「ふるさとづくり'93」掲載
<集団の部>

友愛と協調に満ちたまちづくりをめざし
岩手県・一関生活学校
激変する現代社会の中で

 一関生活学校は、昭和46年60名のメンバーで賢い消費者を目指し、食品添加物、薬、水、洗剤などの問題をテーマに、主婦たちの生活上から発生する疑問を持ち寄って、事前学習、現況の調査、対話集会等を続け、テーマの解決に努めて参りました。
 激変する現代社会の中で、地域社会も大きく変化し、生活学校の果たすべき役割も変わって来なければと考えていた時期に、高齢化社会という言葉を耳にし、自分たちの問題だと意識し、これからの生き方を真剣に、それは1人ではなく、地域の問題として考える時が今であることを実感しました。
 自分も楽しく、隣の人もその隣の人も、家で住み慣れた地域でまちで、助け合って、ずっと住んでいたい、楽しみ、受け継いできた「田植え踊り」や「神楽」も見続けたいと思っているのです。


刺激びと・マスコミ

 マスコミの高齢化社会到来に不安を与えるような報道に刺激を受けて、昭和61年に、「高齢社会に向かって」をテーマに設定し、主体メンバーが目・口・足を使って行動を開始しました。
 学習計画として
 ・高齢者の生活実態の理解―施設及び在宅での生活状況
 ・老人福祉について―制度や問題点の抽出
 ・託老所とは―市街地に設置できないか
 ・在宅介護者への支援のありかた―アンケート調査及び対話集会等です。
 老人福祉とは、地域ニーズにあった福祉とは、福祉制度の概要など学習するともに特養施設の訪問、研修などを進めて参りました。
 老人介護施設が町はずれや、人里離れた地域に設置されている現状から「町の中に託老所の設置ができないか」ということで、当初、託老所設置の方向で学習を重ねてきたのですが、託老所は“安全性に重点をおいた設備”“資格を必要とする管理者の常駐”など義務づけられており、運営上の難しさが多く、断念せざるを得ませんでした。
 メンバーの中には、高齢化問題は内容が広く、雲をつかむようなテーマに、うんざりして、いらだち、脱会した者もおります。
 しかし、この問題は「避けて通れない人権上の問題である」ことを再確認し、視点をかえた学習が始まりました。


ターゲット・支援システムづくり

 高齢化問題は、1団体で取り組める問題ではないことから、市長と婦人団体懇談の場での積極的な議題の提案、協議、相互理解や、住民の福祉ニーズアンケート調査や行政・福祉関係団体との協議、対話集会等から、高齢者や核家族のための「支援システムづくり」の必要性を痛感しました。
 支援システムづくりに向けて、農村地域・市街地での個別、あるいは市内全域対象の対話集会を開催すること、実に7回を数え、住民の多様化する福祉ニーズに応えるには、行政まかせではなく、住民主導で、住民相互が支援活動する、「菜の花ふれあいの会」を平成3年4月に発足させました。交通費実費程度をいただく有償のボランティアシステムとしています。「菜の花」は地元一関市の花です。
 この会は、急速に高齢化しつつある地域の実情に対応し、住民参加型福祉支援活動グループとして、老人とのコミュニケーションや介助、さらに核家族・託児などの支援活動をし、もって。友愛と協調に満ちたまちづくり”に役立てることを目的としました。
 (1)サービスが必要な人と、サービスを提供できる人を結ぶ支援システム。
 支援のシステムは、会員制として相互の支援が原則ですが、今日支援を受ければ明日にお返しをするという短いサイクルではなく、今世紀受けた支援は来世紀の子や孫の代でお返しをするという、大きなサイクルと考えているところがユニークです。
 (2)支援活動を受けた場合は1時間当たり300円を互助費として支払う。支援時間は原則として2時間、双方合意の上で4時間まで延長。
 町内会長、民生委員、福祉団体、婦人団体等との「有償ボランティア援助活動」についての第1回目の対話集会では、「町内でボランティアで援助活動している人々の妨げになる」「純粋なボランティアといえない」「市の福祉サービスを受けるには条件があわない」「家政婦を頼む程金銭的に余裕がない」「無償でサービスを受けるのは心苦しい」等々の意見が出されましたが、意見を十分組み入れ、その後数回の対話集会で、この会についての理解を深めていったところです。
「現代の福祉ニーズは多様化している。その人に応じたシステムをつくろう」としてスタートしました。
 スタートに当たっての研修計画として
 市内の老人ホームでのデイサービス体験学習
 支援活動での基本的心得及び老人介護実技学習
 ヘルパーと同行しての実体験学習
 先進地視察
 など出来る限りの研修を計画したつもりでも、実際に活動に入ると戸惑いも多く、試行錯誤を繰り返しての毎日です。長い取り組みから生まれた住民主体によるこの活動に、一関市では講師の派遣をはじめ、事業開始年度の平成3年度から4年度と継続して、それぞれ315,000円、540,000円の補助金の交付、また岩手県社会福祉協議会からも平成3年度から500,000円の補助金を交付されており、先駆的事業として各方面から期待を寄せられております。


支援活動のひろがり

「長時間でないことの便利さ」「ボランティア的料金」などが双方から受け、会員はジリジリと増え100名を越えており、市内はもちろん、聞き伝えで遠くの娘さんや息子さんから、両親への支援を依頼されたり、新しいコミュニケーションが生まれております。家事手伝い、病院や施設等への送迎、話し相平等が主な活動ですが、活動を開始してから、1年間で200件もの支援をしております。
 訪問記録の中から感想を拾ってみますと、
・それぞれケースが異なり、ニーズに応じた対応が必要
・老人対応の中では、相手の考えを大事に
・依頼されたことを丁寧に、それ以外ロをださない
・対応は哀れみではなく対等の接し方を
等々です。
 福祉の精神をバックボーンとして、人間同士の関係を大事にして、お年寄りの長い生活経験から生まれる生活の知恵を教えていただく、という気持ちで支援活動をしていこうと申し合わせております。
 また、自分の生活経験を社会参加活動の1つとして、生涯の学習の場として、生かせることも、うれしいことで、自分の生き方の示唆を受けたとも話しております。


友愛と協調に満ちたまちづくり

 我が国では、すでに人生80年の長寿社会が到来し、「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略」が策定され、在宅福祉、施設福祉等について具体的目標を掲げ、高齢者保健福祉サービスの大幅な拡充が進められておりますし、本県においても、全国を上回る速さで高齢化が進んでおり、平成3年秋に策定された「第3次岩手県総合発展計画」では、高齢者の健康保持増進、就労や生きがいの確保を図るとともに、多様な福祉ニーズに対応し、住みよいまちづくりを進めるとしています。
「菜の花ふれあいの会」は、「友愛と協調に満ちたまちづくり」へ自分達の手を貢献できるシステムであり、地域社会の一員として地域づくりを自分達のものにするものです。
 一関生活学校は、友愛と協調に満ちたまちが、さらに暮らしやすく、個性豊かなまちにと“私たちの財産―地球を考える”をテーマに取り組みはじめております。