「ふるさとづくり'96」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

元気アップ茂木を合言葉に大水害を糧としたまちづくり
栃木県 茂木町
 茂木町は、栃木県の東南端に位置し、人口18、500人、面積172.7平方キロの南北に細長い町です。また、その70%が標高200メートル前後の美しい緑の山々にいだかれたのどかな城下町でもあります。
 今から9年前、茂木町を襲った台風10号により、町を南北に流れる逆川が大氾濫し、町を一夜のうちにガレキの町に変えてしまいました。あまりの無残な姿に一時は立ち直ることができるだろうかとも言われました。しかし、町民一人ひとりのたゆまぬ努力が不可能を可能へと導き、復興へのうねりとなっていきました。
 台風10号は、昭和61年8月4日から5日にかけ、年間雨量の4分の1にあたる328ミリの集中豪雨をたった1日で降らせてしまったのです。
 逆川がいたるところで決壊し、道路は各地で寸断、電話も不通、電気も停電、水道も断水、特に市街地では浸水家屋が1、451戸、全体の約70%が水没してしまい、町は一夜にして陸の孤島と化してしまいました。
 被害総額約110億円、死者3人、重軽傷者58人を出す大水害となってしまったのです。町はどこもガレキの山、水の氾濫の勢いで生活川品や商品、自動車まで全てのものが流され、雑多なゴミ、汚泥、汚物が一緒くたになってしまい、災害のショックに身をまかせる間もなく、集中豪雨がうそのように晴れわたった真夏の太陽のもと、気が遠くなるようなゴミの山のかたづけが始まりました。
 年の暮れになると街の表情にも落ち着きが戻りました。そういう中、「このままでは町はだめになってしまう」「何とかしなくては」「ふるさとの誇りを取り戻そう」と町民の熱い思いがわき上がってきました。そして行政も燃えました。それが協働のまちづくりのスタートでした。
 その頃、この大水害の復興事業として逆川の大改修計画がもちあがりました。工事延長約22キロ、川幅が1.5倍、地権者数約600人、移転家屋150棟、総予算146億円という茂木町にとっては歴史に残る大事業でした。
 「我が家は、橋や道路はどうなるんだろうか」「移転によってこの町を離れてしまう人がでるのでは」それぞれの不安が募りました。「どうすれば良いのか」「町民みんなで話し合ったら」と、シンポジウムが開催され、住民と行政が一体となったまちづくりが提唱されました。「名付けて元気アップ茂木事業」「おもしろくなくちゃまちづくりでない」が合言葉でした。
 河川改修をまちづくりの絶好の機会として、「川を元気に」「水を元気に」「商を元気に」の3つの柱をテーマにかかげ、水辺の公園、アメニティーのための親水空間、川辺の演出、河川を親水空間に取り込んだコミュニティづくり等の事業を、シロウト(町民)の思い付きで、グロウト(行政)が裏付けし、時には予算や法律の壁にぶつかりながら無我夢中でがんばりました。


「川を元気に」

 市街部の逆川にかかる14の橋を単に渡るための機能でなく、それぞれに特徴を持たせるため、鯉やききょうを形取った高欄を設置し楽しい橋にしました。また、橋に「たたずむ」空間を持たせるため、御本陣橋に橋上公園を建設したり、けやきをデザインした歩道橋の槻木橋を新設しました。
 さらに、親水性を高めるため階段護岸や自然石護岸を設置したり、河川沿いにはあずまややベンチなどを設置したポケットパークを建設しました。さらに、河川の道路沿いに植樹植栽を行なうなど、河川環境の快適性も図りました。特に2キロにおよぶ「しだれ桜」の並木は、今では町の名所になっています。


「水を元気に」

 水辺環境の保全を図る啓蒙活動として、初めに沢ガニをデザインしたキャラクターグッズやシンボルマークをつくると共に、Tシャツやエプロンなどの河川グッズも作成し、配布を行ないました。
 昭和63年には良好な河川環境の形成と保全に活川する目的で、「もてぎの川をきれいにする基金(現在9、300万円)」を設置しました。これは基金の預金利子を活用し、河川環境保全のために使用する他に、水質浄化啓蒙のため広報誌の「水とE〜関係な、元気なレディの生活情報紙」名付けて「WELL」を年1回発行するなどの費用に役立てています。
 また、「水のことは女性にまかせなさい」と、平成元年に町内婦人の有志3、000人で「茂木の川をきれいにする婦人の会」が結成され、発足と同時に職員と合同で台所でできる水質津浄化のための出前講習会や、河川清掃、廃油を活用した石鹸づくり、資源のリサイクル活動等を展開しています。
 さらに、地域活性化への取り組みとして、毎年夏に逆川の高水敷(イベント広場)を利川して、町内の小・中・高生と一般の有志による「水辺の音楽祭」が開催され、多くの町民に感動を与えていると共に、昔楽にふれあいながら川(水)に親しむ機会をつくり、水の大切さと河川環境保全の重要性を訴えております。


「商を元気に」

 今まで川に背を向けて生活していた既存商店衛が、河川改修と共に河川環境の快適性の一部を担うようにと、川に向いたミニ商店街が形成され、市街地の魅力づくりに一役をかっています。さらに新しい河川環境を活用した地元主導型の大型ショッピングセンター「もぴあ」がオープンするなど、今ではこの周辺が町一番のにぎわいのゾーンとなっています。
 一方商工会を中心に、平成3年から毎年8月に「橋まつり」と称して、個性と潤いをもって架け代わった14の橋を活用したウォークラリーやカラオケ大会等を行なうと共に、先祖の供養と水害復興の感謝を込めて灯篭流しを実施しており、今では夏の風物詩となっています。
 「川が元気になることは、茂木町が元気になること」未曾有の大水害をもたらした逆川はすっかり安全で美しい川に生まれ変わり、今日も町民の心を映す鏡のように清らかな流れとなってキラキラと輝いています。そして、以前にもまして活気がよみがえりました。まさに住民と行政の協力が『禍を福』に変えてしまったのです。
 今、水の恐ろしさを思わせる風景といえば、当時の最高水位を表すために、電柱等に印してある帯状の黄色いテープだけです。
 しかし、私たちは、この災害を忘れることなく、これからも住民と行政が一体となって、川を愛し、水を大切にしながら、ずっと住みたいと思えるような、「もっと素敵に夢が輝くもてぎまちを築き上げていきたいと考えています。