「ふるさとづくり'94」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり振興奨励賞

蝶の舞うふるさと嵐山
埼玉県 嵐山町
自然環境を生かした森づくり

 嵐山町は、埼玉県の西部、秩父連山を背にした比企丘陵のほぼ中央に位置する人口約19,000人の小さな町です。東京の通勤圈にあり、近くには、都幾川(ときかわ)が流れ、台地に広がる森や林、渓谷、田園の豊かな自然に恵まれたところです。鎌倉時代の武将として名高い、木曽義仲公生誕の地(幼名駒王丸が使った鎌形八幡神社産湯の清水)であり、畠山重忠公の菅谷館跡など歴史のふるさととしても知られています。
 このような自然環境を生かして、『蝶の里公園』と『オオムラサキの森』のきっかけとなったのは、昭和55年埼玉県の県民休養地事業として計画されたことからです。


森づくり協議会とは

 協議会は、昆虫の愛好家が中心になって組織され、祖父母、父母、子の三世代の家庭を雑木林の営みに置き換えて考えています。サイクル(15年位たった木を伐採しその木を利用する。切った根から新芽が出る)によって森を守り、子供たちを育て、森づくり活動を通して自然のしくみを知ることを目的としています。
 協議会の構成員は、森づくりの趣旨に賛同する個人、育てる会(昆虫愛好家)、各小学校PTAの役員、各小学校、町教育委員会、町商工観光課職員です。また、町外の方で趣旨に賛同した方には、協力員制度があります。これは、森に遊びにきて何もない雑木の公園を見て「ワッー懐かしい」といって会員となった人がいるような160人余りの集まりです。協力員は、年会費1,500円でワッペン、会員証、自然観察会通知などを送付いたしております。
 オオムラサキを育てるための運営費は、少ないながらも町の教育費の中にあります。また、活動の1つとして、各小学校に観察者を造り、オオムラサキの生態を観察しています。子供たちも初めは、さなぎを「毛のない毛虫?…気持悪い」と、はしやいでいるばかりでしたが最近では「かわいー」というまでになりました。このオオムラサキの幼虫越冬調査を小学校のPTA、協議会、育てる会の協力により実施した時に、自然淘汰される幼虫を持ってきて育てます。
 蝶の里公園の基本計画は、活発な住民の意見を「オオムラサキの森づくり協議会」を通して積極的に取り入れました。
 森の工事についても「現状の地形で木や草花を残す」植栽、抜根などの調査についても、専門的な声として夜勤明けの会員に現場において教えて頂きました。さらに森を自然のサイクルに戻すために「育てる会」の代表から「会で草を刈る」といって行動しております。


蝶は町のシンボルだ

 昭和63年に、ふるさと創生資金1億円の使いみちについて、住民回覧アンケートを実施しましたところ、駒王太鼓、大平山頂整備、蝶の里公園の3案が主なものでした。
 これにより、町では平成元年度に住民の中から委員23人を選び、ふるさと事業選考委員会を発足し正式に町民のアイデア事業として決まりました。
 都幾川を中心とした森づくりは、自然保護のシンボルである蝶の里公園づくりの構想として、さらに広がりを見せています。これは、オオムラサキの森(埼玉県によって買収済の1.8ha)の南側をふるさと創生資金をはるかに上回る金額で、平成3年度、4年度にわたり町が3.5haを買収し自然の理にかなった森づくりとしました。
 自然環境の持つ様々な効用を図るため、すでにある「オオムラサキの森」を核とした蝶の里公園(林の自然)と県で計画中のホタルの里(水辺の自然)、ふれあいの原っぱ(草地の自然)などを結び1つとして活用を考えました。
 このように、環境を考慮し協議会及び住民の代表の意見(森の基本設計、実施計画に対しての協議)を受け蝶の生息として大切な雑木林の仕組みを作りました。


