「ふるさとづくり'92」掲載
<市町村の部>

個性的で魅力ある村づくり
長野県開田村
開田村の概要と特色

 開田村は長野県の南西部、木曽御岳山の麓に位置する高原の村で、中心の海抜は1,100メートルを越えています。
 総面積は149.54平方キロメートル、東西22キロメートル、南北9キロメートルにおよび、全体の21%が森林でそのうち40%が国有林で占められています。
 気候は内陸性で年間平均気温は18度前後と極めて低く、降水量は年間2,000ミリ前後と比較的多い方です。
 人口は昭和35年の国勢調査で3,713人を数えましたが、昭和38年をピークに毎年減り続け、現在2,009人にまで減ってしまいました。
 このような過疎化が進行する中で、村では今、自然を生かした個性的で魅力ある村づくりのために、地域住民と一体となって取り組んでいます。


村内全域で広告看板規制

 村の至る所から眺めることのできる霊峰御岱山は、小中学校の校歌にも歌われるほど村民の誇りであり村のシンボルにもなっています。この雄大な御岳山を中心に、開田高原の美しい自然を守り育てながら、調和のとれた開発整備を行うことが村の基本的な姿勢です。
 そこで、昭和47年には県に先がけて開田高原開発基本条例を制定し、あらゆる面で住民のコンセンサスを得ながら景観保全に努めています。
主なものは次の通りです。
・別荘分譲地は一区画1,000平方メートル以上とする。
・建築面積の敷地面積に対する割合は30%以下とする(一般住宅、工場等は除く)。
・建物の高さは13メートル以内とする。
・建物の外部色彩は、赤色、橙色等は避け、周囲の自然と調和させる。
・広告看板等を表示、設置してはならない。
・一定以上の宅地の造成、建築、土石の採取等については開発基本協定の締結を必要とする。
 これらは村内全域に適用されますが、この中でも特に建物の高さ制限や看板の規制は他に余り例がなく、各方面から大変注目されています。
 現在、村内に建設中のマンションも当初は6階建で、しかもエレベーター棟付きで申請がありました。しかし、この条例の適用を受けたため4階建で、エレベーターは油圧式に変更しています。
 看板についても、以前は民宿や旅館の看板が乱立し自己本位の様相を呈していましたが、この条例制定を契機に改善されてきています。御岳山の雄姿も白樺林やコスモス街道もハデな看板があったら、その美しさは半減してしまうということを住民一人ひとりが認識し始めたのかもしれません。
 しかし、このような看板の規制が観光客等に対するサービスの低下につながってはなりません。村や観光協会では、統一看板を整備したり、パンフレットなどで案内の充実を図るなどの取り組みも合わせて行っています。
 また、村の玄関口にあたる国道361号の新地蔵トンネルから約1キロメートルの区間については、地権者の理解のもと道路の両側それぞれ50メートルを借地し、間伐を行ったり歩道を作るなど沿道の景観整備にも努めています。


公共施設も景観に配慮

 村全体の景観の構成要素の中で、建物の持つ役割は大変に大きいものがあります。最近建物を新築する場合に、その地域の伝統性や歴史を全く無視して奇抜なものを造るケースも見受けられますが、新しいものは古いものを捨てるという意味ではないと思います。やはり、住み良さ、使い良さなどの快適性は十分に追求し、外観上の骨組みやデザインなどは地域の伝統性を生かしていくということが大切ではないでしょうか。
 そういう意味で、村では公共施設の改築や新築、補修などの際、屋根は伝統的な切妻にし、色は茶系色にするなど歴史や伝統性を重んじるとともに景観に対する配慮にも心掛けています。
 農業後継者研修センターや村営ソバ工場、バス待合所、公衆便所等すべて公共施設は村の歴史を考慮した造りになっています。
 昨年改築した中学校の建物は、すべて屋根が切妻になっているほか、内部も木をたくさん使いぬくもりを醸し出すなど「学校の建物とは思えない」と高い評価をいただいています。このほど社団法人文教施設協会が主催した平成3年度公立学校優良施設審査(多様な学習空間部門)において協会食を受賞しました。


ペンキ代や廃車処理を助成

 公共施設だけを景観に配慮した造りにしても、住民がそれぞれ自分勝手に建物を造れば全体のイメージアップにつながらず効果も半減してしまいます。やはり住民の理解と協力が不可欠です。
 観光協会や区長会などを通じ、何回か話し合いを持つ中で実施していることの1つが屋根のペンキ代助成です。景観上大きなウェイトを占める屋根の色彩については、以前から専門家の間でも「赤色や水色は開田の景観になじまない」と指摘されていました。そこで一番好ましいといわれている茶系色を使っていただくように住民の協力を求めています。民家や倉庫などを茶系色に塗り変えた場合には、坪当たり100円の助成金を出しています。この取り組みは3年ほど前から始めましたが毎年20件程の申し込みがあります。最近は住民の理解も深まり、新築家屋の屋根はすべて茶系色になりました。
 このほかに景観上大きな問題になっているのが廃車の放置です。先の調査ではオートバイも含め200台余りの廃車があることがわかりました。予想以上の数に驚いているところですが、意識を高めるために一部個人負担もいただきながら村で処理をしようと検討をしているところです。


「銘木百選」を選定

 開田高原の一番の魅力は、御岳山を中心とした豊かな自然景観と美しい農村景観にあります。地元の私たちにとっては珍しくない平凡な自然であっても、観光客などにとっては新鮮で感動的である場合がたくさんあります。豊かな自然を守り育てていくことは観光的活用にとどまらず、潤いのある生活環境づくりにとって大変重要なことで、私たちはこの素晴らしい自然を後世へ残さなければならない責務を負っていると思います。
 このような考えから昭和63年、15地区の区長さんの協力をいただきながら「銘木100選」の選定作業を行いました。紅葉が鮮やかというウルシの木や樹齢が300年以上は経っているというスギやサワラ、ヒノキなど、さらに、根元に空洞があるというトチの木や枝張りがよいというマツなどいろいろなものが選ばれました。当初56件を認定しましたが、所有者には認定証書と記念品を贈り地域ぐるみでこれらを保護していくように努力しています。


集落内景観整備事業の実施

開田村では、村全体が観光地であり観光資源であるという考えのもとに村ぐるみで景観づくりを行っています。以前から地区ごとに少しは景観整備に関する取り組みもありましたが、これらをより一層支援し発展させる目的で3年前から集落内景観整備事業を実施しています。
 これは言ってみれば、ふるさと創生1億円のミニ版のようなものです。村内の15の行政区へそれぞれ10万円ずつ助成金を出し、地区ごとに独自の発想やアイディアのもとに景観づくりを行うわけです。
 今年は、コスモスの種をまきコスモス街道を目指したり、村道にツツジを植え将来はツツジ街道にしようという地区のほか、花壇を作ったり水芭蕉の増殖を試みた地区もありました。また、村の玄関口に当たる地区では休耕地を利用し特産のスバの種をまき、観光客の目を楽しませました。
 これらの事業は、区長を中心に住民総参加で行われ、集落内が美しくなりつつあることはもちろんですが、それ以上に環境美化や景観に対して住民の意識が高まりつつあるというのが一番大きな成果のように思えます。最近では「村の助成金に頼らずもっと自分たちでやっていこう」という意欲的な意見も出るようになりました。
 村では今後も、他地域に誇れる住民主体の景観づくりを積極的に進めて行きたいと考えています。