「ふるさとづくり'96」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

ボランティアで福祉のコミュニティづくり
福岡県新吉富村 ボランティアグループおてだま
 生涯を幸せにすごし、子孫に繋ぐべきこの地域を、安心して住め、住みたくなる福祉コミュニティにしたい。そのために各々が持つ心と時間と技能とで参加したい、と希っていた人たちが、6年前の1990年(平成2年)の夏、村の社会福祉協議会の斡旋で集まった。人口約4、200人の小さな農村でも高齢化、核家族化が進み、保育所の一室が空くはどに少子化が見えはじめ、特別養護老人ホームが村内に開設されたのはその2年前であった。


食が人をつなぐ

 男性1人を交えた主婦数人で話し合った結果、異色の人々が結集し、善意のやりとりをする、その形態が似ているという意味で、会名を「おてだま」と名付け、とりあえず最も二−ズが高く、緊急を要する独り暮らし及び夫婦だけの80∞歳以上の高齢者へ食事を届けることからスタートすることとした。わずか月1回ではあるがその年の10月から始め、以釆足かけ7年、56回を数えている。
 身体の機能が衰え、家族不在の後期高齢者が孤独に耐えながら生存するための最大の困難事は、3度の食事づくりである。「ふれあいお弁当」と名付けた手づくりの夕食に、男性も包丁を握り、汗を流している。食材の費用の多くは「共同募金」で賄われるが、そこは農村のこと、メンバーの自家栽培の野菜類を持ち寄り、調理に時間のかかる煮物やデザートなどは自宅でつくって持参する。
 昨年6月からは、村内にある県立高校の男女の生徒が常時7、8人ずつ参加しており、調理を共にするほか、家庭科学習の一つとして、献立の栄養価の分析をしてくれ、バランスのとれた栄養構成に役立っている。同じ時期に共同で「独居老人の食生活実態調査」を行った。その結果、味噌汁や漬物だけの“バッカリ食”、インスタント食品への依存、野菜やカルシウム不足などの実態が判明し、食材購入の不自由やタクシーを使うなどの生活上の悩みがクローズアップされた。簡単に調埋できるレシピの作成、提供や、地域ぐるみでの買物援助などを模索しているところである。
 当初1回30食からスタートしたのが現在では、60食前後、この間の死亡者わずか2人。いかに高齢化、孤老化の進行が激しいか、統計数字でなく、肌で実感している
 出来あがったお弁当は、会員が手わけして一部は高校生と一緒に高齢者を訪問して届ける。会話が弾み、嬉しい交流が実現する。タ食を届ける日の予告訪問とこの機会が「見守り・お助け二−ズ」のキャッチの場となる。
 お弁当には、高齢者の生き方に寄与する文章や詩歌などを盛り込んだ「お便り文集」を毎回用意して添える。大好評で、繰り返し読んでもらって36回を数えた。
 食事は人と人との心を通わせ、調埋をして提供することによって、その気持ちが通じあいコミュニケーションが強靱になる。体裁のよい仕出し弁当的なものでなく、家庭の味付けを心がけ、調埋の工夫が双方に学び合う関係を生み出し、地域の食文化の創造へ発展して行く活動となる。


男性料理教室

 高齢者への給食活動を通じて、特に男性の自立の最大の障害は食生活にあることに気がついた。現今の家族形態の趨勢から、高齢者孤老化の確率は高い。一方で女牲の固有の役割とされてきた食事づくりは、女性にとって自立、自己実現への大きな負担になっている。人生80年時代の今、女は誰かのために50〜60年もの間、3度の食事を続ける犠牲を強いられる。女性の解放のためにも「男も厨房に立つべき」である。保守的な農村では大きな勇気が必要であったが、案外すんなりと定者した。やはり時代の要請に相違いない。ほぼ3ヵ月毎のぺースで「男性料理教室」を開催、11回を数えた。「シルバーもヤングも料理やろう」(やろうは「野郎」と「しましょう」の掛け言葉)をスローガンに、熟年男性に加えて高校生や男性教師も参加し、入り交じって調理をし、会食を楽しみ、歓談すると共に、青少年への食事マナーの躾、習得の機会になっている。


世代間交流

 給食活動や料理教室では、老壮青の世代を越え、男女の性差なく共同作業を通じての交流が自然のうちに相互理解体得の場となり、ごくスムーズに融合し合っている。
 来るべき超高齢社会においては、年金、医療、介護の費用負担問題等の世代間軋轢の心配がある。日常、早いうちに地域において生活のあらゆる場面で積極的に世代間交流の機会を用意して行くことが必要である。
 休耕田を活用しての保育所の幼児と、初夏の芋の苗植え、秋の芋掘りをはじめ3年目。幼児との共同体験を通じての感動を作文に綴り、「芋掘りは心掘り」と題して全国ボランティアフェスティバルのコンクールに入賞した。少子化、保育対策強化への提言である。


