か月に1回発行し全世帯に配布。


成 果

1 住民の自主組織「地域をよくする会」の設立
 21名増員した、地域担当社会教育委員の活躍と、公民館主事等の方向づけ、さらには、花づくり教室等の成果により、各地域にそれぞれ「地域をよくする会」のような自主組織ができた。微々たる歩みながら花壇づくり、環境美化等には自主的に競って取り組むようになってきた。
2 海を美しくする学級で、水質汚染の学習、集落排水処理場(下水道)の見学、下水道計画の学習等が、廃油利用石鹸づくり、牛乳パックの回収運動、生ゴミ有効利用のコンポスト設置運動(1237個設置、町が3分の2を補助)、下水道計画の促進等に発展、寄与する等、生涯学習の成果が徐々に活動となって表れてきている。
3 町民が元気に(精神的に)
 ・花づくり教室生が文化協会園芸部に入会活躍中
 (花の種子の播種、育苗、株分けをボランテイアで行ない、町内公共施設に16567本を配布。花いっぱい運動を推進、地域づくりに貢献している。)
 ・絵画教室生の作品が、平成8年度の県展に入選
 ・川柳教室生が、川柳大会開催、機関誌発行、愛媛新聞の柳壇で活躍中
4 隣町の町民も受講
 すみ絵教室、花づくり教室、川柳教室等には、隣町の町民も参加するようになった。
5 学習意欲向上
 町民の学習意欲が次表のとおり向上した。
 

 学士認定者…修了4回以上、修士認定者…修了6回以上、博士認定者…修了8回以上(平成9年度には、初の博士号が誕生する予定)


課題と展望

 生涯学習大学開設後8年目を迎えたが、学習者の地域的、年齢的片寄り、学習成果の地域づくりへの生かし方が十分でない、学習内容のマンネリ化等々が検討課題であるが、明るい展望を持って取り組みたい。
 我が町の誇り「日本総鎮守大山祇神社」には、樹齢3000年に近い国の天然記念物「大楠群」がある。町の木も楠である。諺に「楠の木学問」という一言葉がある。「楠の木学問」とは、進歩は遅くても堅実に成長していく学問を指す言葉である。
 我が町の生涯学習大学が「楠の木学問」として大山祇神社の大楠のように発展して欲しいと願っている。
 今、我が町のように、過疎・高齢化に悩む町村は全国に数多い。
 過疎・高齢化の中でこそ、住民一人ひとりが心を磨き、輝かせ、学習の成果を自分たちの地域や町づくり等に生かすことが何よりも大切である。これこそが生涯学習であると思う。
 イベントのように大金も要らず、住民一人ひとりを輝かせ、地域を輝かせる「生涯学習の振興こそ、地域活性化の原点」との視点を忘れることなく取り組みたい。