「ふるさとづくり'87」掲載
入賞

住みよいふるさとづくりを目ざして
長崎県 ふるさと五島をつくる会
 「ふるさと五島をつくる会」は「五島ならではのふるさとづくりを考え、住んでいるまちに愛着と誇りをもち、これからも住み続けたいと思うよきホスピタリティーてらもったふるさと五島の創造に寄与したい。また同時に、手づくりの実践活動に市民参加を幅広く求めながら展開していきたい」という、このような趣旨から五島在住の若者たちが手をつなぎ設立され、現在、約400名の会員で組織されている。
 会のメンバーは、福江青年会議所、福江市青年団連合会、下五島青年農業者連絡協議会、福江商工会議所青年部、五島観光連盟、福江市役所、長崎県五島支庁などの職員のほか、各農協や一般企業の職員、農家代表などさまざまな分野から構成されているが、従来からの各団体の代表者またはこれに準ずる者が多いために、各団体の活動の連絡調整的機能も有しており、このためイベントなどの実施に当たっては、会のメンバーだけではなく、各団体の所属会員などをスタッフとして人的に配備できる点が強みといえる。
 本会の設立はまだ日が浅いものの後述するように、従来五島ではとくにみられなかった斬新な企画によるイベントなどの実施を通じて、町内会連合会や地域婦人団体連絡協議会はもとより、各市町や市教育委員会さらには県においても共催や後援のかたちでの参加をいただき、これら行政機関に対しても、私たちの活動を広く認識してもらい協力をいただいている。
 しかしながら、本会の運営経費は、現在、会費、寄付金、補助金などはなく、個々の活動事業ごとに市民の浄財により経費を捻出しており、各事業の実施に当たっては、企画、資金調達、関係機関との連携、調整、広報渉外、事前準備などから報告書作成まですべてメンバーによるボランティア活動として実施しているため、会員の苦労はたいへんなものであるが、相互の連携と協調をもとに少しでも住みよいふるさとづくりを目指して意欲的に活動を展開しているところである。


デスクワークとアウトドアワーク

 本会の活動は大別して2種類に分かれる。ひとつは、五島ならではの快適で潤いのある生活環境整備に向けての新しい手法の開発と実践プログラム策定のために、毎月1回の定例会による調査研究と討議を通じて、独自の実践的な“まちづくり計画”を提言し、併せて、可能な限り必要な人的配備などを行うことをねらいとした、いわゆる“デスクワーク”である。現在このための当面の企画研究課題として、(1)街並み景観形成計画(2)住居地周辺環境保全活用計画(3)観光振興実践プログラム計画をあげ、このうち観光振興計画については、これからのたたき台となる一応の案がまとめられている。 情報や知識の不足などにより作業は難行しているが、専門家や地域の各機関、団体の代表者などの意見も聴取しながら、若い人たちの熱意と柔軟なアイデアによって、地域に根ざした独自の、しかも実現可能性の高い計画ができるように焦らず、じっくり腰を構えて取り組んでいきたいと考えている。
 もうひとつは、“アウトドアワーク”として、幅広く市民参加を求めながら手づくりの実践活動を実施していこうとするものである。以下現在までの取り組みについてのべる。


五島まちづくりシンポジウム

 去年の9月、主として福江市内の多くの青年たちに呼びかけて、21世紀を目前にしてふるさと五島の自立と再生を目指した新しいふるさとづくりのあり方について学び考えるまちづくりシンポジウムを開催した。国際青年年ということもあって青年フォーラムの同時開催としたが、青年層にのみに限らず、まちづくりの主体の成員が住民1人ひとりにあることを訴え、まちづくりについての住民の主体的な参加意識を醸成し、関心を喚起する意味から広く市民の参加を求めた大会とした。
 従来、島外では行政主導のかたちで、また都市においては先駆的な民間団体の主催で、この種のシンポジウムはよく開催されているが、当地五島においては、これまで、行政においてもこのような不特定多数の市民を対象にしたシンポジウムを開催したことがなく、ましてや住民サイドの自発的な取り組みとしてこの種の催しはまったくはじめてのことである。県、市など共催などのかたちはとっているが、前述のように企画、事業費の捻出、大会準備、渉外など一切を本会の自前で行った。
 内容は、“子供たちに残そう豊かな五島”をコンセプトに、専門家や有名人によるパネル・ディスカッション、長崎県企画部による“地域間競争の時代そのまちづくり”と題しての基調講演、青年達たちによる3分科会に分かれてのグループ別のティーチイン、中国福建賞華橋大学学長らによる友好促進の講話などほか、賑わいやふれあいのなかで市民コミュニティをはかる意味から、屋外の催しとして市民のふれあい広場をつくり、もちつき大会、クラフト教室、チャリティーバザー、農水産物の即売、吹奏楽、市民がらくた市、郷土芸能などを実施した。
 第1回目ということもあり、反省点もあるが、市民約2000名の参加を得たほか、多くの人のボランティア活動により、盛会のうちに終了することができ、本会の活動の第1歩として記念すべき事業であった。
 本年4月、五島の特産品である加工品、未販売の手づくり品などを一堂に集め、広く島内外に紹介するとともに、これまでの特産品関係の経緯を認識し、今後新たな開発と拡大の可能性を探るという趣旨から、特産品フェアーを開催した。
 物産新興協会や観光協会による大消費地での販売促進を目的とした物産展はよく開催されるが、五島の島内で主として地元の人を対象として、しかもよく知られた特産品だけではなく、家族にある優れた加工品や島内の原料により島外で加工されている品などを多数集めての大がかりな開催は従来例がない。
 大型テント11張りに五島1市10町の農産物、水産物、菓子、民芸品、工芸品などを陳列し、広く市民に紹介するとともに特産品開発について討議した。


