「ふるさとづくり'94」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

筑後吉井の小さな美術館めぐり
福岡県・吉井町 筑後吉井の小さな美術館めぐり実行委員会
はじめに

 福岡県吉井町は、筑後平野の東部で浮羽郡の中央に位置しており、北は筑後川に接し、南は耳納連山を望む山紫水明を誇る田園小都市です。1955年に旧吉井町、千年村、福富村、江南村及び船越村の一部を合併、面積29.29ku、人口約18,000人の町です。
 縄文、弥生の古代から開けた土地で装飾古墳や出土品は、国の重要文化財の指定を受け、耳納山麓から巨瀬川にかけて条理制の遺構も広く見られます。
 また、中世から近世にかけ、豊後街道の宿場町としての交通の拠点ともなり、明治以降は、北筑後の政治経済の中心として栄えました。
 しかし、時代の変化とともに、経済は停滞し今日の農業不安定の中、後継者や若者の減少が見られるようになり、それを克服すべく現在、白壁土蔵町並み保存と活性化を中心としたまちづくりをすすめています。


素通りの町

 町内には、東西に豊後街道(国道210号)がはしっていますが、ゴールデンウイークにはかなりの車が流れますが交差点では信号待ち以外でブレーキを踏む車は、ほとんど見かけませんでした。
 この車のながれの中から1台でもいいから、目的地に筑後吉井を選んでいただけないだろうか、意識的にブレーキを踏んでもらうためにはどんなことをしたらいいのだろうかと思い吉井町を見直して見ると次のような「宝」がありました。
1 屏峰と呼ばれる耳納連山と、美しい農村風景。
2 九州一の大河筑後川と五庄屋川、それに温泉。
3 岡本太郎画伯を原始絵画の真髄、古代人の美意識の爆発だと感嘆させた日岡(ひのおか)、珍敷塚(めずらしづか)などの装飾古墳。
4 白壁土蔵造りの町並みと、心温かい住民。
5 絵画を楽しんでいる作家や陶芸家が多い。
 このすばらしい「宝」を活かす方法ないだろうかと思案してみました。


ゴールデンウィークに近隣市町村の催しものは

1 大分県玖珠町の童話祭
2 筑前小石原の民陶祭
3 久留米の水天宮春祭り
4 博多どんたく、港まつり
5 肥前有田の陶器市
 このように近隣市町村では、すばらしい催しものが行われていますが、わが町ではどのようなことを催したらいいいのだろうか。


基本構想

1 メンバーが、なるべく少なくてすむこと。
2 費用が、なるべく少なくてすむこと。
3 準備をしてきて雨で、中止にならないこと。
4 次回へ、つなぐことができること。
 この基本構想で、筑後吉井の「すばらしい宝」を町内外に紹介できないだろうかと考え、昨今の絵画ブームにあやかりたいと思い「美と心のふれあい」をテーマに、清流と白璧の町並みを散歩しながら郷土の画家や陶芸家の皆さんの個展を町内各所で同時に開催してもらってはどうだろうかと思ったのが始まりでした。


いろいろな方に

 この企画を地元の画家や陶芸家・郷土史家・美術館になりそうな会場のオーナーの方あるいは、各団体の世話人さんに聞いていただきご指導とご支援をお願いしました。
 この美術館めぐりでは、会場が小さいので都市型の美術館では味わえない、見学者と地元の作家また会場のオーナーなどと「言葉のキャッチボールができる」という「心のふれあい」を大事にしたいと思い作家の方に3日間は常時いていただくような方向で相談いたしました。


