「ふるさとづくり'95」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

絵になる街を育み
広島県 尾道市
尾道市の概要

 尾道市は、瀬戸内海のほぼ中央、広島県の東南部に位置する、面積110.93平方キロ、人口約9万7000人の都市です。瀬戸内海に面し、気候は温暖です。地形は、市のほぼ中央部を東西に斜貫流する2級河川藤井川を境に、以北に山が多く、以南に平地が点在的に開けており、市街地は海岸線にそって形成されていますが、近年、後背部の開発や海面の埋立てによって都市部が急速に拡大しています。
 対岸の向島との間にある尾道水道が天然の良港となり、開港800有余年を誇る尾道港を中心に、古くから瀬戸内海の拠点的な商業都心・港湾都市として栄え、多くの文化遺産を有しています。
 こうして蓄積された経済力を背景として、1898年(明治31年)に市制を施行し、備後圏域における中心都市として地域産業などに主導的な役割を果たしてきました。近年は、1988年に山陽新幹線新尾道駅が開業し、また、1993年には山陽自動車道尾道インターチェンジが開設され、新広島空港も開港されました。さらに、平成10年度には本州四国連絡道路尾道・今治ルート(西瀬戸自動車道)の全線開通が予定され、また、これに続く中国横断自動車道尾道松江線の開通も期待されており、これらが結節する尾道は高速交通ネットワークによる「瀬戸内の十字路」を形成することとなります。
 尾道市は、21世紀に向けた都市づくりのテーマを『新文化創造都市・尾道』と定め、このテーマのもと、これまでの尾道らしさをより高める都市づくり(グレードアップ尾道)の方向として「快適居住文化都市」と「芸術文化都市」を掲げ、また、新しい活力都市づくり(クリエイト・ニュー尾道)の方向として「新産業文化都市」と「リゾート交流文化都市」を掲げ、これら四つの都市像の実現を強力に進めていくことになりました。
 歴史・文化の土壌の上に、瀬戸内の十字路としての拠点性を活かして、市民生活・産業経済などあらゆる都市活動において、活力と潤いに満ちた新しい文化創造を目指し、情緒豊かな人間が息づくまちづくりを進めています。


出会いのまちづくり

 尾道市は、「大屋根はみな寺にして風薫る」とうたわれたように『寺のまち』であり、わずか2キロほどの間に古くは81もの蔓を数えたと言われ、現在でも密集した木造家屋の所々に25の寺が点在しています。斜面市街地の中を網の目のように張り巡らされた生活道をたどってこれらの寺を巡る石段や坂道は、四季の眺めとあいまって独特の情緒を醸しています。昭和58年度から歴史的地区環境整備街路事業として、寺々を結ぶ石段や坂道を石畳で舗装するとともに各所にポケットパークを配置し、潤いとゆとりのある町並みの整備を行なっています。この「歴史的地区環境整備街路事業」は、建設省から平成2年度「手づくり郷土賞」を受賞しました。
 また、歴史と自然に支えられた、個性ある地域景観を形成している中心市街地において、一定規模以上の建築物の建築等は、景観形成指導要綱(1993年3月策定)に基づき届け出を要することとし、地域景観上ふさわしい建築物等を誘導するよう努力しています。また、こうした中で電力会社などにより電線の地中化などの動きも起こっています。
 この歴史と自然に恵まれた町並みは、古くから多くの文人墨客に愛され、また最近では数々の映画等でも取り上げられ、年間220万人の観光客が訪れています。観光客には、利便性と観光都市としてのイメージアップを図り、市民には潤いや安らぎといった精神的な豊かさを感じさせる安全で快適な生活環境を提供するために、平成2年度から「出会いのまちづくり事業」を実施しています。「出会いのまちづくり事業」は、「さわやかトイレ事業」、「街あかり事業」、「彫刻のまちづくり事業」の三つの事業から成っています。
 さわやかトイレ事業は、従来の公共トイレに対する「汚い」「暗い」「臭い」「怖い」といったイメージを拭い去り、街なかや公園などに安心して気持ち良く使える、さわやかな空間としてのトイレを整備するもので、12棟を設置しました。ベビーベッド、更衣コーナー、BGM等を備えたものも多く、このうち久保2丁目さわやかトイレは、1991年第7回全国トイレシンポジウムで全国グッドトイレ10の一つに選定されました。
 街あかり事業は、千光寺登山道と千光寺公園の総延長1、776メートルに計118基の街灯を設置したものです。ポール灯、足元を照らすフットライト、背景を照らすビームフットライトの3種類を、いずれも街並みと調和を図るため独自にデザインしたもので、夜の尾道散策に好評です。また、平成4年度から尾道商工会議所100周年事業として行なわれている街灯の設置とあいまって、夜景都市尾道の魅力づくりにも効果を発揮しています。
 彫刻のまちづくり事業は、街路や公共施設などに彫刻やモニュメントを設置し、芸術作品と直接触れ合える環境づくりを目指しています。作品は全て日展入賞作家など著名な作家のもので、尾道の文化の薫りを高め、市民や観光客に感銘を与えるとともに、憩いの場を提供しています。


