「ふるさとづくり'93」掲載
<集団の部>

独居老人への図書配達と交流を
群馬県・高崎市中部公民館図書ボランティアグループ
はじめに

 西暦2000年に市制100周年を迎える私たちの高崎市は、面積110平方q、人口24万人の商工業を中心とした関東平野の北西の端にある地方都市です。
 昭和30年代の後半からの高度経済成長以後、高崎市の人口は郊外に分散し、いわゆる旧市街地の人口は年々減少し、ドーナツ化現象が顕著に現れています。
 私たちの活動の拠点は、このドーナツ化現象の真ん中にある高崎市中部公民館においています。
 活動拠点もこの公民館の行政区域(人口17,258人、6,785世帯)と同じくしています。
 人口の郊外への分散は、市中心部の人口構成にも変化をもたらし、私たちの活動地域の高齢者人口は住民の20%を占め、高崎市の平均11.8%を大きく上回っています。
 市中心部から郊外への人口流出は、多くは若い世代のものであり、市中心部の高齢者の割合は今後も増え続けることが予想されます。
 若い世代が減少した私たちの地域では、住民の心のふる里の象徴といえる夏祭りの御輿や山車が、町内だけでは出せなくなっています。このことが物語っているように、住民の手による住民のコミュニケーションの場の設定がたいへん困難になっています。
 社会構造の変化によって失われた住民の心の通い場を取り戻すこと、このことは、私たちの地域にとって、たいへん大きな課題となっています。
 私たちの宅配図書ボランティア活動は、以上のような観点に立ち、地域に暮らす独居老人(75歳以上)を対象に、図書の宅配を行い、それをとおして、住民どうしの心の通い場を甦らすことをねらいとしたものです。


活動の経過

 私たちのこれまでの活動経過はおよそ次のとおりです。
 1990年8月 中部公民館図書室開設に伴う図書活動について検討会議を行う。(検討会議は合計8回行う)
 1991年2月 中部公民館の図書室の開設に伴い、同公民館の図書活動全般を受託する。10名のボランティアによる独居老人宅への宅配図書活動が発足。
 1991年11月 活動を広く市民のものにするため、高崎市公民館研究集会で活動報告を行う。
 1992年3月 NHK関東イブニングネットワークで活動を放映される。
 1992年4月 学校週5日制を迎える地域の児童生徒への図書活動のあり方について検討会議を行う。


活動の概要

1 活動の動機
 住民の高齢化が地域づくりに大きな問題を及ぼしている私たちの地域で公民館が図書活動を行うとしたら、ごく一般的なものであったら、それは私たちの地域にある本格的な市立図書館に任せ、公民館図書活動は、住民がもっと地域課題に主体的に取り組めるものにしたいという私たちの日頃の要望を公民館が理解してくれたこと。ここに一番の動機があります。
 図書宅配の対象を独居老人にした動機は、これらの人たちが、住民の本来の心の通い場を1番経験しているにもかかわらず、地域に置き忘れられたかのように1人で寂しく暮らしているということに気づき(75歳以上275人)、同じ地域に住む住民として、責任を感じたからです。
2 活動内容
 活動内容は、独居老人を対象にした図書の宅配全般と中部公民館に来館する高齢者向けの図書の貸し出し全般(いずれも、購入図潜の選定から購入、貸し出しまで)が主たるものです。
3 実践記録
(1)「心の輪を広げる宅配にしたい」(Kさんの記録から)
 2月半ばの寒中の朝、指はかじかみ、鼻水は拭いても拭いても出てくる。しかし、今日から、1人暮らしの方の家を訪問するのだ。
 張り切って、冷たい風を友にして自転車をこぐ。名簿の名前と番地を頼りに、1軒1軒訪問開始。
 同じところを何回も行き来し、やっと捜し出したときの嬉しさ。しかし、その嬉しさも「ごめんください」という声を出す不安でつかの間に消えてしまう。
 自分の名を名のり、来意を説明する。心なしか声が震え声になっている。やっと言い終えると、「今は、目が不自由で本などは読めない」と、気の毒そうな顔で断られた。
 気を取り戻して次の家を捜す。また期待と不安の思いで「ごめんください」と声をかける。
 私の来意を聞くのもそこそこに「上がってお茶でも飲んでいってください」としきりにすすめる。しかしながら本には興味はないと言われる。
 また、次の家を捜す。気がついてみると、お昼はとっくに過ぎていた。いくら、捜してもわからないので、関係のない見知らぬ家の方に目的の家をお聞きした。すると、冷たい風の中、外まで出てきて案内をしてくださった。嬉しさで何度も頭がさがった。目的の家には表札がなく、しかも留守なのか宅配該当者には巡りあえなかった。
 しかし、見知らぬ人に寒い風の中を外にまで出て、案内していただいたり、言葉をかわしていただき、心はとても温かくなった。
 ちょっとした言葉のかけ合いで、心の輪を拡げることができる。宅配図書ボランティアの大事な仕事として大切にしていきたい。
(2)「もっとお茶のみ話もしたい」(Mさんの記録から)
 私の宅配先の方は、私の知り合いの方から紹介された方です。Aさんは91歳。しかし、まだ、針に糸を通せるほどしっかりしておられ、自分の食事の買い出しも自分でなさっています。
 私たちが高齢者向きにと購入した大活字本を、今、次々と読みこなしています。
 Bさんは、自分で借りに行くほど本には興味のない方で、はじめのうちは私の宅配があれば読んでみようかしらといった程度で、あまり気のりではありませんでしたが、今ではどうして、希望する本を指定し、書評もしっかりとしてくれています。
 Cさんは、娘が買ってくれる本で十分といって、はじめは遠慮していましたが、本がとても好きらしく、お持ちするとたいへん喜んでくれています。
 60歳をすぎた私が、町の中を元気に、しかも目的をもって自転車を走らせることができるということは、とても幸せです。
 図書室来館者とは、お茶を飲みながら、楽しいおしゃべりの時間を大切にしてきましたが、この時間もたいへん意義があります。もっとお茶飲み話もしたいです。
(3)「宅配のよろこび」(Fさんの記録から)
 私の宅配先の方は、心臓が悪く歩くことが困難な方で、宅配の日をとても楽しみにしています。
 私は、宅配の前にまずは自分で読んで相手の方が関心を寄せられるような内容の本をお届けしています。
 ですから、「同世代の方でなければ、このような本は持って来ていただけませんよね。よい本をいつも有り難う」といわれまます。とても嬉しくなってしまいます。
 本についての話から、健康についての話や、昔の思い出話に話がひろがるときも多くなりました。
 語り合うことで「胸がすっきりしました」とよく言われます。


評価と今後の課題

1 評価
(1)宅配による図書提供をとおして、独り暮らしのお年寄りと心の触れ合いの場をつくることができた。
(2)私たち自身に、地域の一員であるという新しい自覚が湧いてきた。
(3)10人という少人数のボランティア活動であっても、地域づくりに貢献できるということが市民にもひろまった。
2 今後の課題
(1)宅配図書活動の究極の目標は、独り暮らしのお年寄りをはじめ、社会的弱者の地域交流にあります。そのためには、これらの人ともっとたくさん話し合えるゆとりのある宅配活動が必要であり、そのためのボランティアの増員を図ることが一番の課題となっています。
(2)大活字本の購入冊数を増やし、高齢者の学習要望に広く応えていくこと。このことも大きな課題です。