「ふるさとづくり'89」掲載

ふるさとづくり、明日へのシナリオ
熊本県熊本市 日仏文化交流を進める会
イベントではなく日常の地域づくり

 我、熊本は「日本一づくり運動」を提唱し活力と個性ある地域づくりをめざしている。また、21世紀に向け、“新しい田園文化圏の創造”で地域のイメージづくりに効果をあげており、まさに「地方の時代」の夜明けと言っていいだろう。
 しかし、その舞台裏では町の活性化に取り組みたいが予算がない、若者の流出で人材が不足、住民に意識がない、また情報やノウハウがない等、その実像は地域づくり、人づくりではなく、今はまだ人探しの段階と言っていいだろう。その結果、取り組みにも地域間で格差が生まれている。また、取り組みをその道のプロにすべてゆずり渡し、ふるさとの色より商業色豊かになっている傾向がある。そのことは今日まで巨大化した行政レベルの運動体を変えるだけの民間レベルの力が日常的に育てられていない点ではないだろうか。経済団体育成優先に終わり、経済効果を求めるため、何ら付加価値を求めない各種イベントは終わればそれまでで、全国的に空洞化してきているようだ。
 ハード面は常に行政側から打ち出されるが日常面での地域づくりは民間レベルのボランティアグループに頼っているのが現状で、当日仏文化交流を進める会は地域ぐるみで国際交流をはずみバネとして推進し、今日まであまり重要視されなかった、女性や青年層の価値観や感性を運動に取り込み、住民を地元での自慢づくりから、町やふるさとに対する応援団組織に発展させるべく幅広い活動をめざしている。


異文化と直面してはじめて認識する自分たちの立場

 東海が地域づくりにもっとも重要視したいのはよその物真似ではない、新しい「ふるさとらしさ」の追及である。かつて熊本の天草地方は日本の中でも、ひと足早く外国文化(カトリック文化)が渡来した土地がらである。ローマ法王に謁見した少年たちが、日本に印刷機械を伝来して400年の歴史が流れた。その流れの中には異文化との出会い、ぶつかり合いがあった。その姿はバイオの技術ではないが「火の国文化」と異文化のかけ合わせにも似ている。そのような土地がらとしての役割と責任を果たしていくために、一昨年40名の団員が仏国と伊国のジャパンウィークに郷土の文化を携えて海を渡り、相手国で大変な関心と注目を浴びた。その成果をひとつのキッカケに、地域の活性化のカンフル剤を国際交流ホームステイ構想に求め、国際感覚を高め、郷土を愛すべく、一家団欒の中で普段着のおつき合いを始めた。
 自分たちの立場は異文化と直面して初めて認識する。相手や相手国を認めることによって生まれ育ったふるさとの良さを再確認するのである。受け入れ家庭の輪が年々拡がっている。その屋台骨を婦人たちが支えている。また、日頃つき合いの薄かった行政機関と受け入れ家族や民間団体が会合を重ね、留学生の扱い方を打ち合わせる。そのような日常活動の中から永い間地方の農村や漁村を縛ってきた閉鎖的な争いのドラマが、外に向かって開かれた新しい目標にとって代わったのである。また、このホームステイは少なくとも地域内部の風通しを良くすることにも貢献しているし、地域の将来を担う貴重な人材である子どもたちが、ふるさとに誇りと愛着を示しはじめた。そして国際交流によって世界に視野が広がり、夢が生まれる。そこから新しい価値観が生まれる。難しい理屈や即、経済効果を期待することもない、そのようなものは後から追いかけてくるものだと思う。その証に今まで無関心だった末端の地元議員も進んでホームステイ受け入れ家庭登録に申し出てきている。
 今からは、将来についてしっかりしたビジョンを持ち、活性化のためのハード面とソフト面のバランス感覚に欠けた者を「田舎者」と呼ぶ日も近いような気がする。


わが郷土の全てが日本の顔

 ふるさとの文化と歴史を大切にすることが、人づくりに通じると確信している。一昨年の日欧文化交流事業は国際平和年の記念事業と位置づけて取り組まれ、多くの成果を見出し、各方面に反響を与えた。
 しかしそのような状況をよそに地元の大学や企業で学ぶ留学生や研修生に、郷土についてアンケートを実施したところ、日本滞在期間に日本の心や文化に触れる機会に恵まれていない(92%)、日本人の友達の数1〜2人(52%)将来青春の思い出の地である熊本にもう一度足を向けるかにはNO(70%)とショッキングな反応を寄せた。当会は外なる交流のみに片寄らぬよう、この種の要望に応えるべく地元における文化事業にも力を入れるようにした。本事業は全て参加者のボランティアによる手作りの物にし、予算のない分知恵と汗とヤル気でカバー、実施して、参加者3,000名を見た。日本留学体験が彼らにどの程度役立ち、帰国後も日本に好感を果たして持ってくれるのだろうか。日本留学と言っても彼らにとって、我郷土の全てが日本の顔である。半数近くに悪い感情を持たせて帰している点は見逃せない。今まさに、私たちの文化(生きざま)全般に対し検証の時期に来ていると考える。
 地元では郷土芸能の伝承者がいない等、文化運動の低迷など多くの問題を抱えている点を考慮し、年に1回、オラが町をPRする場をこのイベントに見出せたらと思う。多くの文化ジャンル、物産展やバザー展、郷土芸能等、まさにアマチュア文化活動の発表と交流の場を提供し、外国の人たちもその輪の中心に入ってもらうイベントである。
 そこにはいろいろな文化があり、正真正銘の地方のふるさとのイメージの波がある。その波は世界の中で拡張され、その中からまた、新しい留学生や研修生が期待に胸ふくらませてやって来る。今後さらに、この一般市民の手作りの文化交流事業を青少年から婦人や老人層にもさらに広め、より豊かな社会における付加価値を追及していこうと考える。


