「ふるさとづくり'92」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞

つくろう「緑のふるさと」、そして明日ヘ
埼玉県三郷市 みさと八街区町会あかねグループ
みさとハ街区町会の概要

 埼玉県三郷市は、東京都および千葉県に隣接し、中川と江戸川の間に位置している。この三郷市の最北端に「みさと団地」がある。「みさと団地」は、日本住宅公団が建設し、昭和48年より入居開始した、造底面積約83.2ヘクタール、約8,800戸の大型の団地である。八街区はその中央に位置し、約6.3ヘクタールに中層(5階建)26棟、2階建―棟(集会所)が建つ、668戸の住居区であり、昭和49年より入居が開始された。「みさとハ街区町会」は、この街に居住する住民で組織された町会であり、昭和55年に発足した。会員数は688世帯である。


区分所有法のもとでの地域社会

 この街は、区分所有法のもとで、管理・運営されている。管理組合規約は住民の権利・義務を明らかにするとともに、資産の維持管理に関して定めたものである。また、「建築協定」や「生活協定」を定め、団地生活の秩序と共同の利益の維持促進をはかっている。しかし、これらの規約一協定は集合住宅での生活の最低限のルールを定めたもので、潤いのある快適な生活環境を約束したものではない。特に、協定は禁止および遵守事項を定めたものである。例えば、緑化関係だけても、@芝生に入ってはいけない、A勝手に植樹などしてはいけない、B勝手に枝下ろしなどしてはいけない、などが規制されていた。


こどもたちの「ふるさと」はどこに

 ここに住む大人たちには、それぞれに「ふるさと」がある。その「想い出」は、「山のみどり」、「花摘み」、「紅葉」、「まつり」、「カブトとクワガタ」、「夕焼け」、「クリとカキ」などだろう。
 しかし、ここで生まれ育った子供たちは、どんな「想い出」を持って巣立ってゆくのてあろう。「コンクリート・ジャングル」、「階下を気にした静かな生活」、「木登り禁止の樹木」、「除草作業以外入ることのできない芝生」……。ここで育つ子供たちに、こんな「想い出」しか残してあげられないのか。町会役員の間では「子供たちのふるさと」について議論されるようになった。
 そこで、従来有志でおこなってきた「夏まつり」を全戸参加に拡大した。みこし、山車ややぐらを住民の手でつくり、町内に「たいこ同好会」も発足した。浴衣にまじりジーパンやショートパンツ姿の盆踊りの輪は年々広がっている。また、冬には「食べ放題餅つき大会」をおこない、これも定着しつつある。
 昭和58年1月、業者が芝生に入れた目土に、草の種(クローバー・ニワセキショウ・ネジバナなど)が混入されていた。この夏の除草作業は、住民の手に余るものがあった。今まで通りの管理された「緑の環境」を維持するには、かなりの経費が見込まれ、新たな対策を迫られた。町会役員から「管理すべき緑の環境」から「みんなで親しむ緑」への提案があり、緑化活動方針の転換をはかった。


みんなで親しむ緑

 従来の「管理された緑」から「親しむ緑」へ緑化活動方針を次のように改めた。
 @入居以来つづいた緑化活動は、均一的な緑の管理であった。26棟の周りには、平等に同じものが同じように植えられてきた。今後は、各棟平等にこだわることなくハ街区全体の調和を考えた緑化を目指す。
 A経費のかかる芝生中心の緑化を改め、子供たちを芝生から追い出すことをやめる。芝生に置いた「芝生に入ってはいけません」の立て札を、「芝生や樹木を大切にしましょう」に改める。芝生にこだわらず、自然の力を利用した「原っぱ」をつくり、子供たちが伸び伸び過ごせる緑の環境をつくる。
 B芝生維持管理の費用をさいて、入居以来の樹木(シイ、カシなど)との調和をとりながら、果樹を積極的に植える。収穫が期待でき、子供たちに夢を与える植樹をおこなう。
 C野鳥の巣箱をつくり、木登りして巣箱をかける。また、カブト虫やクワガタも住む環境をつくる。
 Dみんなで緑に親しむために、花見、菊花コンクール、小学校卒業記念植樹、果樹袋かけなどの緑化啓蒙事業をおこなう。


「親しむ緑」への泥と汗

 昭和58年、住民の手による緑化活動が開始された。しかし、樹木管理の実労働となると「きつい」、「きたない」、「危険」のいわゆる3Kに属する労働であり、当初は数名の役員が、コツコツと作業しているにすぎなかった。しかも、「日当りが悪い」と言われて、枝を下ろせば、「目隠しになってたのになぜ切った」との苦情は日常茶飯事であった。そこで、埼玉県住民共同緑化活動に積極的に参加し、各棟から数名、当番制で植樹作業に参加してもらい、緑化の方針や役員の苦労を、泥と汗をとおして理解してもらうよう努めた。その成果あってか、毎日曜日の緑化活動への参加者も増え、平成2年度は役員だけでも延べ363人/日を確認した。全戸参加の草むしり6回などを考えると、膨大な量の汗がこの街に流されるようになり、土と汗による新たなコミュニティが形成されつつある。


