「ふるさとづくり2005」掲載
<企業の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

誰もが安心して暮らせるまちづくり「西三河在宅介護センター」設立―地域問題は、会社の問題―
愛知県刈谷市 アイシン精機株式会社
地域の福祉問題に取り組んだ背景〜よき企業市民としての礎〜

 経営理念のひとつに「社会・自然との共生」を掲げている当社は、企業も同じ地域に暮らす一市民と捉え、地域社会のまちづくりに積極的に参加、協力をしてきました。その中でも、「地域の問題は、会社の問題」として、従業員が安心して生活できる環境こそ、企業が永続的に存続する重要な要素であると考えています。そのためにも、地域ぐるみで行なうまちづくりが必要であり、これからの日本社会が直面する高齢化社会、介護問題は、対岸の火事のような他人の問題ではなく、従業員が日々の家庭生活において直面する重要な問題として、真剣に取り組まなければならないと考えています。
 実際に従業員に対して介護問題のアンケートをしてみると、多くの従業員がなんらかの介護問題に直面しており悩んでいる現状が浮き彫りになりました。そこで、安心して働ける職場環境を作り上げるため、労働組合と協議し介護休業制度(※1年間を限度に休業することができる)を導入しました。しかしながら、現実的には休業期間中は給与収入がなくなること、休業期間終了後も介護は続けなければならないことなど、様々な問題が残り安心して働ける状況というまでには至りませんでした。
 また、介護に関する様々な行政サービスについても、介護保険の適応されたケースでない場合、介護に関する保障がほとんど受けることができず、個々の家庭事情を配慮した介護サービスの必要性を痛感しました。これら地域社会に渦巻く様々な介護問題の実態を把握するに至り、介護認定の該当、非該当に関わらず、在宅介護サービスを低料金で提供していくことが、この地域で安心して働ける、暮らせるまちづくりにおいて、いかに重要であるか認識するようになりました。


介護支援団体との出会い

 当社では、地域まちづくりの支援事業として「オールアイシンNPO活動応援基金」があり、地域まちづくりを行なっている市民団体に助成を行なっています。この事業の特徴は、書面等による審査だけではなく、担当者が地域団体の活動場所まで直接出向きヒアリングを行なっていることです。直接、市民団体の代表者の方にお話をうかがうことで、その地域で直面している問題を生で聞くことができ、その地域でもっとも必要な市民活動を把握することができ、より効果的に応援することができています。
 この基金を通じて、98年に地域の在宅介護サービスに取り組んでいる「幸の会」を知りました。ヒアリングを行う過程で、アイシンの抱えている問題と「幸の会」のサービスの充実を図ることを目的とした両者のニーズが合致し、市民も従業員も安心して暮らせるまちづくり活動に取り組むことになりました。


地域を支えるボランタリーマインドでまちづくり活動〜なぜ、寄付ではなく協働活動を選んだのか〜

 企業として、市民活動を支援するもっとも一般的な方法に寄付があります。この介護問題を解決していくうえで、様々な介護事業を行っている市民団体を金銭的に支援していくことは、福祉分野のサービスの充実に十分寄与するものであると考えます。しかし、短期的な金銭支援は長期的な事業計画を立てにくく、どうしても短期的な運営中心になってしまいます。そこで、両者が抱えている問題を解決すべく市民団体と手と手を取り合い、新しいNPO法人を設立して介護問題に取り組むことにしました。
 この協働活動において、もっとも大切にしているものは、サービスを受ける人たちの気持ちです。介護を受ける人の気持ちは、常に家族のように介護してもらいたい想いが大変強く、この家族に介護してもらっているようなサービスを提供できるのは、ボランタリー精神に支えられた市民団体であると考えています。
 会社の事業として福祉事業を立ち上げるのでなく地域市民に委ねるのは、営利目的の介護サービスでは決して行なうことのできないあたたかさが、ボランティアの皆さんに支えられている市民団体にしかできないと考えるからです。この心のこもった介護サービスを提供するため99年、NPO西三河在宅介護センター(旧幸の会)を立ち上げました。


介護問題を真剣に取り組むために…

 幸の会の支援方法の一つに、任意団体のまま支援をすることもできました。しかし、それでは、ただ協力関係が生まれただけであり、活動方針が変わってしまえば、両者の協力関係がなくなってしまうかもしれません。NPO法人を設立した一番の理由は、両者の協力関係が形として残り、継続的に地域へ介護サービスを提供できる環境を持続するためでした。この介護問題に取り組む重要性と責任を果たすために、NPO法人を設立することにしました。
 また、法人格を取得することで、社会的に信頼を得ることができ、ヘルパーのための環境を整えることができました。介護保険の適応する介護サービスから、託児などの非該当サービスまで、それぞれの家庭で必要とされる様々なニーズに対して、幅広くサービスを提供することができるようになり、地域のいろいろな「困った」のお手伝いができるようになりました。


介護スタッフの心を動かした新しい可能性

 仮に従来の寄付によるNPO支援を行った場合、支援を受けた団体は経営が安定してサービスの充実が図れます。しかし、社会全体から見れば行政サービスの大枠の中での介護サービスの充実には変わりありません。変化の激しい現在社会においては、市民のニーズも激しく変化しています。「従来型のサービスの充実=すみよいまちづくり」とは、必ずしも言えません。最先端の現場にいる介護スタッフたちは、常にどのようなサービスを提供すればいいのか悩んでいました。行政ではできないサービス、ボランティア活動ではできないサービス、企業とNPOが協力して介護サービスを提供した時、介護のあり方にひとつの可能性が生まれるのではないかと考えました。両者が協働で立ち上げたNPO法人に、介護スタッフの夢と企業の思いをのせて、地域社会の介護問題に取り組みたい。西三河在宅介護センターの活動は、そんな熱い気持ちをもったスタッフたちに支えられています。


みんなで支える西三河在宅介護センター

 西三河在宅介護センターがスタートして、介護サービスを提供するようになってからも、当社独自の支援方法で従業員や市民を巻き込み、西三河在宅介護センターの活動を支えています。会社独自のネツトワークを活用して、西三河在宅介護センターのボランティア募集やヘルパーさんの募集の情報を社内に展開しました。これにより、多くの社員やその家族(特に子育ての終わった主婦の方など)の協力を得ることができ、介護サービスの担い手として新たな人材を発掘することができました。特に、定年間際の従業員やOB社員の方にも積極的に情報展開をし、多くの方の協力を得ることができました。これからの第2の人生を地域社会の中で過ごすOB社員に活躍する場を提供することもこれらの企業市民活動として大切な活動だと考えているからです。呼びかけに呼応した方々は、それぞれが送迎サービスや庭木の剪定など、自分の特技を十分に発揮して、定年後もいきいきと活躍しています。
 このように、西三河在宅介護センターを取り巻く活動により、当社の従業員が定年後、スムーズに地域社会へ溶け込み活躍することができるようになりました。これにより、「社会・自然との共生」がひとつ実現できたと考えています。
 この協働活動による社会的な成果は、
1.市民団体と企業が、がっちりタッグを組んだ新しい活動を提言
2.個々のニーズに応えることのできる、きめ細かい介護サービスの充実
3.多くの社員や家族、OB社員がまちづくり活動に参加
など、多くの成果があったと思います。
 誰もが安心して暮らせる、住んでいて嬉しくなる「ふるさと」の実現に向けて一歩ずつ近づいていけるようこれからも活動を継続していきたいと思います。