「ふるさとづくり'97」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

音楽による村づくり
新潟県 大島村
 私たちのふるさと大島村(山内克行村長)は、新潟県の南西部に位置し、南を長野県と接している中山間の細長い小さな村です。
 地場産業は、従来から水稲単作を基幹とした零細経営農業に支えられてきましたが、近年生産調整により他の作物への転換なども試みられています。しかしながら後継者不足や就農者の高齢化等により生産意欲も低下して、思うような成果は現れていません。立地環境や冬季の積雪等の厳しい自然条件の克服も大きな課題となっていました。そんな中にあって労力不足の農家を助け、また省力、集約化を目指しバイオ技術等を導入した高付加価値の新しい農業を確立するため、村内に農業公社が設立され、農作業の受託や新作物の導入に向けての研究がスタートされました。
 現在は、ユリやチューリップ、菊の切り花や球根等の生産が手がけられており、将来的には施設で作り出したオリジナルの種苗を、村内の高齢者を含めた農家の皆さんから引き受けてもらい、これからの地域特産に育て上げていくことを1つの目標としています。


音楽による村づくりの始まり

 音楽による村づくりを掲げたのは、あるきっかけがありました。昭和60年、生徒数が減少して廃校になった校舎に、ギター専修学校(新堀芸術学院)が教育活動の拠点として移転されてきたことから始まります。専修学校の関係者がはじめて大島村の地に足を踏み入れ、「これぞ日本のチロルに相応しい……」と感想を語られたところから「日本のチロル 大島村」とネーミングされ、各方面に伝えられていきました。
 全国各地からギタリストを志す若者たちが大島村を訪れ、ギターのさわやかな音色が、装いを新たにした学園に響き渡ると、村民の皆さんも1日の仕事が終わってからギター教室に通い始めました。そしてピアノや大正琴のレッスンもスタートし、音楽を愛好する人たちの裾野がだんだんと広がっていきました。
 この機運をさらに盛り上げて、過疎で少しくらい人口が減っても、若者が都会へ旅だって高齢者ばかりが多くなってきても、いつも音楽に親しみ音楽と触れあい、誰もが生きがいとゆとりを持って暮らしていける明るく住みよい村づくりを目指していこう、そんな願いをもとに上越教育大学の重嶋先生や上越音楽芸術協会代表の前田さんほか各位のご指導をいただきながら音楽協会を組織し、音楽による村づくりの構想をまとめあげ、平成3年度に「音楽村宣言」として公表し、現在にいたっています。


音楽に親しむ裾野を広げよう

 国(文化庁)や県の応援をいただきながら、いろいろな事業を進めてきました。ギターや大正琴の教室受講生を中心に村民合奏団をつくり、定期的に練習活動が開始されました。もちろん指導には新堀芸術学院の専門スタッフの皆さんに担当してもらっています。
 また、中学校には以前から吹奏学部があり、村内在住のOBが数人いたことから合奏団組織に吹奏楽団も加わり、さらに勇壮な音色を響かす和太鼓のグループも仲間に入り、お互いに励ましあいながら練習に精を出しています。
 さらに、楽器演奏のみならず声楽にも活動を広げていこうと、若いママさんたちを中心とした女声合唱団が編成され、熱心に練習を積み重ねながら素敵なハーモニーに一段と磨きをかけています。そして、これに負けじと少年少女合唱団、高齢者合唱団も生まれました。それぞれに村内小・中学校の先生や近隣からわざわざ駆けつけてくださる熱心な指導者を得て元気に頑張っています。
 音楽村づくりの基本は、自ら主体となって楽しむ合奏団・合唱団の育成を第1に置いています。1日の仕事の後、それぞれに愛器(楽器)や楽譜を手にして練習会場へ集まり、疲れも見せず和やかに会話を弾ませながら、練習にも一層熱が入ります。


気楽に楽しめる音楽会を

 そして、“芸術・文化の秋”のある1日、新装成った多目的ホール「ふれあい館」に全員集合。日頃の練習成果を十分発揮できる晴れ舞台が、村中こぞって楽しむ「村民音楽祭」の日です。演奏する人もそれを鑑賞する人々も、時間が経つのも忘れて音楽に溶け込みます。
 また音楽鑑賞会も企画して、専門家の演奏を身近に楽しむ機会をつくることも心がけています。全村エリアでの演奏会から地区ごとの触れあい出前コンサートまで、誰もが気軽に、そして心から楽しめる催しにすることが目標です。クラシック音楽なんておよそ無縁?と思っていた、あそこの父ちゃんやあの家の母ちゃんの顔が会場に見えると、周囲は大喝采、皆さん本当に嬉しそうです。
「ほたるコンサート」や「菖蒲高原音楽ひろば」等と銘うってPRし、近隣市町村からもお出いただけるようにいろいろと工夫もしています。


大きな目標は“一村百歌運動”

 大島村では、音楽村づくりをスタートさせてから、村のイメージソングもつくりました。小林亜星さん作曲の「ほたるの里」や「大島村マーチ」、新堀芸術学院学長の新堀寛巳さん作曲の「ワンダフル大島村」などです。
 これらの曲は、イベントのBGMに使われたり、村内に流れる時報チャイムに取り入れられています。また新堀さんは、大島村の四季の風景や伝統行事である才の神を題材とした交響詩「才の神」を作曲、国内各地の演奏会で紹介されており、今後海外での演奏活動でもプログラムに組み入れていくことにしておられます。
 ギター演奏のメロディーが流れ、合唱のハーモニーがあちこちから聞こえてくるーそんな大島村を皆で実現していくために、平成6年度から「一村百歌運動」を始めました。詞づくり教室を開き、小林さんから詞づくりの勘どころについて指導を受けた村民の皆さんから、作詞を手がけていただいて審査に応募してもらうもので、大島村の自然や懐かしいふるさとの情景などを思いのままに表現した作品が数多く集められています。
 審査には小林さんらも加わっていただき、優れた作品については運動の成果曲として登録し、さらにその年度の最も優れた1編について小林さんに作曲をお願いしています。第一作の最優秀作品は、村内に住む主婦、高橋サヨ子さんが作詞された「杉の木かくれんぼ」という曲でした。
 神社の境内で、日の暮れるまで遊んだ幼い頃の思い出を表現されたこの詞は、大変素晴らしく小林さんも絶賛されておられました。やがて音楽の村に生まれ育った多くの歌が、歌い継がれながらどんどん輪を広げていくーこんな夢がこの運動にあります。村民の皆さんに支えられつつ、末永く続けていかなければならない事業でもあります。


音楽が生まれ育つ ふれあいの里”

 近年、人々の交流を進めることによる地域活性化が話題になっていますが、大島村でも、ふるさと体験を取り入れた都市との交流や、地域間交流を進め、地域や村民の皆さんの活力を再生することを目標に、ふれあいの里づくりを展開しています。
 宿泊や実習体験施設等も整備され、児童・生徒の合宿活動に、農作業や雪国の生活体験などにと来訪者も多くなってきました。これらの皆さんにも音楽村を広く理解していただき、ふるさと大島村が音楽大好き人間のあふれる、さわやかな村に育っていくことを願っています。