「ふるさとづくり'91」掲載
<自治体の部>ふるさとづくり賞

21世紀的農村をめざして
広島県 高宮町
高宮町の概況

 広島県北の中央部、中国山脈の背陵にあって、北は島根県に接していて、人口100万人の政令都市広島市から東北へ60キロメートルの距離にあります。過疎化が進む中国山地の中で、例外なく高宮町も人口減と高齢化に悩んでいます。町内には8年前開通した中国自動車道が南西に走っています。
 面積は124・4平方キロメートルうち山林は78・8%で耕地は僅に9・3%となっています。主要農業地帯に属し町の基幹産業の水稲と畜産それに蔬菜を含めて、年間総生産額は25億円です。
 数年前から土地基盤整備を進め、既に全水田の70パーセントに達していますが、近年農業をとりまく状況は極めて厳しく、高宮町においても新たな展開が求められています。これまでのように1次生産に終始する農業でなく、農村と都市が交流することによって新しい物の流れをつくる必要があり、その拠点として建設されたのが『虹の家族村』です。高齢化が進み、後継者不足のため放置されがちな農地の経営には、中核農家を育てながら地域ぐるみの集団化をめざし、生産性を高める農業経営を進めています。


地域集団の組織化とコミュニティづくり

 昭和47年、稀にみる集中豪雨に見舞われ、家屋の流失をはじめ河川・橋・道路・耕地の流失など被害が全町に及びました。(被害額5億円 *当初の予算規模10億円)
 同時にこの災害は、住民の心を深く蝕んでいました。当時、わが国では高度経済成長のひずみによって農村の過疎化が進み、情緒豊かな人間関係は破壊され、物質優先の価値観が広まっていたときです。
 その頃広島県では、コミュニティづくりによる新しい地域社会の創造をめざす運動が提唱されていました。当時、災害による余波、経済成長のひずみなどで住民自治も低調でしたので、行政としてはこの運動の趣旨を住民に啓発しました。住民もこれに応えて、連帯と協調を基本にした新しいコミュニティ集団を大字単位に組織しました。
 これが今日町内にある8つの地域振興会組織です。この組織の特徴は、住民が住民の手によって自主的につくり、地域内の住民が自主的に参加、負担金は多いところで年間4000〜4500円、少ないところで1000〜1500円(1戸当たり)、運営は部制を設けています。例えば文化・体育・福祉・厚生・開発・教育部などです。毎年1回、地域課題を持ち寄って、行政と共催で地域振興懇談会を開催、双方と協議を重ねながら課題解決に当たっています。それぞれ活動拠点をもっているので、これを中心に諸活動を行っています。懇談会は今年で10年目を数えました。
 発足当時の各組織は意志統一をはかるため、体育・文化活動が主体でありました。その後、高齢者対策として福祉活動、ボランティア活動による環境整備、青少年育成のための子どもの社会参加などへと活動が拡大し、住民意識が高揚するに従って土地整備(ほ場整備)や、農業の集団化などについても波及し、ソフト面からハード面に至るまで広い領域を担当しています。
 この様に10年間統けた懇談会の積み上げは、地域社会の自立機能として大きな役割を果し今日に至っています。勿論この間、リーダーによって活動の格差がありましたので、7年前から町おこし講座(成人大学)を開設して行政の側面からリーダーの育成に努めました。


