「ふるさとづくり'93」掲載
<自治体の部>

人間健康宣言の町「森と化石とロマンの里づくり」
北海道 穂別町
 穂別町は北海道の南西部、胆振支庁の最東部に位置し、道部札幌まで約90キロメートル、新千歳空港まで約60キロメートル、苫小牧東部工業団地まで約45キロメートルのところにあり、面積は546.8平方キロメートルで、同じ支庁管内の苫小牧市とほぼ同じ、札幌の約半分の広さです。
 北東から南西にやや縦長の形状で面積の87.4%が山林となっています。気候は内陸性で、昨年の最高気温は32.5度、最低気温はマイナス23.1度と寒暖の差が大きいが、積雪、降水量も少なく、年間を通して北海道の中では比較的温暖で過ごしやすく、新千歳空港から一番近い山間の町です。
 戦前は林業、戦後は炭鉱で栄え、人口も10,000人を越えた時期もありましたが、昭和40年から炭鉱の閉山に伴い、人口の減少が続き現在は4、600人と今もなお徐々に減少の傾向にあります。
 過疎化が進む町の生残り策ほど模索していましたが、昭和50年当時流行たった工場誘致をコンサルタントに調べてもらったところ、穂別町のような立地条件では、工場誘致によりそれはと波及効果が得られないとの報告を得ました。


人間健康宣言の町

 それならば、穂別町の立地条件を生かす道と考えたのが、人類永遠のテーマである「健康」を主体としたまちづくりでした。
 都市や工場で働く人たち、公害で苦しむ人達が、縁豊かな自然の中で健康回復を求める場として、穂別町を役立てようとする発想転換をしてできたのが「人間健康宣言の町」というコンセプトだったのです。
 こうして、昭和53年「人間健康宣言の町づくり計画書」を策定し、過疎地穂別が「すべての人に、心と健やかなからだを」をテーマとして健康づくりを宣言しました。
 基本理念として「わたくしたち町民は、美しい山河と太陽の恵みのなかで、いたわりとはげましの心が行きかい、すべてのひとびとが、よろこびと希望にあふれ躍動する生きがいに満ちた、故郷の創造をここに決意します」と唱われています。
 具体的には、「健康の源は食べ物てあり、その食べ物は自然の中から作られることが一番であり、そのためには土づくりが大きな要素である。健康な土を作ることにより、低農薬・無農薬の食べ物が作りだされる」と、土づくりに力点をおいているのです。
 昭和63年には「ヘルシーフードタウン穂別」を新たなキャッチフレーズに加え、健康まつり、健康講座を開催し、住民すべてが健康に感心をもち、健康で暮らせるそんな町をめざしています。
健康まつりでは「ミセス太陽」をコンテストし、町内の家庭婦人で健康、健康的な人を選出し、住民の意識増にとPRに一役買っています。
 平成3年には「ふれあい健康センター」を新設し、保健所の歯科医師を迎え、予防医療の充実に一層の推進をめざしています。
 この健康センターを拠点とし、町立病院や一般病院からのデータと、保健婦が住民から直接聞きとった情報をコンピューターで処理し、健康管理台帳を作成しました。予防・治療にと広範囲に活用しています。


宮沢賢治のまちづくり

 戦後まもなく、この山間の地において、農業詩人・宮沢賢治の思想に共鳴し、宮沢賢治の理想的な村づくりを進めるために挺身した故横山正明村長をはじめとする先人達の意志と魂を伝え、それを継ぐ心を育む活動があります。
 村民の発展と健康、そして心のよりどころとして創作させた「賢治観音像」と旧国鉄駅舎を利用して「銀河鉄道の里づくり」を進めています。
 銀河鉄道の里づくりとして、宮沢賢治が農業実践のかたわら園芸にもユニークな創作活動を行っていました。その活動期の昭和12年頃の手帳に記されていた「涙ぐむ目」の花壇をつくり、また同じ頃書いた未発表の童話「極東ビヂテリアン大会見聞録」の作品にちなんで「世界ビヂテリアン大会」を実施しています。
 作品の内容は、世界から集まった菜食主義者たちが、その定義をめぐって演説し、生物が他の生命を食べて生きるという原罪意識をテーマに、ユーモアあふれる描写で書かれています。
 世界ビヂテリアン大会は、野菜だけのカレーライスや駅弁、列車を利用したサラダバーなど、野菜料理をメインに「食と健康」について、いかに実践し、行動するかを主点にした企画イベントであり、町内外から多くの方が参加し注目を集めています。


恐竜のまちづくり

 穂別町はその昔(1億年前)海であったことから、海の生物の化石が多く発見方れています。
 昭和50年に発見されたクビナガリュウ(エラスモサウルス)の全身骨格を展示した博物館は学術上も貴重であり高い評価を受けています。
 このクビナガリュウをシンボルに化石を基にしたまちづくりもすすめています。
 町のメインストリートは「進化の道」と名づけ、街路灯にはクビナガリュウやモササウルス、アンモナイトの化石を乗せ、街路樹には化石の木と言われるメタセコイヤを植え、ポット花壇には地球の歴史が学べる恐竜や古代の生物をレリーフをはめ込んでいます。
 特に、クビナガリュウは『ホッピー』(穂別町の穂の字を捩る)という愛称を付けて色々な物にキャラクターとして使用しています。
 古代と現代を同時に観察できる町「穂別町」。そんなまちづくりにもう一役を買っているのが「穂別地球体験館」です。
 いま、地球は急速に破壊が進んでいます。森林伐採、オゾン層破壊、海洋汚染、乱開発などと合わせて地球の温暖化が進んでいます。
 こうした地球を見つめ直そうと、平成元年の横浜博覧会で人気のあった「地球体験館」を本町に移転新築したものであり、大人も子供も学びながら体験できる施設です。
 館内を8つのゾーンに分け、熱帯雨林、太古の海、砂漠、マグマの海、氷河など臨場感あふれる音や光、温度で実感でき、地球の大切さ、素晴らしさを思い直し、守ることを考えさせる施設として、平成3年10月にオープンしました。
 こうした施設を通し、町民すべてが地球に、自然に、環境に、人間に、食べ物にと色々なものに関心をもち行動する。それを発展させるために、博物館、地球体験館があるのです。
 そして、最後に「つつじ山体験の森」です。
 この事業は今年から始まったばかりの事業ですが、昭和52年に制定した本町の花木である「ヤマツツジ」と「アカエゾマツ」をメインに町民参加による植栽、植樹を行い、木町市街の裏山一体をつつじや花木で埋めつくそうという壮大な計画です。穂別町は、地球や自然を学び、生物を学び、食を学び、健康を学ぶ、そんな町をめざしています。
「ヘルシーフードタウン穂別」「森と化石とロマンの里づくり」「銀河鉄道の里づくり」など「からだと土は一体。健康づくりは人づくり」とあくまでも健康を追求し、そのためには何をしなければならないか。自分達だけでなく、子供、孫へと引き継ぐため、健康という永遠のテーマに向かって町づくりを進める「人間健康宣言の町」それが穂別です。