資金づくり

 この小さな美術館めぐりを、町主催で出来ないでしょうかと斎田和弘町長に相談しましたが、町主催では新しい風が吹かないので実行委員会を組織し、「吉井町ふるさと創生基金(2億円)」の利子で支援する「1991年度の自ら考え自ら行う地域づくり事業」に応募してみてはとアドバイスを受けました。
 そこで吉井町美術愛好者倶楽部(25人)をとりあえず組織して、白璧町並み通りを中心に、有名な画家の絵画を借用して展示する美術館や、地元の画家や陶芸家の皆さんの個展を数ヶ所で同時に開催する「清流と白壁の町、筑後吉井の小さな美術館めぐり」の実施計画書を、1990年8月31日に町役場へ提出いたしました。
 しかし、地域の活性化を目指した事業(22事業)の応募が多く審査の結果(1990年12月末)次点に泣きました。
 そこで資金づくりの目処が途絶え、メンバーに相談したところ、「思い立ったときが吉日ばい、お金は何とかなるが」と励まされました。
 実施方法を変えて、地元の画家や陶芸家の皆さんの個展及び美術愛好家のコレクションを展示していただく方向に、変更して行うことにしました。
 会費制でお願いできないでしょうかと、メンバーに打診して廻り、そして、1991年4月4日ギャラリー溜(たまり)にて「小さな美術館めぐり実行委員会」(31人・会費1万円)の発足を見ることができ、1991年5月3日から5日までの3日間、小さな美術館を20ヶ所設定することを確認し喜び合いました。


開催日まで、あと30日

 やっと実行委員会が発足を見ましたが、開催日まで30日です。今日はPRの時代と思い斎田町長の名刺を胸に福岡県庁の広報課や、NHK福岡放送局をはじめ市内のテレビ、ラジオ放送局の放送部をおそるおそる尋ね、田舎の小さな催しを取り上げていただくようにお願いして廻ると共に、久留米市内の各新聞社にも掲載をお願いし、ご支援いただきました。
 この小さな催しを成功させるため準備に駆け廻る中で、ある関係者の方から、「山崎さんのいう成功とは何んね」と問われたことがありました。私にとって鋭い質問でした。私は「1千人、2千人の方に来町していただくことも大事ですが、昇ちゃん来年もやろうねと言うことばを聴きたい、これが私の成功です」と答えました。
 この「来年もやろうね」を聴きたいために多くの方にお会いし、ご協力ご支援をお願いしました。


皆様のお陰

 お陰様で筑後吉井らしい20ヶ所の美術館ができ、当日は天候にも恵まれ3日間で北は東京、南は鹿児島から約1万人の皆様に鑑賞していただきました。フィナーレの折には実行委員の方から「来年もやろうね」と言う言葉を聞くことができ嬉しく思いました。
 多くの方に、ご支援をいただき「地域に感動のモトづくり」のひとつになったのではないでしょうか。


芽生える地域のメセナ活動

 この小さな催しに、福岡銀行吉井支店(当時、中島正治支店長)では、豊後街道に面したウインドー(8メートル)を心よく貸していただき油絵や陶器を合同展示し、行き交う車へ昼夜を問わずアピールするため(夜はライトアップ)ご支援いただきました。
 また、6月1日から一ヵ月間同銀行吉井支店のロビーでは、「写真で見る小さな美術館めぐり」(4ッ切りサイズのカラー)を間催していただきました。
 このように企業のメセナ活動として資金面の援助だけでなく、地域の文化活動等に積極的に参加し、支援していただくこのような企業がわずかですが芽生えていることは、ありがたいことです。


文化の薫る町づくりを目指して

 夢は、「文化はゆとり、心の豊かさづくり」です。町内の各家庭に「一枚の絵」を応接間でなく茶の間に掲げる「我が家の美術館」づくりや、街角で「一枚の絵」に出会う「ストリート美術館」づくりです。そして白壁町並みを活かしたテーマごとの常設美術館です。
 今後とも、清流と白壁町並みを活かして、メンバーが楽しんでできる「筑後吉井の小さな美術館めぐり」を開催し、「文化の薫る心豊かな町づくり」を目指して筑後吉井らしい文化をつくっていきたいと思っています。


第4回筑後吉井の小さな美術館めぐり

*と き  1994年5月3日(火)〜5日(木)まで 3日間
*ところ  清流と白壁町並み通りを中心に約25ヵ所の美術館を設置