「ふるさとづくり'98」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

子どもたちが水遊びできる川を残そう
東京都武蔵野市 井の頭・神田川を守る連絡会
 下流の氾濫を防ぐために、コンクリートで固めた川に改修することになって、川岸の樹木が切り倒されていく。この光景を目のあたりにして「子どもたちが水遊びできる川を残そう」と井の頭・神田川を守る連絡会(代表・塩田玲子さん)による運動が始まった。住民集会、陳情、署名活動等の結果、5年の歳月をたどって、400メートルではあるが、自然は残った。会は、その後、川の清掃、どじょうつかみ取り大会等を実施している。


専門家の意見を聞いて

 運動が始まって、都との間の話し合いの中で、都の説明は、神田川は一級河川だから河川法にもとづいて改修を行う。しかも、(1)下流の洪水を防ぐために深く掘り下げる、(2)蛇行している流れをまっすぐにする、(3)予算もすでにとってある、というものであった。
 住民は、このすばらしい環境を見ないで設計され、改修がすすめられることに対して、「ここがどんなにたくさんの人たちの憩いの場であり、子どもたちがのびのびと自然の中で遊べる貴重な場になっている」ことを訴えるとともに、都側の論拠をくつがえそうと、玉川上水を守る会の人たちの経験に基づいた智恵を借りるとともに、土木工学や生物学の専門家の話を聞くなどして研究を続けた。
 この川は、他にも問題を抱えていた。それは、武蔵野、三鷹の両市から直接下水が流れ込んでいること。そこで、せめて下水口を子どもたちが川に入って遊ぶ場所を避けて下流に移動するよう両市に陳情した。5500名の署名も集め、「井の頭公園内神田川を魚も虫も子どもも鳥もいっしよに住める川にしよう」をテーマに対話集会を開いた。
 わずか400メートルの自然を残すために、足かけ5年をかけた活動は、陣情も採択されて清潔な川として生まれ変わった。


住民側も協力して維持・管理

 しかし、渇水期になれば、水が涸れるなどの問題も残された。住民は、市に対して雨水浸透に関する条例を作るように働きかけ、建て替え、新築時には雨水浸透マスを設置することなどを働きかけ、実現させた。
 また、住民も協力するとの立場にたって、毎月第2日曜日には川の清帰をするとともに、南町コミュニティセンターと一緒になって、6月にどじょうつかみ大会を実施している。せせらぎが完成して行われた式典の中で、都は、「住民との話し合いにより、このような親水化の川が実現でき、とても嬉しいことだ。今までの東京都の川は防災一辺倒で河川計画が立てられてきたが、これからは人と自然とがふれ合えるような親水河川を考えなければならない」とあいさつした。
 完成してから多くの歳月が経った。その後も、住民はここをふるさとと呼べるよう努力を続けている。