「ふるさとづくり'94」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

外国人の生活援助とOLEC(小山レディース・イングリッシュ・クラブ)の英訳奉仕活動
栃木県・小山市 小山レディース・イングリッシュ・クラブ
進む地域の国際化

(1)増える外国人の居住
 昨今では多くの外国人が街中のあちこちに見受けられるようになり、基本的には日本人だけで暮らすことが当たり前とされてきた私たちの日常の生活態度にも、一人ひとりが対応を迫られるまでになってきています。
 街で道を尋ねられても逃げてしまったり、照れ笑いをしたり、公衆電話で話し中の外国人をみて「毛色の違った変なヤツが……」と言ってみたり、デマを飛ばすというような出来事は、情報が切れているところからくる偏った思い込みや無用な摩擦であって、困ったことです。
 同一民族国家の日本では優良銘柄の単一民族の同質同コミュニティを旨としている(奥田道大『都市型社会のコミュニティ』)ようですが、この同質型コミュニティも1980年代中ごろからアジア系外国人を大量に迎え入れる中で急速に崩れてきているようです。
 その動向は小山市在住外国人の年次別推移を追うことでも確かめられます。
 それによると、1985年(昭60)には小山市には11カ国、561人の外国人が在住していたものが、以降年を追うにつれて国・人数とも増加の一途をたどり、1989年(平成元)には21力国、931人。92年(平4)には31力国、2,338人となっています。
 31にものぼる国々をみると、韓国、中国、朝鮮の3国を除くと、ブラジルやペルーを中心とした南アメリカと東南アジアに中近東諸国が中心で、多様化を深めていることがわかります。
(2)問題の発生とコミュニティの危機
 多くの外国人が当地で生活するようになりますと、当然のように様々な問題が発生します。労働賃金の未払いは後を絶たないようですし、健康を害した際の医療や健康保険の問題、子どもの教育、コトバの障壁、生活習慣の違いからくる無用の摩擦や争い等々枚挙に暇がない程認められるようです。コミュニティは一つの危機を迎えているとみてよいでしょう。

 こうした事態への対応、それは私たち一人ひとりが考える必要があります。外国人がこの地に住む。住み続ける中で生起する問題を解消し、発生を未然に防ぐことで住みよい地域社会を作っていく上で、私だちと外国人との間にコミュニケーションを深める必要性が今後一層高まることでしょう。
 OLEC(小山レディース・イングリッシュ・クラブ)の地道な活動は、地域が国際化の傾向を強め、外国人の存在が日常化するという地域変動の渦中での地域づくりに一石を投ずるものということができます。


