「ふるさとづくり'93」掲載
<集団の部>

カタクリとオオムラサキの林づくり
埼玉県・下小川三区コミュニティ倶楽部
地域と倶楽部の概要

 埼玉県小川町は、県の中央部を占める比企郡の西部に位置し、東京都心から60キロメートル圈で、人口約36,000人の町である。
 町の面積は約60平方キロメートルで、四方を山に囲まれた盆地で、町土全体の約60%が山林である。
 町は古くから、和紙、絹、建具などの産業で発展し、特に手すき和紙は1,300年の歴史をもち、和紙のふるさととして知られている。
 下小川三区(行政区名)は、世帯数150戸、人口520名の地区である。
 町の南東部に位置し、町が、ふるさと創生事業で自然公園として整備を進めている仙元山の北斜面と町の中心部を流れてくる槻川沿いに民家が点在している。
 コミュニティ倶楽部は、昭和55年に区内のソフトボールクラブとして結成され、ソフトボールの他、区の行事、体育祭、納涼大会、清掃活動等に協力していました。しかし、もっと積極的に地域活動に取り組もうということから、ソフトボールは出来ないが、地域活動を一緒に行いたいと言う人も一緒になって、平成元年6月に名称を下小川三区コミュニティ倶楽部に改め、精力的に地域活動に取り組んでいる。
 現在は、部員数も約倍に増え、40名となっている。


自然はぼくらの友達だ

「区民の交流などの地域活動をどう進めていくか」の検討を重ねるなかで、いま地域でいちばん話題になっていて、子どもからお年寄りまで、だれもが関心をもっている自然環境(緑)の整備を活動の中心として行うこととした。
 我々大人が子どものころ遊び回った山や川をよみがえらせ、今の子どもたちにも楽しめる自然環境を作りあげようと「自然はぼくらの友達だ」を基本テーマに掲げる。
 まず、計画の足掛かりとして、町の体育祭の中で、地元の山である仙元山の環境保護と、そこに生棲しているカタクリとオオムラサキの保護・育成を訴えるため、仮装行列を行うなどの他、カタクリとオオムラサキの林づくりを計画する。


自然は生物との共存の場

 当地域にある仙元山の樹林は、住宅地を囲む斜面緑地として、地域特有の盆地景観をつくりだしており、この林には、カタクリ(ユリ科の植物)の群生地が点在し、初春には淡紫の可憐な花を咲かせ、人々の心を和ませてくれた。
 また、クヌギ林には、カブトムシ等の昆虫も数多く生棲し、特にオオムラサキ(国蝶)の雄姿に多くの人が魅せられた。
 この山林も、近年、生活様式の変貌等で管理する人が減り、森や林はクズ、シノ等がうっそうとして、カタクリやオオムラサキなどの生物はもとより、子どもたちの遊ぶ場所までなくなってしまった。
 このため、コミュニティ倶楽部では、この地域を、貴重な生物を保護する場や、また子どもたちの遊び場、さらには、地域のいこいの場として整備を実施した。


汗まみれの和が広がる林づくり

 まず、適地の選定を行った。適地に選ばれたところは、昔からオオムラサキやカブトムシ等がもっとも生棲し、今でもカタクリが点在している北斜面の約5000平方メートルの山林で、地区内の人2人が所有している。趣旨を説明すると1ロ返事で無償で貸してくれ、作業は平成2年5月から開始された。
 初年度は40名の部員が1人1,000円の弁当代を負担し、日曜、祭日を利用して、延べ10日間作業を実施する。
 まず、うっそうと生い茂るシノやクズの下刈りと、温み合っている雑木の伐採を行い、3カ所の出入り口と林の中央部に東西約250メートルの散策道を作り、広場の伐採、伐根を行う。
 2年目の平成3年には、部員の口コミにより、区の役員、隣組長等も加わり、年間8日間、延べ360人で作業を行った。
 下草刈り、廃材を利用したベンチ、看板の設置。また、カブトムシやオオムラサキの餌となる樹液を出すクヌギの手入れ、オオムラサキやゴマグラチョウの幼虫の餌や産卵の場所となるエノキの移植を行う。
 また、訪れる人に年間を通して目を楽しませようと、整備した林の中ヘグミ、キイチゴ、ヤマユリの花木の植栽と散策道沿いにツツジ等の山にふさわしい植物の植栽を行う。
 今年度はさらに参加者も増え、下刈りや植栽をした植物のネームプレートなどの設置を行うなど、林に関しては概ねの整備も完了した。


オオムラサキの放蝶会

 整備を進めるにあたり、地域の人々から一層理解を得るため、また、数の減ってしまったオオムラサキを一定数増やし、この林に、より多く生棲させることにより、いつ訪れても樹液を吸っているオオムラサキを見ることができるようにと放蝶会を実施している。
 この放蝶会のため、永い間オオムラサキの研究を続けている会員が中心になり、越冬している幼虫を探し集め、飼育し、約350頭を準備する。
 今年の放蝶会は、地元の小学校に協力を呼び掛け、児童約150人と地域の人達約100人の250人が参加し、1頭ずつ手に持ち林の中に放す。


成果が現れ始める

 こうした努力が実り、オオムラサキが、7月初旬から8月中旬まで林を飛びまわる姿や、カブトムシなどと樹液に集まっている姿を見ることができる。
 また、カタクリは、下刈りを重ねるごとに本数が増え、今では群生地が3ヵ所に広がり、この群生も目に見えて大きくなっているのがわかる。


今後の整備計画

 この林を訪れ、樹液を吸っているオオムラサキやゴマダラチョウ、クワガタやカブトムシなど、直接見て喜んでくれる人も多く、また、子ども達や地域の人々も散歩などに訪れる人も数多いため、今後は散策道の再整備や啓発用の立看板などの設置や定期的な下刈りなどを実施する。
 また、飼育舎の建設、いこいの場の核となるような施設の建設を行い、休憩所と合わせてカタクリやオオムラサキを紹介する写真や標本などを展示し、自然の尊さ、大切な環境は地域ぐるみで守り育てることの必要性、重要性を広くアピールしていきたい。