「虹の家族村」と「全町公園化構想」について

 こうした状況のもと、4年前、農林業が停滞する中でこれからの余暇を利用し、健康づくり・スポーツ活動或いは農業体験ができるリゾート施設を作って、都市との交流を行い農村を活性化する方法はないものかと模索し始めました。
 これがいわゆる『虹の家族村』構想です。この構想は、農業と自然をテーマにしたリゾート施設で、中国自動車道高田ICの前のなだらかな丘陵の山林を開発し、都市と交流をはかりながら町内に人・物・情報を拡散して、高宮町全体を公園化しようとするものであります。今日まで地域集団はそれぞれ個性ある地域づくりを進めていましたが、行政が呼びかけた『虹の家族村』全町公園化構想に積極的に呼応しました。このため、各地域では毎年のように持ち寄っていた地域課題を整理して、全町公園化構想を柱とした地域集団ごとの課題を模索することにしました。
 折しも、平成元年度の国の施策として、全国市町村に一律1億円が助成され、使途はふるさと創生事業にむけられることになりました。高宮町では、以前から自ら考え自ら実践する地域づくりを展開していましたので、国の施策を先取りしていた形になっていました。昨年5月、坂野自治大巨が来町されたとき、高宮町の実状をみて、今まで取り組んできた高宮町の地域づくりは、まさにふるさと創生そのものであるとの評価がありました。こうしたことから、行政としても各地域集団から提案された公園化構想をヒヤリングして、ふるさと創生事業に組み入れることにしました。
 一方、リゾート構想については、地元地権者との話し合いを始めました。過疎化が進む中で、この課題実現は将来の高宮町の発展に望みをを託す大事業ですから、是非協力してほしいと要請しましたところ、地権者も全面的に協力するとの意志表示があり、その後、各地区から代表者を選出して推進会議も組織しました。住民の協力体制ができた段階で、行政と推進会議・コンサルタント・県の4者で研究会を開き、1年かけて『虹の家族村』構想ができあがり徹ました。これからの農村活性化のモデルケースとして県内でも注目を集めていました。
 民活導入を模索し、町外に情報発進していましたところ、四国西条市の西条金属がこの構想に着目し、双方で話し合いをもちました。農業と農村の自然をテーマにしたリゾートという考え方については全くコンセプトが一致しました。昭和63年10月県が仲介して、広島県田園型リゾート民活導入第1号として調印となりました。起工式は平成元年8月、オープンが平成2年7月と、非常に早いスピードで工事を進めることができました。これも用地や水利権調整などの交渉の窓口を、住民組織の推進会議が先頭に立ち世話をされたことによるもので、約80人の地権者の合意を得られたからであります。
 この施設の建設に並行して、予め計画してあった農村体験交流施設(レインボーファーム)を建設し、町の直営によってふるさと産品を製造・展示・販売する場と、神楽面やわら工品の体験交流のできる場を提供することになりました。また、駐車場の入口に青空市を開設し、農協が中心になって新鮮野菜や果物を直販し、都市との交流を図ることにしています。この2つの施設は農業展望の暗い中で、ふるさと産品や直販野菜・果物・花卉などを作って供給することで、高宮町に新しい産業おこしができるものと期待するとともに、既にオープン以来今日まで、成果からみて、来年は1億円を超える産業に成長することが予想されます。

*入場者、7月13日〜10月10日まで 26万人

 さて、このように民活資本で建設したリゾート施設に、行政や農協が農業発展につらなる施設をつくって協調していくことは、相乗効果が生まれ双方にメリットが生まれる新しい官民の協調体制として注目されています。
 また現在、婦人集団がグループを作ってパートによる経営参加をしていますが、民活と協調できるほか直接都市の人びとと交流して多くの情報が得られます。これがやがて地元の地域振興組織で行う公園化の実現に大きく役立つものと考えられます。
 ところで、『虹の家族村』は非常に早い速度でオープンしましたが、当初計画したこのリゾート施設を核にして、町内へ人・物・情報を拡散させるという、受け入れ構想のほとんどはこれからの事業になります。都市の人びとからは、『虹の家族村』に来て「町内を巡回したいが案内してくれ」と、よく間い合わせがあります。観光梨園や観光リンゴ園は以前からありましたので、現在はこれを充実しています。各地域振興会がふるさと創生事業で取り組む公園化事業を早期に完成し、全町にふれあい交流を進めています。以下各地域振興会が取り組む事業は次のとおりです。


