「ふるさとづくり'91」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞

空き缶のリサイクルと缶飲料の飲み口改善をめざして
東京都 六郷生活学校
ついにプルタブからステイオンタブへ

 平成元年度は、ビールや清涼飲料の缶の飲み口が、従来使用されていたプルタブから、ステイオンタブ式に改善され、本格的に採用されるようになった。
 アメリカではすでに缶飲料の飲み口はステイオンタブ式が主流になっており、現在では37州でプルタブを禁止している。日本でも輪出用にはステイオンタブを用いていたが、国産飲料にまとまって採用されたのは今回が初めてである。
 六郷生活学校では昭和55年からアルミ空き缶の回収を行っている。
 回収を始めた頃は量も少なかったが、今は年間約6,000キログラムの回収量、夏場は2トン車に積みきれない量が回収される。空き缶の回収は各所で行われているがプルタブについては、今までなんのてだてもされていなかった。
 プルタブは何処にでもポイ捨てされ、人問に動物にその被害が出ている。海岸で子供が足を切った、北海道では国の天然記念物に指定されているタンチョウヅルの胃から多量のプルタブが出た、キツネがプルタブを呑んで死亡するケースもあとをたたないという。人間の不注意がいかに自然界を荒らしていることか……。
 私たちはこの、飲み口の散乱、危険性などを考え、「今まで日本で使用してきたプルタブをステイオンタブ式に改善」を目標として飲料メーカーに要請してきた。
 飲料メーカーがなぜステイオンタブ式採用に反対するのか意見を聞き、十分話し合いができるように事前調査を行い、飲み口改善に向けて対話集会を継続して行ってきた。
 その結果、検討の余地なしといっていたものから、検討するに変化し、テスト販売を経たのち、ついにステイオンタブ式の飲み口を各飲料メーカーが採用するまでに至り、社会的なシステムに広がった。
 円高、輸入促進政策、地球規模での環境問題への関心の高まりなどといった時代の動きも私たちの活動に組み込んでいく中で、小さいプルタブや空き缶を通して国際間の動き、飲料業界の競争の厳しさ、消費生活の変化なども伺え、思いがけず人生の視野を広げることができた。
 今後ステイオンタブが定着するよう見守りながら、リサイクル型社会の構築を目指し、身近なところでは「あきかんはくずかごに」のような使い捨ての生活を見直し、新しいシステムづくりに向けて運動を続けたいとおもっている。