OLECの英訳奉仕活動

(1)クラブの結成と学習活動
 OLECは1983年(昭58)2月、3人の主婦が集まって結成されています。この3人は小山で初めて開設された外国人による英会話教室の当初からの受講生で、始めのころは「初級B」、簡単な日常会話ができる程度でした。そこで、@語彙を増やすため、A文章に慣れるため、に英会話教室とは別にメンバー宅で簡単な本を読むことにしたのがクラブの始まりです。
 会員のモットーは「努力はするが無理はしない」というもので、家事や育児に支障のない範囲で学習を続けています。当初の集まりは、、毎回各自1ページずつ訳してきて英文を音読した後、和文を読み上げ、互いに教えたり考えたり、難しい箇所は持ち帰って研究するというパターンを繰り返していました。
 やがて会員が増えてきますが、それに伴い現在は次の方法で学習しています。
@週1回、外国人講師による英会話の学習
 折にふれ、コンサートを開いたり市議会を傍聴したり施設見学などの課外活動も楽しんでいます。
A学集会の話題は新聞記事の(英文)を中心とした時事問題で、当日配られた記事を順番に音読した後にディスカッションを行っています。
B毎月1回、NHKの『ビジネス英会話』の「和文英訳」に全員が応募しています。これまでに最優秀賞をとった会員(全員佳作賞をとっている)も出て、実力も相当のようです。
(2)ボランティア活動
 クラブの会合の席で、「外国人が情報不足で困っている――例えば、災害時の避難方法や予防接種の日程――ので何とかできないものか」という全員からの提案があり、それをキッカケとして、自分たちの英語力が役立つならばということで会の活動を外に拡げることになります。それを3点について述べます。
@小山市広報紙の記事の英訳
 小山市で毎月2回発行する広報紙「広報おやま」の英訳を手がけていますが、活動の経過は次のようなものです。
 先ず、外国人が必要としている情報の聞き取り調査を行いました。その結果、外国人にとっては、予防接種の場所と日時、救急医療と休日医療の受け入れ先、ゴミ収集情報、文化センターや公民館の催し、市のイベントや祭などの情報がほしいとの希望を把握しました。その結果を基にして市の広報担当者に広報紙の英訳ボランティアを中し出、快諾を得て、1991年2月1日号の記事から英訳活動が始まります。
 この英訳版は広報紙の発行と同時に市役所や小山駅構内の掲示板、小山郵便局など外国人にとって目につきやすい場所に置かれます(そうした場の確保についても、全員が足を運んで理解を得るわけですが、積極的なところと必ずしもそうでないところとがあって、なかなか簡単にはいかないのが実情で、この種の試みの難しさを示しています)。この情報を心待ちにする外国人は大勢いて、用意したペーパーはすぐになくなってしまう程活用されています。
 この活動を通してOLECは大きな成長を遂げます。「努力をするが無理はしない」のモットーは「継続は力なり」に代わり、多少の無理はしても月2回のローテーションを維持する責任を各会員が自覚するようになります。翻訳にあたっては英文の自然さを心掛けているため必ず外国人のチェックを受けることにする(趣旨に賛同して、チェック役もボランティア)、情報の共有は外国人と日本人との信頼感のある「共生」関係の基礎となるとの基本認識から、より公平であることの一つの目標として“日本語版との同時発行”を守り続ける、など真剣で真摯な取り組みが黙々と続けられるのです。
A健康カレンダーの英訳
 2つ目の英訳奉仕活動は、小山市が毎年発行している「健康カレンダー」の英訳リーフレットを出していることです。このカレンダーは乳幼児から高齢者まで全市民を対象とした健康診断などの日程を示して全戸配布しているもので、健康情報として価値のあるものです。この情報を外国入用に英語版を出して情報サービスを行っているものです。特に幼い子供たちをもつ親たちにとっては、病気、健康(疾病予防)の問題が重要な関心事であることは万国共通で、このカレンダーは親たちの不安に応える大切な情報源情報となっています。
B小山紹介ビデオ作品の英語版の発巻
 以上2つの恒常的な活動に加えて、平成3年7月には、小山市教育委員会が制作したVTR映画『小山の祭と芸能』の音声を英語に吹き替えて、外国人向けに作品を制作しています(ナレーターは外国人)。翻訳にあたっては、何より日本の文化そのもの(しかも小山というローカルな)を、いかにして外国人に理解願うかということに腐心しましたが、このVTR作品は、制作以来今日まで、商用を中心に外国(英語圏)にでかける市民が利用したり市内の国際交流団体が利用するなど、大いに生かされています。小山という自分たちが住むまちの伝統や伝承芸能が外国人に理解されることは意義深いものがあります。


まとめにかえて

 こうしたOLECの活動に対して、一部の人たちから、「日本にいる限りは、たとえ外国人であっても日本語を理解するべきで、そういう努力をさせるように援助する方が彼らの言語に迎合するより大切ではないか」という指摘がなされています。そうした意見も傾聴に値しようが、外国人にとっては日本語は予想以上に難しい言語のようでもあり、何より生活情報が届かないという現状を直視した中での具体的な行動がOLECによって成されているということに意義を認めたいと思います。
 OLECの全員は英訳奉仕活動を続ける中で、その活動は人のため、地域のためというばかりでなく、実はそれが自己開発や自己実現につながる、活動自体が自らを高めるということを自ら示しているかのようです。明日の地域づくりは、楽しく、自らすすんでというところでしょうか。