全町公園化構想とフラワーロード

(1)川根振興協議会
イ、アジサイロード(単県助成、3年目)
ロ、清流を生かしたふるさとの川づくり(親水護岸整備事業)
ハ、淡水魚養殖施設(淡水魚養殖施設事業)
ニ、地域全体をエコミュージアムとして整備(生活環境博物館)(農水、建設、自治省関連補助事業実施中)
(2)船木振興会
イ、船木フルーツランド(開発可能地に二車線の広域農道をつけ、農水省予算で農地開発とフルーツランドを計画中)
(3)羽佐竹振議会
イ、香六ダムスポーツ公園(農水省 水環境整備事業) 開拓パイロット事業で農業用池(水面5ヘクタール)の周辺を公園化する。(農水省 平成2年実施)
ロ、平山牧場公園(県内でも有数の牧場地帯でこの周辺を整備する)(単県事業 平成2年実施)
ハ、観光リンゴ園開発(植栽 6年目)
(4)志部府親交会
イ、面山森林公園(戦国時代の古城跡を公園化する。自然林竹林整備、果樹園などをつくる)(農水省補助)
(5)下佐親和会
イ、高宮太鼓の開発(平成元年 ふるさと創生事業助成) ふるさと産品の開発
(6)房後連絡協議会
イ、加工及び販売施設の設置(高齢者を中心に10種類以上の産品を開発し、施設をつくって量産体制ヘ)(単県補助平成2年)
(7)来原コミュニティ連絡協議会
イ、地元に「虹の家族村」が設置されたので、周辺の環境整備及びフラワーロード県道3次−美土里線、房後−高田IC間6キロメートル(修景美化事業単県助成)
ロ、花卉苗生産基地(町内をフラワーロードにするため、苗の生産を行う)(単県事業)


これからの課題と展望

 全町公園化の中で、フラワーロードで結ぶ快適環境づくりは、川根地区のアジサイロードをはじめ、バーベナテネラ(花名)の植栽が、3年前から婦人会の手によって全町的に行われています。肥培管理は婦人のボランティアで、苗その他の資材は行政が負担しています。他町に比べ町道県道の延長があまりにも長いため、道路を花で埋めるには相当の年月がかかるものと思われます。『虹の家族村』がオープンして、連日予想を上回る都市の人びとが訪れています。ふるさと産品はよく売れる。町内に自動車は増える。住民もこの光景をみて活気づいています。地域振興集団もふるさと創生事業の取り組みに熱が入ります。
 高宮町にはこれといった名所・古跡はなく、目然の観光地もありません。それだけ住民の創造と知恵、それに手づくりによる公園づくりが主流になります。都市の人びとに感動と思い出を与えるには、農業と農村の自然をデザインした快適環境をどのように創造していくかにあります。高宮町のこれまでの行政姿勢は、住民との対話を基底におき、各集団から提案された地域課題を行政課題とし、地域振興組織の存在を尊重し、対等な立場で協調してきたことです。
 今日、多様化された行政の中で農業・高齢化・福祉・環境問題など数えきれない課題を抱えています。人の配置と予算を増やせば解決できるものではない。それにはどうしても住民が自らの問題として燃えなければ地域づくりは進みません。生涯学習の体制をつくって住民の自治意識を高め、リーダー養成をする教育的側面からの援助だけではなく、時には行政主導の指導をしたり、思いきった予算計上で支援するなどの施策を講じない限り、人と物と年月を要する「全町公園化構想」の現実は望めません。
 都市の人びとに対し、「高宮町を一度見に来て下さい」と自信と誇りをもって主張のできる町づくりは、決してバラ色の展望に満ちたものではありません。住民1人ひとりが集団に結集し、組織の力と行政との協調が必要です。今、近隣町村では、『虹の家族村』設置に伴う人の流れを誘導して、町づくりに役立てています。これからの都市交流は、他町村と情報を交換し協調しながら運営し、広域にわたる相互発展も重要な課題だと思います。
 これからも、「ひとが輝けば町が輝く」を合言葉に「虹の家族村全町公園化構想」の実現に努力します。