提案と実践のあゆみ

 私達の住む六郷は多摩川の流れに沿った下町で、地域の主婦たちが声をかけ合って、昭和53年4月に「六郷生活学校」として開校しました。
(1)空き缶回収の動機
 日本の缶飲料の生産は予想もしなかった激増ぶりで、昭和45年には8億缶だったのが、今年は240億缶といわれます。
 私たちの空き缶回取も、最初の頃は子供の健康を守ろうと、飲みものやおやつの問題から取り組み始め、埋め立て地、環境、資源問題へと広がりました。始めは仲間も10数人で空き缶が20キログラム集まれば回収車がきてくれる、と委員長の家を回収拠点としました。
 今では会員数90人、それに加え会員の家族に、地域の人びとへと運動の輪が広がり、月1回の回収量が夏場は700キログラムを越えるほどに増えて来ました。
(2)回収拠点の増加
 私たちの空き缶回収について、問い合わせや見学にきた人たちがまた拠点となり、椛谷生活学校を始めとして、東六郷のお寺で、マンションでと拠点の数も増えてきました。
(3)アメリカと日本の缶飲料の比較
 昭和57年にアメリカヘ行く機会があり、缶飲料をみやげに持ち帰り、日本の缶とその差を比較してみました。
 アメリカでは動物がプルタブを飲み込んで被害が出たなどで、徐々にプルタブ禁止の州が増え、缶体にタブが付いたままで飲めるステイオンタブ式が主流ですが、日本の缶飲料の飲み口は、もぎとり式のプルタブです。
 表示についてはアメリカのは「プリーズリサイクル」「リサイクルミー」「リサイクラブルアルミニウム」「五セントリファンド」などとリサイクルを進める表示や、デボジット制度を導入している州もあり、空き缶を有価物として扱い、多彩で個性豊かな印象を受けました。日本は「あきかんはくずかごに」の統一マークで、空き缶を無価物として扱っています。資源の少ない日本で物を使い捨てにしている生活は考え直し、生産する段階から正していくべきだと痛感し、この時からアルミ缶を1個1円で買い取り式にしました。(4)散乱公害、缶飲料の飲み口
 回収された空き缶の山を跳めながら、もぎ取ったプルタブは一体何処へいったのか? 疑問を持つようになりました。缶の飲み口が散乱しているとビニール袋に入れて持って来る人も出てきました。そこで街頭の散乱状況を点検したところ、またたくまに30キログラムのプルタブが拾い集まりました。さらに300人にアンケート調査をすると飲み口のタブの散乱が気になる84パーセント、飲み口のフタは空き缶に入れる・61パーセントと答えました。
 私たちは無作為抽選で回収空き缶3,907個を調べました。缶の中にプルタブの入っていたのは僅か4・7パーセント、意識と実態のずれはひどいものでした。殆どのプルタブは無意識のうちにポイ捨てされていたのです。
 この調査結呆から私たちは缶飲料の飲み口を、プルタブからステイオンタブ式に改善することを目標として、飲料メーカーと対話集会を継続して行いました。
(5)飲料メーカーがステイオンタブ式を採用しない理由
 昭和59、61年対話集会では、外国への輸出品はステイオンタブを採用、国内用は消費者に好まれないのでプルタブを使用している。とその理由を幾つかあげました。
 この頃は輸入缶はまだ高価で、一般になじみのない商品でした。NHKや新聞社の人でも、「アメリカなど一部のところで、缶に飲み口のタブがついたまま飲める方式が採用されているそうですが……、どこに売っていますか、お宅に現物がありますか、」というふうでした。飲料メーカー側も、「検討の余地なし」でした。
(6)輸入缶の増大
 飲料メーカーに強硬に反対され、いささかがっかりしながら空き缶を潰していた時です。今まで見かけないようなステイオンタブの缶がかなり混じっていることに気付いたのです。1ヵ月間で幾つ輸入缶が混じっているか、その缶の表示、輸入業者名などー覧表を作りました。私たちの空き缶の中だけで約60業者が入っていました。
 スーパーに、小売店に、自動販売機の中にとステイオンタブ缶がどこにでも並び、一般になじんできたのです。
 勇気を出して、私たちは飲料メーカーがあげた反対事項についてひとつひとつ調査をしてみました。
(7)飲料メーカーと対話集会
 昭和63年、飲料メーカーとの対話集会も3回目。話し合いの中心はメーカーが反対理由としていた、なじみ、飲みにくさ、不衛生などに集中。サントリーではステイオンタブの開け方も普及してきているので、検討してみたいとのこと。さらにステイオンタブの商品を新製品として出してみては……とメンバーの提案に対しても、会社に持ち帰り話し合うと前向きの回答、これらはステイオンタブを実施すると回答したわけではないが、実現にむけて一歩踏み出した感があった。この対話集会の時、会場にプルタブ30キログラム、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなど各国のステイオンタブ缶を現物として置いたが、メーカーの人がこんなにたくさんのプルタブを見ることは始めて、と驚いていた。
(8)ステイオンタブ缶のテスト商品が出る
 アメリカのバドワイザーは、サントリーがライセンスをとり、飲み口はプルタブにして国内で製造販売していたが、アメリカで作る方がステイオンタブ式の製造ラインも多く、価格も安くなるので、平成元年4月からそのまま日本で売って様子を見ることにし、6月と12月には国産ビール初のステイオンタブ缶を、地域を限定して販売し消費者の反応をみました。
 平成元年8月、照りつける暑さの中鎌倉海岸でステイオンタブの缶飲料を売っていると聞き、皆で調査に出掛けました。海岸で若者たちにインタビューをして聞いてみたがステイオンタブについての違和感は全然持っていません。
(9)ステイオンタブ商品への流れ
 対話集会に向けて調査、資料集めと、充分な事前準備を整え、平成元年12月続けて飲料メーカー6社と対話集会を行った。その結果は、平成2年の正月気分もようやく抜けた頃、サントリー、アサヒ、キリン、サッポロ、日本コカコーラ、宝酒造、日本生協連と各社あいついでステイオンタブ式採用の連絡をくださり、中には全銘柄に採用したいというメーカーもありました。対話集会の時に、水面下では動いています、といわれた言葉を思いだします。
(10)点滴石をうがつ
 私たちが回収を始めた頃は、会員同志も殆ど知らない間柄でした。空き缶回収は地味な作業ですが、目的を持って集まり集まりしている間に、相互の和と協力姿勢が育ったようです。回収が終わると皆でお茶を飲みながらワイワイと雑談で、運営委員会と違った気楽さです。何をやるにも事業より人を第一に、をモットーにしています。アンケートも毎年取りますが、お互いに教え合ってだんだん上手になってきました。急な連絡事項もこの時します。近年は委員長が旅行に出かけても、皆で空き缶の整理をし、見学者があれば協力をしてお相手をし、植木に水をやり留守を守ってくれるようになりました。
 御近所の方も缶潰しの騒音や、たくさん空き缶がたまっている時は、さぞ迷惑だろうと思い頭を下げますと「もう止めるか、もう止めるかと見ていましたが、よく続けましたね」と協力してくださったり、このような周囲の支えがなかったら、私たちの運動はここまで続かなかったの思います。
(11)ユニークな提案と言われたが
 環境協会がステイオンタブの飲み口を、環境を守るエコマーク商品に指定しました。厚生省もステイオンタブ方式を採用するよう業界に要請があったといいます。どんな小さなことでも年月をかけていくところには、花が咲き実を結ぶ時がくる。途中には雨の日も嵐の日もあるが、背後には常に太陽が輝いていることを忘れないように……こんな言葉を思いひと息ついたところです。空き缶問題で訪ねてきた大学生が、私たちの作った資料の「鉄とアルミのそっくりさん」をみて驚き「缶の表示」「飲み口のプルタブとステイオンタブ」などを見て「事業者の兼務、アフターケアはどうなっているのか」と首をひねりました。消費者も社会的貢献度の低い企業は相手にしないくらい評価力を持つようになればと思います。
 また、あしたからステイオンタブの進展を見守りながら、空き缶をくずにしないような新しいシステムづくりに向けて努力していきたいと思います。