まちづくり絵画展と五島子供サミットの開催

 21世紀のまちづくりの担い手である小・中学生に、将来のまちや自分たちが夢みるまちを絵画を媒体として表現してもらい、これをいまの主役である大人たちと一緒にこの絵画展を通じてみるとともに、併せて子どもたちが何を考え、何を望んでいるのかを直接聞きながら、夢やアイデアを語り合うことによって、両者の世代を超えて、ふるさとへの愛情とまちづくり全体の関心を喚起し、住民のまちづくりへの参加意識の向上を図るという趣旨から、61年5月5日にまちづくり絵画展と五島子供サミットを開催した。
 下五島1市4町の小・中学校の児童生徒を対象に(1)将来こんなまちに住みたい(2)将来こんな広場や遊び場が欲しい(3)将来こんなまちで買い物をしてみたい。といった将来のまちに対する夢や希望をテーマとして、4つ切り(B3サイズ)画用紙に絵を描いてもらうこととしたが、応募期間が短く、年度当初であったにもかかわらず763点もの応募があった。島内の児童生徒のうち10人に1人が応募したことになる。応募作品は現在タイムカプセルに収納して埋めてあり、西暦2001年に開封することにしている。子供サミットは、まちづくり絵画展の主として入賞者と各市町長など大人たちの代表者との意見交換のなかで、五島の長所や短所など現状をどう把え、ふるさとについて何を思っているのか、資源の保全や活用など大人たちへの願いとしてどういうものがあるのか、五島の将来図やそのなかで自分たちで何ができるのか、また何をしたいと思うのか、などをテーマとして、活発な話し合いが行われた。
 従来、子どもたちのポスター展や絵画展は催されているが、子どもたちのまちづくりへの社会参加意識と、ふるさとへの愛情を育むことをねらいとした絵画展との抱き合わせのこの種の行事は、これも五島では初めてのことである。子供サミット参加者は約700人。全体事業費は55万円であった。


石田城の濠周辺の浄化とホタルを呼び戻す市民運動

 五島の豊かな自然環境や歴史的遺産、観光資源などの地域資源を文化的視座から保全、活用し、調和のとれた快適で潤いのある生活環境を創出していくことが大切だとの考えから、石田城の濠周辺の浄化とホタルを市街地に呼び戻す市民運動を61年9月に実施した。
 石田城は日本でもっとも新しい海城で、五島の玄関口福江市はその城下町である。したがって石田城は、市民の憩いの場、観光の名所として五島のステイタスシンボルのはずであるが、現在残念ながら、濠や石垣は汚泥生活雑排水、雑草などによりその価値が半減してしまっている。また、市内の河川もいわゆる三面張り工法のため城下町の風情が失われかけている。
 こうしたことから、石田城とその周辺にあるべき景観形成に向けた総合的な施策を引き出すための第一歩として、広く市民にその浄化と自然との共生を訴え、気運を盛り上げることが主要なねらいである。
 作業は、石田城の草刈りやごみ、川床の汚泥の除去などのほか、ホタルの生息環境として種々の整備をし、その幼虫12000匹を放流した。ホタルは、千葉県柏市公園緑地課の格別の配慮により無償で譲り受けた。この事業は、従来にも増して市民の関心を喚起する必要から、参加呼び掛けや資金集めなどについて町内組織を活用し、その全面的な協力によって市内8805世帯中、8298世帯からの寄付や協力が寄せられた。事業費は65万円。
 以上、快適で住みよいふるさとづくりを願う青年たちによって60年に結成されて以来まだ日は浅いものの、独自の企画運営により広く市民参加を求めながら、自主的な活動を展開している。会員の苦労は大変なものであり、打ち合わせや作業で深夜12時をまわることも多々ある。すべて自前であり、もちろん無報酬である。これまでの経緯を踏まえ、さらに内容を充実した企画により、地域に根ざした活動を推進し、21世紀に継ぐ誇りと愛着のもてる快適で住みよいふるさとづくりに努めたい。