福祉の心を育てる

 村内、2つの小学校が福祉教育研究協力校に指定された機会に、ボランティア体験を通じての「福祉のこころ」をテーマとする福祉授業をおこなった。4年生以上の児童が身じろぎもせず、目を輝かせて聞き入ってくれた。後で感想文を書いてもらったが、実に素直に「共に生きる」福祉の埋念、精神を受容してくれていたことに、当方が逆に感動させられた。汚れなき子どもを大切に育てねばならぬ。
 隣接の小都市の小学校教師の集会で「共に生きる福祉教育のために」と題して、特に高齢者福祉の課題を通じて講演した。(いづれも平成6年)他に村内の地域団体への講話など、福祉の心を育てる活動を続けている。


幸せづくりの講演会

 (財)福岡県地域福祉振興基金からボランティア活動のモデル団体に指定され、若干の助成金を受領したので、これを地域に還元しようと、手づくり、自前の「幸せづくり講演会」を開催した。一昨年は「スウェーデンの高齢者福祉事情」、昨年は「福岡県長寿社会づくりビジョン」をテーマに県職員の説明を聞いた。
 予想していた倍、120人もの聴衆が詰めかけ、主催者の私たちを慌てさせた。この種の講演を村の行政が行わないので、村民にとっては初めて聞く内容であった。本来、行政が行うべき領域であるにもかかわらず、純粋に民間の催しに行政、議会、各種団体のトップが揃って聴講に来たことに呆然とさせられた。本年以降も続けて行きたい。


老いにやさしい住まいづくり

 ノーマライゼーションの理念の具体化として、在宅福祉・在宅介護の推進が叫ばれている。その遂行のためには、心身機能の衰えた高齢者にとって住みやすい、障害をもつ高齢者を介護しやすい住宅であることが前提条件となる。そこで村役場の福祉担当者や社協の職員を引き連れて、全員で福岡県建築住宅センターで、その構造設備についての研修、見学を行った。これが動機づけとなって、平成4年度に、福岡県では初めての、全国でも東京・江戸川区に次いでの行政施策「高齢者在宅生活支援事業」となって実を結んだ。在来住家に手すりや洋式トイレの設置、浴場の改造などを対象とする、まだまだ不十分な施策ではあるが、村民の受益には大きいものがある。


バリアフリーの街づくり

 高齢者や障害者が家に閉じこもることなく、街に出て人々と交流するためには「障壁のない」街づくりが必要であり、先進の県市では積極的に改造が進められている。わが村は車椅子であるけるかどうか、ウオッチングしてみた。まず公共施設点検の結果では、村役場の玄関のスロープは形骸化しており、地表との接点で7センチメートルの段差があった。傾斜も急で、後押しがなければ単独では進めない、玄関の二重扉も開き戸であるため、車椅子では開けられず、入れない。内部のカウンターも目の高さ120センチメートルの車椅子では頭の上になる、書類など到底書けず、見えない。外に出て道路はどうか。自動車が出入りする部分の道路が、車道へ向けて傾斜しており、車椅子ごと車道へ飛び出すなど危険この上ない。あたかもこの時期、村の老人保健福祉計画策定作業中で、筆者がその委員として参画していたので、詳細をリポートした。すぐ反響があり、スロープの段差は解消され、カウンターは2ヵ所で切り下げられて、とかく閉鎖的であった役場の空気が風通しよくなったと住民から好評を得た。


悪徳商法から老人を守る

 いまだに押し売りや詐欺まがい商法による被害があとを絶たない。高齢者の資産を略取するなどの事件も起こっている。警察署員と懇談し情報交換をし、その結果をわれわれボランティアから高齢者へ教授している。これも本来行政の行うべき分野であろうが。


地球環境を守る

 地球の血管とも言うべき河川や水路を生活雑排水が汚染している。食用油の廃油をリサイクルして石けんを作り、村のイベントや役場の窓口で常時実費で頒布している。
 良質な紙パルプ資源である牛乳パックを回収することによって、ゴミの減量化に寄与し、パルプ資源の保護に一役買うと同時にこれを障害児自立支援施設に寄託し、資金援助している。本年1月から村内食料品店6ヵ所に回収箱を設置、5ヵ月で3万枚をこえた。住民の環境保全思想の普及、障害者福祉への参加意識の高揚にささやかな貢献を続けている。


地域への浸透と広がり

 毎日の新聞から福祉関係記事をスクラップし、毎月「地域福祉ジャーナル」を編集、学校等へ提供し、会員の例会時の教材に供する等、福祉意識の高揚、地域への浸透に努めている。会員は村内女性団体の幹部や活動家であり、男性も元郵便局長、現教育委員等指導的役割を持つなど、地域福祉活動への影響力が大きい。また積極的にマスコミその他へ意見を発表して福祉思想の拡大、浸透を図っている。これもボランティア活動の一つであろう。