「ふるさとづくり'98」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

伝統の井戸掘りで国際交流
千葉県袖ヶ浦市 上総掘りをつたえる会
 上総掘りは、灌漑用水、飲料水を確保するため、上総地方で明治中期に開発考案された井戸掘り技術である。孟宗竹を巧みに利用し、人力だけで数百メートルの非戸を掘り抜く。秋田の油田、熱海や別府の温泉もこの工法で掘られたという。上総掘りをつたえる会(代表・山田吉彦さんメンバー26人)は、この先人のすばらしい知恵を後世に伝えるとともに、悪水と水不足に悩む東南アジアの人びとにその技術を伝承し、交流を図っている。


袖ヶ浦から東南アジアへ

 市内の非戸掘り師と上総掘りに関心を持つ市民により、同会が結成されたのが昭和58年。発足当初より町内の古い上総掘り井戸の調査や、袖ケ浦郷土博物館主催の体験実習に協力して技術指導を行っている。この活動を知った堺ロータリークラブの援助でフィリピン・ネグロス島に会員2名を30日間派遣し、現地の人びとと、ともに1本の井戸を完成したのが、海外での初仕事だった。今では、わずかな日数で水がでるボーリング工法に変わってしまっている。しかし、経済的に困窮している国には、立派な機械を贈っても、その後のメンテナンスができずに、その場限りの援助に終わってしまうケースがある。その点、上総掘りは、技術を一度習得すれば、自分たちの力だけで継続して井戸を掘るこができるのである。


無償の技術援助で国際親善

 「技術の輸出ばかりでは意味がない」と平成2年には、フィリピンから9名の青年を招聘し3週間の研修を実施した。この時彼らの掘った井戸は「日比友好の井戸」として、記念碑が建立されている。そして、「必ず自分たちの手でバタンガスに非戸を掘る」と約束したとおり、1年後に2本の井戸を完成させた。その後も、同会ではインドネシアヘの技術指導、フィリピン・ナショナルハイスクールで井戸掘り技術指導やチベット農業研究生の受け入れなどを続けている。
 会員たちは、「ものではなく技術を伝え」、各国の人たちが、その技術を使ってきれいな水を得ることができたことが、何よりの成果であり、喜びであると考えている。