雑木林でシンポジウム

 地域住民による自然と調和する豊かな環境の創出に向けて、平成3年度に「ふるさとを考える〜いま雑木林は…」をテーマに、森づくり協議会の主催でシンポジウムが開催されました。
 後援機関としては、環境庁、埼玉県、埼玉県教育委員会、嵐山町、嵐山町教育委員会等多数支援していただきました。
 このような後援を頂く過程の中で、協議会員や育てる会の人が仕事の合間に県に寄った際に、「県の縁の推進委員、県の自然史博物館の会員として頼んで来たょ!」と私の職場に寄って話してくれました。また講演会の講師は、ある会合で知っているからと連絡をし、この人のつながりを通じてオオムラサキシンポジウムの後援依頼も、スムーズに頂けましたことは誠に心強いことでありました。
 シンポジウムの実行委員29人中5人が町の職員で、あとはすべて一般住民です。講演会の参加者(385人)の人集めにつきましては、各自「人と地域」のつながりを生かして駆け回っていただいたことが、成功した大きな要因ではないでしょうか。また、受付、会場準備による交渉など、こちらが困ると会員の方がすぐ会場側に交渉し処理して下さいました。このような活動で地域の人との親しみ、つながりを得たことが何よりの収穫であります。


パンフレットの中ではあなたもモデル

 パンフレットのモデルは、知り合いの近所の子供、町職員です。
「モデルのチャンスだょ」と頼むと、「記念になるから良いわ…」と、快く引き受けてくれた人たちが影で広報活動を支えてくれました。また、シンポジウム報告書の協賛金の依頼につきましても、会員が直接協賛者に交渉され、その結果すぐに色良い返事をいただけました。
「蝶の舞うふるさと…らんざん」の写真集、パンフレット等の作製では、協議会員、育てる会員、町職員が地元の蝶を長い間追い続けて、苦労して撮った写真です。
「自分たちが作る写真集だから、大事に保管してあったフィルムを無償で提供します」と申し出もありました。また、文章づくりは夜の7時頃から集まって、一つ一つの文章を分担し、自ら書きみんなでワィワィガヤガヤいいながら夜中の2時頃まで編集作業に参加して頂きました。この充実した気分と寝不足の時を一緒に過ごしたことが、今になりますと新たな付合いの始まりとなっています。


蝶の里公園は

 蝶の里公園は、約3.5haに樹木5,536本、樹種48種、園路は微生物の発生を促すように約3,300uに木チップを敷きつめてあります。また枯木や草を積みカブト虫等の発生がしやすいようにしたり、湧水(県自然保護課によるふれあいサンクチュアリ事業認定)は、木の堰をつくりトンボの水辺としました。雑木林、水辺、草地を配したこのような環境づくりは、ビオトープ(生物生息空間)の考えを取り入れたものであり、昔は、どこにもあった自然空間を創造することにより、小さな生き物を確保し、自然を学びあえる公園としました。さらに蝶の里公園の隣地に県によるホタルの里、ふれあいの原っぱ、ふるさとの川事業が動き始めています。
 この公園の開園式典イベントの4月30日は、町主催で式典、開園記念講演会(雑木林について)を行い、5月1日は、共催オオムラサキの森づくり協議会、協賛育てる会、後援(財)地域活性化センターにより、熱気球からの観察会、蝶の里自然観察会、キャンプを実施しました。この夜のキャンプは、シンポジウム参加者の北海道栗山町のオオムラサキを守る会の方も、嵐山町(2回目の訪問)に遊びに来ていましたので、会員の皆さんと一緒に語らい楽しい懇親会となり、プライベートとしての広いつながりができました。
 このようなイベントも自ら参加することにより、多数の人々が蝶の里公園の必要性を認識し、人と人のかかわりを考えるよい機会となったと思います。
 この公園を訪れた、お年寄りを始めとして「園路は足にショックがなくて歩きやすいネ」と話されたり、また「いつでも自由に入れる公園でゆっくり過ごせる」など直接耳にすることができました。
 去年、町によるシリーズ5回の自然観察会を実施しましたが、公園の利用をさらに進めるには、県内外の方々に自然のすばらしさを知ってもらい、この公園の趣旨に理解、協力頂ける人たちを一人でも多く増やすように、地道に住民の皆さんと『蝶の舞うふるさと嵐山』を目指して、自然観察会を実施することにしています。