国際映画祭を開く

 当会はEC加盟間との文化交流事業の実績により、国際交流基金のご支援で定期的に国際映画祭を地元で実施している。この事業は熊本では文化的なものは育たないと言う文化不毛論が根強く、創造する人より批判家が多いことに反発し実施している。それは次の文化の担い手を育成することが急務であり、若者に国際感覚を身につけさせ、時間をかけないと育ちにくい文化のための土壌を耕すためである。そのような状況下、昨年地方都市では初めて開催した「国民文化祭」を継承する意味から、熊本県は来る10月23日〜28日の8日間、八代市において第1回県民文化祭を開催する。その中に映像文化として国際映画祭を盛り込んで頂けたらと意見提起させてもらった。幸いにしてこの意見は、実行委員会でも高い関心を示し拾い上げてもらった。
 さらに同市で活動している草の根3団体の協力を取り付け、「古き時代から21世紀へ、映像文化を考える」と題し実施する。弁士による無声映画は大きな目玉になると思うし、世代ごとにチャンバラ、アニメ、洋画に国際映画まで一挙上映する。また、老人ホーム等身体の不自由な方々の施設数カ所には出張上映もされるし、当会会員である映画評論家が映画の歩みについて講演する。低成長期の今日の若者たちに、創る側の楽しさと感動を味わってもらい、自信と誇りと自立への夢に向かって着実に進んでもらおうと力を入れている次第である。


情報の草の根ネットワークを

 熊本県は61年から3カ年計画で「マイタッチ計画」を推進するために小、中、高校にパソコン3,600台を導入した。このことは日本一づくり運動と相乗効果を高め、全国から画期的な取り組みとして注目を集めて来ているが、機能運用面でのソフト活用は今からと言っていい様だ。パソコンやワープロは学校、職場、家庭にと普及し、今やその目的も単に文章作成や管理から、パソコン通信に多くの関心が向いている。当会も草の根組織で財政難は年中つきまとってはいるが、将来的にホスト局を設けたい。誰でも気軽にアクセスでき、自分に必要な情報が取り出せる。
 多くのサービスメニューの中でも、電子掲示板には誰でも読み書きできる「おしゃべりフリーボード」や投稿BOX、イベント情報提供コーナー、おしゃべり(チャット)等々会員が増えれば、地域の様々な情報をリアルタイムで知ることができる。
 そして、そのことが学校間の交流、町村間の交流、地方や地域間の壁を乗り越えて情報伝達ができ、複数の町村や地域で統一テーマでのイベントづくりに大きな力を発揮するだろう。そのような意味で情報を交換しあう「草の根ネットワーク」を盛んにしなければと思う。まさにパソコン通信での情報発信基地づくりである。当会が今、7町村で取り組んでいるホームステイ事業も、ホームステイバンクを確立すると、定期的な取り組みから通年ホームステイ制度に移行させることができ、多くの人たちが我、熊本のふるさとを訪れてくれる事にもつながる。そのためにはラジオ日本にふるさとPRにお手伝いをしてもらおう。
 彼らは地方の我「ふるさと」の文化と人情を心に刻み込んでゆく、そのことはきっと諸外国の世界を結ぶ大きなパイプに育つはずである。その他にも来春は仏国より25名の文化視察団を受け入れることにもなっているし、来秋は仏国マルセイユで民間レベルの日本週間が開催予定であり、参加を検討している。それは常に一方通行ではなく、対話のあるふれあいの中から模索するよう心がけている。
 この様にふるさとづくりは、実行する人たちが多くいることで、自慢や自信が生まれ、自分や地域の文化(生きざま)を作ってゆくことになる。地域ベース、住民ベースでの活動の成果の蓄積、活動内容でのまさに知恵比べであろう。自分のふるさとさえ良ければでは無く、あとはどう行政や国の施策とうまくリンクさせるかである。
 今のふるさとと創造性の回復が最重要であり、ひいては日本国の創造性を生かして、いかに世界の活性化に貢献できるかが問われ、日本の産業文化の輸出、国づくりの支援につながり国際的貢献度も大きくなると夢がふくらんでくる。
 本音で語り合っている「ふるさと」は、手探りでも確実に活性化して来ていると信じたい。