8年目の「みんなで親しむ緑」

(1)街の調和を考えた緑の選別管理
 26棟の周りには、それぞれ特徴をもたせて植樹しつつある。ぶどう棚のある棟、カリンの咲く棟、リンゴのなる棟、カキのなる棟、ピラカンサの垣根の棟、梅林のある棟、ウメモドキの棟……といったぐあいである。

(2)復活した「原っぱ」では
「原っぱ」と化した緑地では、四季折々の表情あふれる草花が復活した。そこでは子供達が伸び伸び遊び、クローバの花で首飾りやかんむりを作る子供や庭セキショウを摘む子供の笑顔がみうけられる。

(3)成長した果樹、その収穫
 ウメ・リンゴ・カリン・ブドウ・モモ・カギなど、実のなる木が2千本以上住民の手で植樹され、実をつけるようになった。これらの木の消毒・施肥・剪定などの手入れも、住民の手によっておこなわれている。
 巨蜂は手がかかったが、40房程付くようになった。実がマッチの順位の大きさの時、子供たちは自分の房を選び、名前を書いた袋をかけた。子供達は、自分の名前の書かれた房の成長を何度も見に来ていた。そして、完然したぶどうの房が、子供達の手に渡った時、天使の笑顔がそこにあった。
 ウメは、道路拡張工事などでやむなく掘り起こされたものをいただき、埼玉県東部環境管理事務所や三郷市公図録地脈の指導を仰いで植樹した。立派な梅林がてき、2月には梅の香を漂わせている。収穫したウメで梅酒を造り、夏祭りで振る舞われている。
 リンゴも白い花が咲き、多くの実をつけるようになった。ぶどう同様、子供の名前を書いた袋をかけている。
 カリンは春先にピンクの可憐な花をつけ、花からは想像できないごつい実をつけるようになった。5本の本になった約500個の実は、希望者に配布されている。
 モモ・スモモ・ネクタリンも数こそすくないが、それらしく実り、ザクロも赤い実をつけている。ゆずの実は少ないが、枝ぶりも良くなり楽しみだ。
 真っ赤なピラカンサの実は、まぶしいくらい太陽に映えている。入居当時植樹されたシイやカシの木は、大きく育ち、子供たちが登りドングリをおとしている。木の下で、幼児がもみじのような手でドングリを拾う光景は心なごむ。

(4)野鳥が舞い、虫の棲む環境
 毎年2月末の日曜日に「親子巣箱づくり」をおこなっている。この手造り巣箱に製作者の名前をいれ、大きく成長したケヤキなどにかけている。また、この時期に古い巣箱の補修・清掃もおこなっている。ムクドリやオナガなど野鳥も年々その数を増している。冬になると真っ赤なピラカンサの実に野鳥があつまる。春の気配を感じる頃には、この赤い実はすべてなくなっている。
 カブトとクワガタは、試験的に檻をつくり幼虫を飼育している。これらの生息する林造成計画にも着手した。どこから来たのかタマムシが、飛ぶようになり、本年は10匹程捕獲できた。タマムシの生息する環境も今後の研究課題である。また、本年は3年がかりで役員が育てたスズムシ4,000匹を、希望者に配布し、飼育講習を行なった。

(5)みんなで参加する親しむ緑
 花見は毎年計画され日取りの設定に苦労しているが、4月の日曜日におこなっている。
 土に親しんでもらうため、菊の苗を希望者に配布して、秋には菊花コンクールを開催している。毎年落葉を回収して腐葉土を作り、菊の苗とともに希望者に配布している。
 埼玉県住民共同緑化活動に参加し、年2回植樹を行なっている。小学校卒業記念植封も定着しつつある。


ふるさとの緑

「管理された緑」から「親しむ緑」への発展は、この地域社会に潤いをあたえ、ここで育つ子供たちに夢をあたえることだろう。
 私たちが、経済成長の代価として支払い、そして失ってしまったかに思われていたものを、この街で見いだす日がくることを期待したい。緑を守り育てるボランティアの輪を広げよう。地域ぐるみで自然に親しみ、子供たちに誇れる夢のある「ふるさと」を創ってゆきたい。
 将来子供たちは、この街の「みどり」を思い出すであろう。さらに、この「みどり」はその父や母と自分たちの手で育てたことを、思い出しこけしい。そして新たな地で、新たな「ふるさとづくり」の輪を広げてもらいたい。その父や母がそうであったように、明日の子供たちのために。