絵のまち尾道

 尾道は、古くから「絵になるまち」として多くの画家が訪れ、尾道を描いてきました。また、市内には画廊や画材店も他のまちと比較して多く、自然景観ともあいまって絵画を愛する土壌が育まれてきました。そうした尾道の特性を活かして、個性豊かなまちづくりを推進し、地域の活性化も目指すソフト事業として、昭和58年度からビエンナーレ展(隔年開催展)として「絵のまち尾道四季展」を開催しています。
 出品作品は、15号から20号までの油彩またはこれに準ずる絵画で、尾道周辺の風景および風俗、祭り、行事などで尾道周辺の特徴を取り入れたものとしています。グランプリ(大賞)300万円、金賞100万円、銀賞80万円、銅賞および特別奨励賞50万円(買上げ賞で版権を含む)という高額な賞金もさることながら、「1度は尾道を描いてみたい」ということが出品の最大の理由となっているようです。1992年の第5回展には、北は北海道から南は沖縄まで42都道府県から786点の応募があり、第1回展から第5回展までで、延3、082人、4、339点の作品応募となり、全国に定着した公募展となっています。
 この四季展の特徴の一つは、他の美術展の多くが上位入賞作品のみを展示するのに対し、応募のあった全作品を展示することです。地元商店街の協力により、各店のショーウインドーに絵が展示され、街がまるごと画廊か美術館になった趣があります。出品作品が売却可能であれば出品者に値段をつけていただき、購入希望者への斡旋も行なっています。また、期間終了後買上げ賞以外の作品は、作者にお返ししていますので、またその絵が全国各地へ帰り、お店やオフィスを飾り、全国の人々に尾道の良さを絵を通じて知っていただき、絵のまち尾道のイメージを広めることになります。
 さらに、絵のまち尾道四季展の開催は、市民の芸術文化意識を高めるとともに、市民の間にも「絵のまち尾道」という認識が強まり、市民の誇りにもなっています。また、キャンパスを持った人の道案内をしたり、画材道具を一時預かるなど、尾道を描きに訪れた人々と市民との交流も生まれています。


最後に

 尾道、坂道、路地の町。ふりむけば、いつも海がきらめき、穏やかな世界がそこにある。誰もがいつか逢ったひとのように想える町。初めて来たのに懐かしい町。心の中の町。ふるさとの町。懐かしい人に出会う町。自分自身に出会う町。
 訪れたことのない人に「いつか訪ねてみたいまち」、訪れた人には「一度住んでみたいまち」、そして住んでいる人にとって「ずっと住み続けたいまち」。そう思える町がきっとふるさとだと思います。
 訪れた人を暖かく迎えることの出来る町は、そこを訪れた人はもとよりそこに暮らす人々にとっても、潤いや安らぎといった心の豊かさを実感できる町と考え、安全で快適な生活環境づくりの推進を図っています。